いつもの偽名で取られたホテルの一室。
ガラス張りの広い窓からソウルの街並みを見下ろすと、自分1人なんて本当にちっぽけな存在なんだなとしみじみと感じる。
そんな取るに足らない存在でも、大罪を犯す。もし世の中に知れ渡ってしまえば、世界中を揺るがすことになるだろう。

この部屋を取って私を呼んだ彼は、世界的スーパースターだ。



「ヌナ、」


『…グク、おかえり。』



おかえりと言うと嬉しそうに綻んだ顔のままこちらに近付く彼はジョングク。今やこの国を代表するアイドル。



「ただいま。待たせちゃいましたか?」


『ううん、さっき来たばっかりだよ。』



セリーヌのジャケットを脱いで雑にソファーに置いたグクに引き寄せられて、最も簡単に逞しい腕に包まれる。



『皺になっちゃう』


「いいですよそんなの。それより、」



掬うようにキスをされて、咄嗟にグクのシャツを掴む。



『ん、…っ、グク…』


「…は、…ごめん、ちょっと我慢して」



強く腰を引き寄せられたかと思うとソファーに押し倒されて、息継ぎをする間もなく何度も何度も角度を変えて唇が重なる。

1ヶ月と少し振りに触れた高めの体温が愛しくて、グクの首に腕を回す。私の髪に指を絡ませたグクは、もう片手で自分のシャツのボタンを緩める。



「会いたかった、ユリ…」


『ん…私も、会いたかったよ、グク。』



私達が会いたくても中々会えない理由は、グクが忙しいからという理由だけではない。

今日家を出る時に外してきた左手薬指の指輪。
私は、グクと出逢った時既に結婚していた。

愛はなかった。親同士が決めた、家の為の結婚。それどころか、気に食わない事があると手を挙げる旦那に心も身体も限界だった。
そんな時に出逢ったのがグクだった。



「っ…」


『…ごめん。やっぱり、電気、』



私のニットを胸元までたくし上げたグクが息を飲んだのが分かって、起き上がろうとした身体をまたソファーに押し付けられる。



「いつ?」


『え?』


「…いつの傷、これ、」


『……昨日の夜』


「だから、会うのやめようって言ってきたの?」


『……』


「…そんな気がしてた。だから心配で不安で、どうしても会いたかった。」


『グク…』



元々、今日会う約束をしてた私達。
だけど、昨日の夜にまた殴られて、こんな身体をグクに見られたくなくて、違う日に会おうと連絡した。



「俺、もう嫌だよ…。ユリがこんな酷い目に遭ってるの分かってるのに何も出来ないのも、こんな事する人の所に帰すのも、嫌だ…。」



顔を歪めたグクの大きな丸目には涙が溜まっていて、私の大好きな綺麗な瞳に浮かぶそれが嫌で、グクの顔を引き寄せて自分からキスをする。



『…して?グク…。グクの好きなように、何も我慢なんてしなくていいから、グクの全部が欲しいの。』


「…ユリ、」



また苦しそうな表情をしたグクは噛み付くように私の唇を貪る。