・・・・そんなこんなで、結局、幸村さんから預かった本を返せないまま別れることになってしまった。
ちなみに、ケーキバイキングの方は宣言通り見事制覇。幸村さんの方がわたしよりもずっと食べていたのにけろりとしていたんだから世の中不公平だ。・・・あんな体のどこに入っていくんだろう。そんな疑問をもったのもいうまでもない。


それに、まさか幸村さんとあんなことになるとは思わなかったし・・・・。実はあれからすぐ、柳さんたちの知り合いの一人に偶然居合わせたりもして・・・・(しかもその人もあの日テニスクラブで見かけた人だった。本当に世間って狭い)
 ・・・・濃い一時間だったって、改めてそう思う。
だけどもまだまだ問題はこれからなのだ。一難去ってまた一難、といったところか・・・・。当然わたしの足取りは重い。




 さらに、考え事をしてるとき程道のりは短く感じるもので・・・・・もう目の前には見慣れた風景が並んでいる。
正直どうにかする方法をかんがえはした。・・・だけど、そう簡単に考えつくはずもなく。そうこうしているうちにも、いよいよ柳さんの部屋の前まで来てしまっていたのだ。

 結局、なにも話すことなんて考え付いてない。所謂行き当たりばったりというやつだ。・・・・もう、引き返すわけにはいかない、し。
今会ってしまえば、もやもやだって晴れる。・・・・ちゃんと会う理由もある。そう言い聞かせながら深呼吸をして、インターホンへと手を伸ばす。



「・・・・えっと、みょうじです」



 そうして、ドアからひょっこり顔をだした柳さんは当然酷く驚いているようにみえた。
わたしまでどんな顔をしていいかわからず、こくりと息を呑む。言わないと。そんな気持ちが後押ししたのか、言葉より先に例の預かりものを差し出すうでの方が先行してしまった。



「幸村さんに頼まれて・・・・あの、これ」
「精市が?ありがとう」



 ひとまず本を返すことはできた。上手く笑えているか、不安になる。けれど・・・・もうここまできたんだもん。わたしはほとんどやけくそになっていた。
・・・・・・とはいえ、それでも柳さんの顔を直視するのはどうしても勇気が足りないんだけども。



「・・・なにかおかしな事を言われたりは、」
「ううん、とってもいい人でした」
「・・・・そうか」



 柳さんは少し安心したようにそう言って・・・少しの間、沈黙が訪れる。
 なにか話そうか、黙っておこうか。すこし悩んだけれどもうわたしから口をひらく空気なんかじゃないのは察しの通りだ。結局は・・・流れに身を委ねることしかできない。そんな自分が情けなくて、柳さんにばれないようにこっそりとスカートの裾を握りしめたのと、柳さんが口をひらいたのはほぼ同時だった。反射的に小さく肩を揺らしてしまい、恥ずかしくなりながらも顔をあげれば当然、視線が交ざりあう。



「・・・・・・先日は、すまなかった」
「・・・・え?」
「傷付けてしまっただろう」



 ・・・・悲しそうな表情に思わずどきりとした。傷つけたって・・・・・このまえのこと?

 予想外のことばに、完全に言葉を失うわたしへ、気遣うような視線が向けられる。それだけでなんだかとてもこそばゆい感覚に陥るのは気のせいなんかじゃない。



「幸村さん、心配してました」
「・・・・・・・心配?」
「柳さんに元通り接してやってほしいって、言われたんです。・・・考えてみたら変なんですけど・・・・でも、気に掛けてくれたみたいで、」
「・・・・そう、か・・」
「そう、・・・それで、わたしも色々考えて!その、なんというか・・・・・・・仲直り、しませんか?」



 そういいおえてすぐ、後悔に苛まれたのは言うまでもなかった。
きまずかったといえど、元々わたしと柳さんはそんなような関係でもないわけで、仲直りって言葉自体きっと的を得てなんかいない。・・・元通りに戻りたいといった意味ではそうなんだけど・・・・違和感は拭えないのだ。だけど、気持ちの整理は大方ついた。仲直りしたいというのは・・・・本当のわたしの気持ち。

 とはいえ顔をあげるのにだって、かなりの勇気がいった。それでもわたしがしっかり柳さんを見据えることが出来たのは、"すこしの期待"からだ。



「・・・・みょうじさんは、元通り・・・で、構わないのか?」
「・・・・・・・・・わたしは、・・・・・・・・わたし、柳さんのこと、憧れてました。すき、でした」
「・・・ああ、」
「でも、どうにかなりたいとか・・・そういうんじゃなくて、一緒におはなしできるだけでも嬉しくて、楽しくて」



 それからは、不思議と言葉なんて考えなくともすんなりとはなすことができた。
すとん、と言葉がおりてくるのだ。そして、柳さんもちゃんとわたしの話を聞いていてくれるから、心地よくはなすことができる。



「だから、その・・・・・、・・・・・柳さんさえよかったらわたしは、元通り、」
「・・・・・・・元通り、とはいかないな」
「・・・・っ、」
「・・・・・・・・・妹、というと・・・なにか誤解を受けるかもしれないな。訂正を、」
「い、いもうと・・・・うれしいです、・・・妹!」



 柳さんとはお付き合いしたいわけじゃないんだもん。妹、ってだけでも十分嬉しかった。柳さんはなんだか抵抗があるらしく、喜ぶわたしを複雑そうな面持ちでみていたけれど・・・・そんなこと、きにもならなかった。



「・・・なら、仲直り、だな」
「はい!」
「それに・・・・・実をいうと、俺も考えていたんだ」
「・・・・・・柳さんが?」
「好きになられるのは困る、だからその前に・・・・とあんな行動をとったが・・・それから、少し変化があった」
「変化?」



 そう言われても、検討なんかつかずに首をかしげる。が、柳さんの言葉を待とうとも・・・それから一向に柳さんが話すこともないのだからわたしは益々疑問符を浮かべるばかりだ。それどころか、みつめあった結果、わたしが恥ずかしさに顔を背けるより先に柳くんがなにかを考え込んでしまったからわたしははっと息を呑む。

 柳さんといると、どうにもすこしのことで色んなことを考えるけれどそれは大体思い付かないまま不発に終わるわけで、むしろ柳さんがこんなに悩む姿をみるのははじめてだったような気がした



「・・・変化は変化だ」
「その変化ってなんですか!」
「形容し難いものだな」
「・・・・・・・聞いちゃだめなんですか?」



 だからこそ、気になるのも自然の摂理というもので・・・わたしは詰め寄るようにして半身を傾ける。柳さんがひそかに腰をひいたのを確認したら、負けじと視線を寄せれば眉はますます潜まるばかりだ。

 ・・・・これはもしかして、かなりわたしにとって有益なんじゃないだろうか
そう、思った。あくまで直感だけど・・・とりあえずきになるものはしょうがない。そういいわけをして、わたしは一歩もひかないことを心にきめる

 さっきは柳さんとお付き合いしたいわけじゃないっていったけど・・・当然、柳さんの気持ちが気にならないわけじゃないんだもん。



「言えませんか?」
「すまないな。口にだせる程まとまってはいない、というべきか・・・ともかく、理解していないんだ」
「・・・そう、ですか」



 すこし、いや・・かなり落胆したことは隠しようもなかった。けれど、柳さんを困らせるわけにはいかないわけだし。・・・そもそもわたしにはこれ以上うまく柳さんから言葉を引き出す自信もない。
 柳さんはゆっくりと息をつくと、こういう。



「実をいうと、避けられるのは少し、いや・・・かなり堪えた」
「・・・・・・・気付いてたんだ」
「毎朝会っていたんだ。気付くさ」
「顔、合わせにくくなっちゃって・・・・・ごめんなさい」
「その割には嬉しそうだな?」
「だって、柳さんがわたしのことを気にしてくれたから」
「・・・そうか」
「・・・・わかってますから!すぐには無理だけど、がんばります」



 柳さんを素敵だなって、思う気持ちは今は消えないかもしれない。だけどいつか、いつか・・・この気持ちを忘れて、笑えるようになってたらなって・・・今はそうおもった。

 そうして、わたしが笑うと柳さんもこたえるように笑ってくれて・・・・嬉しくなる。
だけど、改めて感じた差は大きくて。それはどうしようもないのに、わたしの心を占めるのだ。



「そんなに見つめて、どうした?」
「・・柳さんは大人だなあーって」
「俺はみょうじさんより少なくとも五年は長く生きているからな」
「・・・わかってますよーだ」
「・・・無理に大人にならなくともみょうじさんにはみょうじさん自身の魅力はある」
「っ、本当?」
「ああ。だからその為にも・・経験を積むことだ。・・・なんなら恋愛相談にものってやろう」
「・・・・それはいいですけど、・・・わたし、柳さん以上の人、みつけてみせます」
「・・・・・ああ、」




 柳さんはそういうと、悪戯っぽく笑う。わたしがわざとそんな事をいったのは、悔しさからだ。わかってた。わかってたけど・・・・・柳さんは何も反応をみせないし、それどころか顔色一つ変わらないんだからむなしさだけが残る。

 でも、"魅力がある"
そういってもらえたのは例え社交辞令だったとしても嬉しかった。それこそ本当に、隠しようもないほど!
 柳さんはそれすら気になんてしてなかったけど・・・これでいいって、そう思えた。
乗り越えなきゃいけない。それを柳さんは教えてくれた。だから、わたしはわたしに出来ることを。






柳さん、だいすきでした


20131010

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