自分の気持ちと向き合ってみれば
 これは先日、みっちゃんに言われた言葉だ。言葉にしたら簡単かもしれない。向き合ったふりをして、妥協や・・自分の気持ちにうそをつくのも、簡単。
 わたしは、わたしなりに考えた。たくさんたくさん考えたつもりだ。


 結果、柳さんへの気持ちもわからない。結局は宙ぶらりんのまま・・・・だけど、ひとつだけだした答え。
それは、
白井くんへの、こたえ。

 最初は信じられなかったし・・・いままでだって、ちがっててほしいなって、思ってきたけど・・・白井くんはわたしがすきで、みっちゃんは白井くんがすき、で。

 白井くんはわたしのことも応援するっていってくれた。妥協するなって、肩を押してくれた。
 ・・・・でも、わたしは白井くんを傷つけないようにって、逃げ続けてた。それってどれだけ残酷なんだろう。
 それならいっそ、





「うん、それがなまえのだした答えなんだよ」
「・・・・みっちゃん」
「でも、柳さんを忘れるいい機会だと思ったんだけどな。白井ならなまえも任せられるしさ」
「みっちゃん!」
「あたしはね、白井が最後の恋でなくていいんだから。いったでしょ、なまえと白井がうまくいっても応援するって」



 みっちゃんはそういって、わたしの髪をくしゃりと撫でる。みっちゃんの笑顔にどれだけ癒されてきただろう。



「みっちゃんは大人だなあ」
「柳さんの方が大人だよ」
「それはそうだけど」
「でもよかった。みっちゃんがいてくれて」
「まあ・・・あたし的には柳さんとの答えをだしてほしかったんだけどなあ」
「・・・・・それは、まあ、期待しないでほしいけど」



 曖昧な笑みをみせながらも、みっちゃんに見送られたわたしは静かに教室をあとにした。白井くんは校門でまってる。改めて気を引き締めて、・・・・なかないように。気休めにしかならないだろうけど、みっちゃんの笑顔を思い浮かべて、拳を握りしめた。



 それから、白井くんはわたしの姿をみつけるなり大きく手をふってくれて。その笑顔にまた僅かな胸のいたみを感じながら・・・・わたしもちいさく笑みをかえす。
 はじまりは、なんてことない雑談から。今日の授業がどうだったとか、みっちゃんの話だとか。白井くんとこんな風に話すのは久しぶり。



「あの、白井くん」
「おう」
「・・・あの、あのね」
「・・・おう」



 ふたりの間に緊張が走る。白井くんもなにかを察しているらしく、声がすこし震えているような気がした。

 わたしはもう一度息をゆっくり吸い込んで、そうして・・・
白井くんの気持ちには、応えられないことを、わたしの言葉で精一杯はなした。



「あー・・・・・・そっか、そうだよな」



 白井くんはそれだけ言って、今までみせたこともないような、弱々しい笑顔をみせた。・・・・結局白井くんを傷つけてしまった。だけど、もう逃げないってきめたから・・・しずかに向き直る。



「わかった。ちゃんと考えてくれてありがとな」
「・・・・ううん、」
「諦める努力、するけどさ・・・これからもみつこと俺とみょうじ、友達として仲良くなりたいんだけど・・・・だめ、か?」
「・・・・うん、大歓迎だよ。・・・ありがとう」
「な、なにないてんだよ!」
「っ泣いてない」



 ・・・・だめだなあわたし。わたしと、みっちゃんと、仲良く・・・。白井くんのいまの言葉に救われてばっかりだ。

勝手だけど、白井くんなら気まずくならないかもって思ってた。だけどやっぱりだめなんじゃないかって、もう笑いかけてくれないんじゃないかって・・・・・そんな風に考えて。
 なのに、白井くんはいまも、笑っていて・・・・・



「あーもー・・・・・・・名前」
「・・・え?」
「名前で呼んでもいいか?」
「・・・・うん」
「あと、最後にもういっこ」



 白井くんはそういって、わたしの髪に手をのばす。そうして、数回遠慮がちに撫でたあと・・・よし、と呟いて、背を向けてしまった。



 その後、すこしだけやりとりがあったものの・・・・・わたしは白井くんと別れ、帰路についた。別れ際、また明日っていってくれた白井くんの笑顔にじんとしてしまって・・・・うまく返すことができなかったのが心残り。


 ・・・なんて、ほんとは心残りなんかたくさんあるけれど、言ってしまえばきりがないだろう。
わたしは前を向いて、歩かなきゃいけない。・・・・白井くんが、みっちゃんが、そうしたように。


 みっちゃんに報告しようか悩んだものの、そんな気分にもなれず・・・・ひとまず、無事に伝えたことだけを連絡することに。
 そうして、すぐさま届いたみっちゃんのメッセージに頬を綻ばせながらも、わたしはひたすら色んなことを考えながら歩いた。

 ・・・・思い出すのは白井くんが最後にみせた笑顔。
 すると、なんだか妙に泣き出したくなって・・・・夕闇に染まりつつある空を見上げてちいさく息を吐いた。





 それから、なにをするにもなぜだか気が滅入ってしまい・・・結局布団に潜り込んだのはいつもならみっちゃんとのラインでのトークに明け暮れているような時間。

 学校で別れたばかりといっても過言ではないのに、どうしてこんなに次から次へと話が沸いてでてくるんだろうって・・・・自分でもそう思うくらいだったのに。
 今日はゆっくり休んでまた明日、というメッセージと共にみっちゃんのお気に入りのスタンプが送られ、わたしもそれに返事をしたのみだ。

 電気もけして、すっかり暗闇に飲み込まれた部屋でわたしはひっそりと息を呑む。

 高校二年生になって、ここで独り暮らしをするようになって思えばいろんなことがあった。
変わったのは、アルバイトをやめたことや・・・・実家からバスや電車を乗り継いで登校した距離だけじゃない。生活、環境、すべてがはじめてのことばかりだ。

 この町にやってきて、最初にいったのは小さなお菓子やさん。独り暮らしに浮かれて独り暮らし記念という名目で給料をおろして、いちごがたくさんのったホールのケーキを買った。・・・結局食べきるのにすごく時間がかかって最終日には味もわからなかったんだけど。

 それから、独り暮らしだからってはじめて自己記録を更新する夜更かしをしたり、いつもは叱られるからゆっくりお風呂にはいって半身浴をしたり、・・・・たまにはホームシックになったりして、お母さんに長時間電話したり。

 ・・・・柳さんに、出会ったり。
あのときはちょうど白井くんの騒動があって、改めて挨拶した柳さんの端正な顔立ちにみっちゃんと盛り上がったっけ。


 そんなとき、不意に視界にはいるのは正面のハンガーにかかった、ビニールにくるまれたままの夏服。
 まだ学生でいたいのに、その反面・・・柳さんをみているとはやく大人になりたいなって、強くおもったりもして。

 かんがえたって、途方もないことばっかりだ。わたしはぎゅう、と膝を抱えて丸くなるようにして寝返りをうつと、そっと目をとじた。





 もうすぐ、夏がやってくる


20140403

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