あの、紙飛行機を飛ばした日からはやくも五日が過ぎた
結局みょうじは連日俺の元を訪れ、何度場所をかえようとそのたびに見事にさがしあてた。いくら柳生を味方にしとるといってもこんなにみつかるのはさすがにおかしいんじゃが・・・・肝心のみょうじには聞いたってうまくはぐらかされるだけじゃし、柳生には下手にみょうじの話題をだしとうないし・・・
俺はもう諦めていた
事実、こいつといるのも悪くない・・・っておもっとる節も否定できん。弱味をみせたのは後悔しとる。一人になりたいときだってある。でも、どんなに俺がそれを態度に現そうと、みょうじは平然とそれを掻い潜り、自らのペースにひきいれる
・・・・とんだ強者がおったもんじゃ
しかも、今日は珍しく姿を現さんとおもえば・・・・
「仁王くん、突然だけどこのたびここは懺悔室になりました」
突然やってきてこれじゃ。
しかも、みょうじは屋外から顔をだしてきよる。しかも、俺を見上げるその笑顔には一点の曇りもない。
「・・・・・いいたいことはたくさんあるんじゃが・・・まず懺悔室っていうか、屋外なんじゃけど・・」
「いいからはやく!そこに座る!あと、ここ覗いたらだめだからね!」
みょうじのいうとおり、窓際に置き去りにされたままの席に座ると・・・・・みょうじは窓の向こうで壁を背に座り込む。おまけに、ここから入っちゃだめ、と指差したのは机じゃ。・・・・なるほど、微妙な距離を保ってさらにお互いの顔はみえん。即席にしてはむりやりでお粗末じゃけど・・・懺悔室の構造になっとる。
でも、ここ数日は二人でぼんやり過ごしてすこし会話をする程度で、みょうじはおとなしかったのに・・・・急になんなんじゃ。
予想をたてることはハナから諦めている。とりあえず、付き合う自分に自嘲ぎみた笑みを浮かべていると、いよいよみょうじが口をひらいた。
「仁王くんは・・・吹っ切れましたか?」
「・・・・・・・さあのう」
「吹っ切れましたか」
「・・・あー・・・・・吹っ切れた吹っ切れた」
よろしい、と呟く声をきいて肩をすくめる。とはいえ、俺がなにしようとみょうじからはみえていないはずじゃけど。
なるほど、意図はよめた。どうやら俺にあいつの話をしたいらしい。(こんな回りくどいことまでしてからに)
「・・・・・じゃあ、あのこをどう思っていますか」
「・・・・みょうじ」
「どう思っていますか!」
「・・・どうもこうも、大事な友達じゃ」
どう思っているか、
それは、周りだけでなく、俺ですら無意識に避けていた問題じゃった。
一度ブンちゃんに聞かれたことはあったんじゃが・・・・たしかそのときは友達だって返したんじゃ。ブンちゃんもそれ以上はきかんかったし、俺も黙っとった
あれから、あのまま時が過ぎた。・・・・・・なるほど、前に進めんわけじゃ。考えんことで、気持ちを閉じ込めることで、とっくに前に進めたもんだとばかり思い込んでたぜよ
みょうじはそれきり黙ったまま、しばらく静かな時間が過ぎた。俺はゆっくり、考えていた
なんで好きだったか、明白にこたえられるわけじゃない。むしろきっちり答えられる奴は少ない、とおもう
それでも俺はあいつの"友達"で、好きになって・・・同時に応援しとった。背中を、押した
それから、真田とあいつが付き合って、それで?俺とあいつは、友達のまま、じゃ。これまでも、きっとこれからも・・・ずっと
それでも、後悔はしとらん
そう、言いきっとった。それは今もかわらん。なら、なんで俺は、なにを引きずっとるんじゃ。
「いまの仁王くんに必要なのはきっかけでは?」
いつだったかの柳生の言葉を思い出した。あいつがこの件について口をだしたのはあとにも先にもこれだけじゃ。軽くながしとったけど・・・・・今ならわかる
「後悔なんかしとらん。それに・・・・・・真田に任せるって決めたんじゃ。心配されんでも俺はもう、」
心が一気に晴れ渡るっちゅーのはこのことじゃろうか
声にだすと改めてそう思った
たまらずに、みょうじが取り決めた境界線をこえて、窓のそとを覗いた。みょうじの反応がみたかった。それだけ。・・・・けど、驚いたのは、俺の方だ。
"そこ"に、窓のすぐ下で膝を抱えとったんは、みょうじじゃなかった。
「・・・なん、で・・・・・っまさか、だまし・・・」
「・・・・・・・・ごめん」
俺がこっちをみるな、という言いつけをやぶることは想定しとらんかったらしく、酷く驚いとるようにみえる。しかも、その頬には一筋の涙の跡。(この際みょうじの姿がみえないのはそれどころじゃないきに、忘れることにする)
聞くまでもない。きいとったんじゃ。俺の懺悔とやらも、さっきの言葉も。
・・・・俺はしらずに本人にべらべらとはなしとったっちゅーわけぜよ。乾いた笑みしか浮かんでこん。不思議な感覚じゃ。
「騙してごめん、それから、あの...仁王くんさえよければ、これからも友達でいてほしい」
「当たり前じゃろ、親友じゃき」
不安げに揺れる瞳が笑顔に変わった瞬間だった。
親友。逃げの言葉だって、いうだろうか。それでも俺は、十分だった。
それからの事は、正直よく覚えていない。
再び1人になって、静かな空間の中ひとり、がくりと力をなくしたまま項垂れる。
してやられた、とはまさにこのことなんじゃが・・・・・・ここまで綺麗にやられると、言葉もでん。大事なことに気付かされたって事実すらいたくも痒くもなか。
でも、文句をいわんわけでもなくて。
「・・・・・・もう、まーくんズタズタじゃ」
「でも、すっきりしたでしょ?」
戻ってきたみょうじはそう言って、小さな飴を差し出してきた。・・・・・ご褒美のつもりかなんか知らんが、こんなんで買収はされんぜよ。(そうは言ってもしっかりもらうんじゃが)
大体、万が一俺に未練があって、諦めとうないって言ったらどうするつもりだったんじゃ。
「・・・・・かなわん」
「なにが」
「なんもないきに」
まあ、結果オーライってわけじゃが。ただ、そこにおるだけでなにも触れないみょうじの存在は正直気がかりじゃ。
なにもかも見透かしているような、そんな行動ばかりとるくせに。かなわん、それは本心からの言葉ぜよ
「わたし、そろそろ戻るね」
「ん」
「・・・ありがとう」
いまだに外におったみょうじに手を差し出すと、面食らったような顔をした。(はじめてみせた表情にすこし優越感が沸き立つ自分がいやじゃ)
みょうじはおとなしく俺の手をかりて、窓枠をこえる。俺はその手をはなさんかった。反動ですこしまえのめったみょうじは、今度はぎょっとした表情で振り返る。
それでもはなしてやらん。
「お前さんが泣かせたんじゃき、責任もってそばにおって」
「・・・・・・・・いていいの?っていうか、泣いてるの?」
「一人で泣くよりましっちゅーこと」
口にだすと、はりつめた涙腺がどうしても緩む。普段の俺ならこんな姿みせんのに。・・・・・こいつには調子を狂わされてばかりじゃな。
仕返ししたいだけじゃき。実際に、簡単に涙をみせた俺に相当驚いとるようじゃし。・・・・・ほんとに、それだけじゃ
「しゃめとっていい?」
「高いぜよ」
「絶対元とれるよ」
「容赦ないのー」
みょうじが隣におることが当たり前になった
そんな変化にすら気付かないふりをした俺は相当素直じゃなか
20130723
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