夏のはじまり。それは、突然やってきた。
空は青く、さんさんと照りつける太陽が眩しくて・・・やんわり目を細める。日焼け止めをたっぷり塗った腕を振り上げたわたしは、その向こうにみえる人物の名前を呼んだ。
今日はわたしの大好きな土曜日だ
「・・・・柳さん!」
土曜日は、唯一柳さんの帰りははやい。
それを知ったのは、割と最近。2週間連続で友達と遊んだ帰りに階段で鉢合わせし、そこで本人から得た情報だ。
・・・・夏ですね、って、なんとなしにわたしがそう言って・・・・柳さんも同調して。夏らしいこと、という話題のもと、わたしはまんまと柳さんと約束を取り付けたのだった
「俺まで呼んでくれてありがとう」
と、いうのも・・・・わたしの本当の目的はこのひとで。
柳さんの背後からひょっこり顔をだした幸村さんは、そう言いながら軽々とわたしの手から大振りのすいかを持ち上げる。・・・幸村さんって力強いんだ・・・!意外な事実に驚きながらも、素直に幸村さんの背中を追いかける。
きっかけはおばあちゃんが送ってくれたこのすいか。
幸村さんに色々お世話になったお礼がしたくて当初はケーキをご馳走しようと思ってたんだけど・・・でも、それだと気を使わせてしまうかなあとか・・・いきなり渡すのも・・・だとか、いろんな問題が浮上し・・・
偶然にも幸村さんがつい最近すいかを食べたがっていた、という情報をてにいれたのが決め手で今に至るわけだ。
わたしたちは早速すいかを切り分けて・・・アパートの裏手にある、小さな縁側のようなスペースに腰かける。
外はじっとり熱をもっているけれど・・・ここなら日陰な上に風遠しもよく、いざとなれば屋内から扇風機を持ち出すこともできる。いわば絶好の場所。
「なんかこの感じ、懐かしいね」
「そうだな、俺はすいか自体久しぶりに食べるぞ」
「あ、確かに」
「幸村さんはメロンっぽいイメージですしね」
「病人っぽいってこと?」
「ち、ちがいます!そうじゃなくて、えっと、」
「ふふ、冗談だよ」
しゃく、しゃく、と・・・夏らしいといえば夏らしい音があたりに響く。
隣には柳さんと、幸村さんがいて・・・・なんだか違和感を感じてすこし頬が綻ぶ。けれど、すいかを口に含んでいるから二人にはばれていないだろう
「・・・夏だな」
「ですね」
「あ、夏といえば・・・なまえちゃんはいくの?お祭り」
「友達といく予定です!幸村さんたちもいくんですか?」
「まさか、男だけで花火なんてみたくないよ」
「・・・あれ、幸村さんって」
「蓮二にもいないよ」
「どうして俺の話がでるんだ」
「なんか悔しいだろ」
「二人とも素敵なのに、あ、でもまだまだこれからですよ!」
すこし拗ねたようにしていう幸村さんが可愛らしくて・・・さらに、隙を与えずに答える柳さんがおかしくてついつい笑ってしまう。
・・・にしても
幸村さんにも・・・・・・柳さんさえいないのか
世の中って不思議だ。改めてそうおもいながらすいかを咀嚼していたわたしは幸村さんの視線がこちらに向けられていると、気付かなかったのだ。
「そういうなまえちゃんはどうなの?」
「え!」
「彼氏」
「い、いいいいいませんそんなの!わたしにはまだはやいし!」
「はやくないよ、ね?蓮二」
「・・・そうだな、なんでも経験は大切だ」
「あ、勿論割りきるべきところはあるよ?なまえちゃんならしっかりしてるし心配しなくてもいいかもしれないけどさ・・」
わたしの話になったときはどうしようかと思ったけど・・・それからは流れるように幸村さんの妹の話に。
・・・幸村さんの妹って、きっとすごい美少女なんだろうなあ・・・。それなら心配なのもうなずけるんだけど・・・
でも、いまの若い子は心配だ、って・・・・・・・・幸村さんも十分若いし!それに、わたしなんかそんな心配いらないと思うんだけど・・・・そうはいえずに曖昧にわらう。
「・・・あ、そういえばなまえちゃんは浴衣とか着るの?」
「友達のお母さんが着せてくれるって言ってて、」
「わあ、似合うだろうな」
「・・・ありがとうございます」
「蓮二、いこうよ。お祭り」
「俺は男だが」
「わかってるよ、俺やきそばとか食べたい」
「会えるといいですね」
「そうだね」
お祭り、かあ・・・。もし、二人に会えたら・・・・・必然的に浴衣姿を見られることになる。・・・そうおもうとすこし気恥ずかしいような、見てもらいたいような・・・複雑な心持ちだ。
ちらりと柳さんを盗み見るけれど、その表情からは勿論なにも読み取ることはできない。むしろ、目があってすこし微笑んでくれた柳さんに面食らう始末だ。
・・・・すいか食べてても美人だなんてどういうことなの、
「・・・あれ」
「どうしたの?」
「幸村さん、結構食べるんですね」
「そうかな?」
「バイキングのときも思いましたよ!なんだか羨ましいです」
「またいきたいね」
「あっ今度は柳さんも・・・って、甘いもの・・・・どうですか?」
「・・・・ああ、俺も興味がある」
「! じゃあ、いつかいきましょう!バイキング!」
「うん、約束」
柳さんとバイキング!・・・・あまり関わりがないといえばない関係なんだもん。たとえ現実にならなかったとしてもうれしい。
それに、頷いてくれたことだってゆめみたいで・・・。いつだったか、やんわり否定されたことを思い出したりなんかもして。・・・・もう夏なんだ、って改めてそうおもった。
「二人の空気、柔らかくなったね」
「え」
「なまえちゃんと蓮二だよ」
柳さんに電話がかかってきて、二人になった途端に幸村さんはそう言った。
耳を疑うような内容だけど、幸村さんがいうからには本当だろう。
「・・・よかった、うまくやれてますか?」
「なんだ、緊張してるの?」
「うーん・・・緊張、じゃないんですけど」
「だよね、楽しそうだもん」
「・・・はい、やっぱり柳さんといるのはうれしいです」
「・・・そっか」
思ったことを正直にいってみたものの、いったあとで恥ずかしくなって視線を泳がせる。
幸村さんはあんまり気にしていないようで、次のすいかに手をのばしている最中だった。
「幸村さん、今日は本当にありがとうございました」
「ううん、こちらこそ。おいしいすいかをご馳走さまでした」
柳さんがもどるまで、幸村さんから中学のときの話をきいたりなんかして。・・・もどってきた途端に二人で顔を見合わせて笑いあって、柳さんがそれをみて首を傾げたり。
しあわせな時間だって、改めてそうおもった。
「じゃあ、また」
「ああ」
「・・・・・柳さん?」
「・・・いや、元気そうでよかった」
夏の訪れが楽しみだなんて、柄にもないことを思ったのはきっと
20140616
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