幸村さんから柳さんの誕生日を知らされたのは、今朝。・・・・・誕生日当日だった。知らなかったの?って、幸村さんは驚いていたけれど、知るわけないよ・・・・!柳さんのことは基本的な、それもかなり限られた情報しかしらないんだもん。


 どうしよう。今更考えたって遅いけど・・・・・なにかしたい!
・・・・本当ならプレゼントだって用意したいけど。さすがにそれはどうなんだろうか。簡単なお菓子、とか・・・・・ケーキ、とか?

 いやいやいや・・・残らないものがいいけど、ケーキはなんか彼女面してるみたいでいやだ。
わたしはただの隣人で・・・・・・・・・・・ただの隣人だった、
はっとして、結局ベッドにしずみこむ。なにかしたいのに、気をつかわせたくもないし・・・・・引かれるなんてもっての他。
 せめておめでとうの一言だけでも、
そう思って外にでたけれど・・・・・すぐに足を止めることになってしまった。
まさかそれだけのためにインターホンを鳴らせるわけないし、柳さんとここで偶然鉢合わせになる可能性はかなり低いのだ。

 それでも、出たからには足を引っ込めるわけにはいかず・・・・結局は、ばったり遭遇・・・を狙って角の自動販売機を理由に歩き始めたのだった。
人生ってうまくいかない。・・・ましてや、少女漫画のようになんて、なるわけない。
そんな風に考えながら柳さんの部屋を通り過ぎようとしたとき。たしかに階段をあがる足音をきいて、わたしは反射的に顔をあげていた。

 まさか、本当にばったり・・・・!?
一定のリズムを刻む足音は、ぴたりとこの階で止まって・・・・そして、角を・・・・曲がる。興奮やら緊張やらが混じって、平静を保てないわたしがみたのは・・・・・・・・・

 空に反射してきらきらと光る銀色。柳さんじゃない、そう瞬時に判断したものの・・・あまりにも目立つその男性を思わず凝視してしまったのだった。
幸村さんや柳さんとはまた違うタイプのイケメン。・・・・・どこかでみたような、そんな気がして・・・
 その違和感の正体がはっきり確信に変わったのはもう距離が随分と近付いた頃だった。
たしか、こんな感じのひとがあの日、テニスコートにいたっけ。思い出せたことに満足すると、つぎはその男性から無遠慮に注がれる視線が気になってしまい・・・自然と歩く速度ははやまっていく。

 そうして・・・・ようやくすれ違うって、安心しかけたときだ。



「ちょっとええ?」



 見慣れない風貌に、聞きなれない方言。すっかり萎縮しながら立ち止まると・・・・お兄さんはとっても楽しそうに口の端を吊り上げる。思わず後ずさりしそうになる足をなんとか押し留めたけれど・・・・この人が柳さんの知り合いだって認識していなければ今すぐにでも急いでますので・・なんて言い残して逃げ出してしまっていただろう。・・・お兄さんにそんな気はなくとも、それぐらいの威圧感を感じてしまう。



「・・・柳のとなりの、・・・・・・・」
「・・・・・・はい」
「ま、名前はええか」



 普段なら苗字を名乗っていたところだけど・・・・つい、警戒してしまった。けれど、お兄さんはそれを全く気にする様子もなくどんどん話を進めてしまう。
 内容は、柳さんに会わないか、といったもの。・・・先程までは偶然会うと息巻いてはいたけれど、友だちといる柳さんのもとへ突撃するなんて、出来るはずがない。
なのに!
最初に思わず用事はないと答えてしまったのが仇となり、わたしはすっかり連行され・・・・



「ブンちゃん俺じゃ〜女子高生拾った」
「はあ!?じょしこうせ・・・・・なまえちゃん!?なまえちゃんじゃん!久しぶり〜!」
「あ、えっと・・・丸井さん?」
「覚えててくれたのかよ!ま、立ち話もなんだしはいってけはいってけ」
「あ、ちょ、ちょっと!」
「赤也、座蒲団」



 さらに、部屋で待っていたのは丸井さんで・・・・眩しいくらいの笑顔を向けられてしまう。丸井さんとは前に幸村さんとケーキを食べにいった際にすこし話したことがあった。

 だけど、驚くことに中に柳さんの姿はない。
かわりに、部屋にいた黒髪の男の子がわたしに好奇の目を向けるのだからわたしはすっかり混乱に陥ってしまっていた。そうして、静かに立ち尽くすわたしにすわるスペースをつくってくれたのは丸井さんだ。



「あの、どうして・・・っていうか柳さんは、」
「柳ならあと一時間後に帰る予定!・・・あ、ここ使う許可はとってあるぜい!」
「誕生日パーティーの準備っちゅーわけじゃ」
「どーも!切原赤也っス!」
「・・・・ど、どうも・・・?」



 誕生日パーティー、その言葉をきいて改めて部屋を見回すと・・・テーブルにケーキをつくる途中と思わしき風景が広がっていることに気付いた。
 中心になっているのは丸井さんらしく、その手際の良さは思わず見とれてしまう。

 そんなわたしの肩を叩いたのは、あの銀髪のひと。切原くんによると、仁王さんというらしい彼はわたしに紙を差し出して・・・そうして、



「まあまあ、まずはここにサインでもして」
「・・・・・サイン?」



 なんのサインなんだろう。そうは思いながらもサインペンを受け取る。みたところ、画用紙かなにかの切れはしにみえるけれど・・・無理矢理二つ折りにしているような・・・・?
 流されるままに名前をかきおえて、小学生がお母さんに贈る肩たたき券ににてるなあ、なんてそんなことを考えていたときだ。
 仁王さんは確認するなりそれを広げ・・・・なにかをかきはじめた。



「・・・・なまえちゃん、ね。かわいい名前じゃのう」
「あの・・・それは・・・?」
「なまえちゃんとおでかけできるけん」
「!?」



 ちゃんとお出かけできるけん、とあらかじめ書かれた空欄にまんまとわたしの名前が書き写され・・・その下には今わたしがかいたばかりのサイン。
 肩たたき券の発想は近かったみたいだけど・・・肩たたきよりももっとたちの悪いものの完成だ。



「プレゼントいっちょあがりじゃ」
「き、聞いてないです!!」
「何事も確認せずに署名しちゃいかんぜよ。お兄さんとの約束ナリ」
「あっ・・・・!!」



 取りかえそうと手をのばしたところで紙はするりと仁王さんのポケットのなかへ。
 飽きれる丸井さんの傍らでさすが先輩!だとかなんとかって笑う切原さんがちょっぴり憎い。

 だって、相手か仁王さんだったんだもん・・・!有無を言わせないオーラがあるっていうか・・・まさかこんな事になるとは思わないし・・・!
それに、お出かけできる券、なんて・・・・・いい迷惑に違いない。・・・・・っていうか寧ろ相手にもされないかも・・・・?・・・・・それはさすがに辛すぎる・・・!




「慌てたり真っ青になったり、忙しいのう」
「誰のせいですか!それよりそれ!だめです返してください!!それにわたし、柳さんが帰ってくるまえに帰らないと・・・・!」
「マジ?遠慮することないのに・・・・って普通するか」
「悪いことをしたのう」



 それならやっぱりアレはなんとしても取り返さなきゃって・・・・思ったんだけど・・・・・・・・あれ・・・・?なんか流れ変わってる・・・・?

無理矢理つれてきたことを口々に謝る二人をまえに、わたしは歯切れのわるい返事を繰り返す。・・・頭の片隅には先程のとんでもないプレゼントのことが残ってはいたのに言い出せる空気じゃない。



「柳からお前さんのことはきいとったし、姿みてぴんと来たんじゃ。騙したりして悪かったのう」
「・・あの、わたしもお世話になってる柳さんになにかしたいなあって思ってましたし、だからその・・・びっくりしたけど・・大丈夫です、謝らないでください」
「そういうわけなら、俺らに手伝えることがあったらなんでもするぜい」
「それが・・・お世話になってるお礼にっていうのも・・・・・厚かましいかなあ、とか・・・・」



 ・・・とまあ、そんなこんなで三人共なぜか親身になって考えてくれて・・・わたしは思いの丈を話すこととなったのだった

 どうしてこんな風にしてくれるのか、それとなく聞いてみると・・・丸井さんはすこし照れながらも、テニスの試合で柳さんをみるわたしをみたからだって答えてくれて・・・・。わたしまで恥ずかしくなって顔に熱が集まる。おまけに、恋愛じゃなくて憧れだって主張しようにも聞き入れてはもらえずに話は加速し・・・・



「言われてみれば柳先輩のプレゼントは難しいっスね!」
「そういう赤也はなににしたんじゃ」
「俺?俺は図書券にしたっス!」
「無難じゃな・・・」
「無難すぎだろい」



 図書券・・・そういえば、わたしの傍にある本棚にはたくさんの本が並んでる。柳さん・・・・本が好きなんだ。

 背表紙をみたところでぴんとくるものばかりじゃないけど・・・なんとなく、並びも柳さんっぽくて・・・思わず頬が綻ぶ。



「・・・・うーん・・・・引かれない程度で喜ばれるプレゼント、かあ・・・」
「手頃・・・・柳先輩・・・・女子高生・・・プレゼント・・・・・」
「・・・・・例えば、ここにうっかりシチューの材料があるんじゃが」



 みんなが頭を悩ませるなか、仁王さんがぽつりとそういってキッチンを指差した。それだ、と、みんな揃って声をあげたのはいうまでもなく。
幸い、シチューならわたしでもなんとかなりそうだし・・・・!かくして、シチュー作りははじまったのだった。



「夕飯つくる手間が省けたぜよ」
「ピザ頼むって手もあったんスけど、これなら文句なしで喜ぶっスね!」
「薄味のピザなんてないしのう」
「・・・薄味?」
「柳の好物なんだよ。なにか薄味のもの」
「・・・・・アバウトだなあ」
「だろい?あ、でもシチューは普通にしてくれよ?」



 柳さんの好物!・・・しっかり頭にインプットしたものの、珍しい言い回しに再び笑みを溢してしまう。

 こうして、日が沈む頃にはシチューも完成し・・・丸井さんが手掛けていた大きなケーキも飾りつけの段階に。みんなで苺をのせたり、切原さんがチョコレートのペンで描く柳さんの似顔絵を見守ったりと・・・・あっという間に時間はすぎていった。
そうして・・・



「今日はありがとうございました」
「マジで帰っちゃうわけ?」
「気を使わせるわけにもいかねーだろい、こっちこそありがとな!」
「柳には感想きいちゃるき」



 柳さんが帰ってくる時間も近付いたというわけで、わたしはぺこりと三人に頭をさげて、部屋を後にしたのだった。
 ・・・・ちなみに、手には仁王さんがこっそりくれた学生時代の柳さんの写真を握って。


 ・・・シチュー、大丈夫・・・だったよね。みんなおいしいっていってくれたし。薄味にはできなかったけど・・・柳さん、喜んでくれるといいな。





その後、
なまえちゃんとお出かけできる券の存在を思い出してとてつもなく後悔したのはまたべつのはなし。
20140423


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