浴衣ってどうしてこんなに色も種類もたくさんあるんだろう。
一番気に入ったものをみつけたところで次のページを捲れば一瞬にして振り出しにもどる・・
そんなことを繰り返しているうちに休憩時間は終わって、今日こそは、と意気込むうちにもう数日。今日に限っては放課後にまで続いている。
「やっぱりこれも捨てがたいんだけど!」
「それ昨日もきいた。あっこれかわいい・・・・」
「か、かわいい」
「・・・・でもこっちもかわいい」
「あああかわいい!」
・・・と、まあこんな調子でふたりの指先は留まることなくいったりきたり。
そんななか教室に顔をだしたのは・・・・
「あ、白井!」
白井くんだった。
白井くんとはあれきり、挨拶ぐらいはするものの・・・会話はできていない。顔をあわせたって妙な空気になって・・・わたしも、白井くんも、なにか言おうとはするんだけどお互いなにも言えずにうやむやになる、の繰り返しだ。
このままじゃいけないのはわかってる。だからこそ事情をしるみっちゃんにもいつも通り振る舞ってもらっている。
白井くんだって・・・・あの日、友達として仲良くなりたいっていってくれたんだもん。
・・・タイミングがないだけなのだ。きっと。
「部活?」
「や、今日は自主練」
「サボりじゃん」
「休憩だよ」
みっちゃんがちらりとわたしをみた。がんばれ、って、背中を押してくれたような気分になって・・・思わず息を呑む。
白井くんはこれまで頑張ってくれた。なら・・・今度はわたしが頑張る番だ、そう言い聞かせて顔をあげる。視線がぶつかりあうけれど、今度は逃げたりしない。
「っ、白井くん!」
「・・・どした?」
「みっちゃんの浴衣、一緒に選ぼう!」
「ちょ、ちょっとなまえ!」
ほんのすこし声が震えたのはばれてしまっただろうか。
明らかに驚いた顔でこちらをみて、そうして・・・・・白井くんの視線がわたしたちの手元にある、カタログに注がれる。
ほんの数秒がひどく長くかんじて、息が止まりそうだった。けれど、白井くんは笑いながら、こういったのだ
「・・・しゃーねーなあ」
#mtr3#
それから、白井くんは意外にも真剣に考えてくれた。
三人でわらいあうのは久しぶりで、まるで時間がもどったみたいで・・・すこし懐かしい。
それに、やっぱり男の子の意見がきけるのはうれしくて、つい真剣に耳を傾けたりして・・・
みっちゃんも、あんなに候補があったなかからいくつかに絞れたみたいだし・・・思いきって誘ってよかった。
「じゃ、俺戻るわ」
「ん、また明日ね」
「おう。浴衣、買ったらみせろよな!」
「うん」
部活に戻る白井くんを送り出して・・・・再び静かになった教室で、わたしたちはどちらからともなくため息をついた。どうやらみっちゃんも緊張してしまったらしい。
「・・・話せたじゃん」
「・・・・・・うん、よかった・・・・無視されたらどうしようかと思った」
「白井はそんな奴じゃないよ」
「だね」
もう一度息をつくと、残されたのは妙な達成感。白井くんはそんな人じゃないことはわたしだってわかってる。・・・・でも、不安が全くないわけではなかったのだ。
これで、すこしでもなにか変わるといいのに。そんな風におもう。
一方みっちゃんは相変わらずカタログを捲っていて・・・覗き込めば、そこには紺の生地におはながちりばめられたデザインの浴衣が大きく表示されている。・・・これは、たしか白井くんが真っ先に誉めてたものだ。
みっちゃんの女の子な一面が垣間見れて、思わずにやにやしていると、仕返しとばかりにふられた話題が・・・
「なまえはやっぱり柳さんがすき?」
「・・・・わかんない。けど、柳さんと一緒にいるのは・・・すき」
「そっかあ・・・」
柳さんとのことだった。
浴衣だって、本当ならすこしは大人びたデザインのものを選びたい。・・・けれど、柳さんはやさしいから、わたしがどんな浴衣を着ていたって誉めてくれるだろう。 ・・・・わたしなんて、妹のようなものみたいだし。
でも、すこしでもかわいいって、思われたい。・・・・それがわたしの正直な気持ちだ。
「・・あたしこれやめた!こっちにする」
「それって、」
「うん、・・・・白井がえらんでくれたやつ。わたしも目つけてたしさ」
「それ、わたしもみっちゃんによく似合うとおもう!」
「なまえはさっきのやつ?」
「うん」
そうして、結局みっちゃんが選んだのは、白井くんがぽつりと似合いそうだっていっていたデザインで。わたしも、二択で迷った末にみっちゃんが推してくれた方を選んだ。
・・・・とはいえ、結局は決定に値段が大きく関わったのはいうまでもなく。幸いわたしもみっちゃんも、去年バイトして貯めていた分でかえるものにして、その分小物は妥協しないことにきめたのだ
「絶対かわいいって思わせよ!頑張ろう!!」
「・・・うん!」
気合いの入ったみっちゃんに笑みを溢しながらも、わたしも深く頷いた。
・・・・白井くんやみっちゃんにも笑顔が戻ってよかった。それに、お祭りには柳さんもくる。・・・そう思うと、楽しみでしょうがない。
帰り道、さっそく浴衣が決まったことを報告しようとメッセージをうつけれど、結局柳さんには送れずに・・幸村さんに送信した。
こうすることで自動的に柳さんにも伝わる、そう思っていることはきっと幸村さんならお見通しなんだろうけど・・・柳さん本人に送るのはどうしても気が退けたのだ
しかし、変に思われないか悩んだのも束の間で・・・既読がついてすぐ、写メを要求する返事がかえってきて、すこし安心した。
勿論写メは送らずに、秘密です、とだけ返事をする。すると・・画面には駄々をこねるかわいらしい兎のスタンプが三つ並んで送られてきた。ほほえましい気持ちになりながらも何度かやり取りをして、携帯をしまう。
というのも、とあるお店で髪飾りをみつけたからだ。
浴衣に負けないくらいたくさん種類があるそれは、どれもそれぞれ魅力的なものばかりで・・思わず立ち止まってしまった。
目にとまるものはどうしても値段も張るものが多くて・・・・ため息をつきたくなる。・・・・一つくらいほしいのになあ。なるべくシンプルなものを選んでも、現実は厳しい。
さらに、傍らで仲良く選んでいるカップルの楽しげな会話が耳に届いて・・・複雑な気持ちになった。
いつかわたしも、なんて・・・・・・・・
「いつかはわたしもあんな風になりたいな〜・・・・・ってとこかのう」
「・・・っわ、・・・え、・・・あ、えっと」
「なんじゃ人を幽霊みたいに」
どうしてわたしが思ってることを、じゃなくて!
振り向いてすぐ、視界に広がる銀色。彼はぱくぱくと口を開きながら言葉を失うわたしをそれは楽しそうに眺めている。
「に、仁王さん!あ・・えっと、この前はどうもありがとうございました!」
「なんもしとらんよ。それより・・シチューのお礼に好きなん一個かっちゃるき、選びんしゃい」
「え!?こっこんな高いもの、」
「あっちのクレープじゃよ」
いいながら、仁王さんが指差したのは向かいにある屋台。・・・おかしいと思ったし、期待したわけじゃないけど・・・・一瞬本気にして必死に断りかけた自分がはずかしくなる。
なのに、一人テンパるわたしを差し置いて、仁王さんはもう離れた場所で手招きしている。
どうしようか一瞬悩んだわたしだけど・・・・仁王さんの好意を踏みにじるわけにはいかないし、ひとまずお金はきちんと自分でだそう。そう決断し、財布の中身を確認しながら慌ててその背中を追ったのである。
しかし、
「・・・・い、いただきます」
「子供は大人に甘えるもんじゃよ」
・・・自分で払いますってあんなに言ったのに。
クレープをえらんで、いざお会計をしようとしたけれど受け取ってはもらえず。店員さんが笑顔で指をさした先にはだした覚えのないクレープサービスチケットが二枚。隣をみればそしらぬふりでクレープを咀嚼する仁王さん。・・・・やられた!そう気付いたときには遅すぎたのだ。
こうして、できたてのクレープを受け取ったわたしは、仁王さんと共に近くのベンチに腰かける。
「今日で期限切れるとこだったからのう、ナイスタイミングじゃよ」
「そういう事だったんですか・・」「・・で、さっきあの店にいたっちゅー事は・・浴衣着るん?」
「・・・え、まあ・・・今度のお祭りに」
「ほお、・・・男?」
「友達です!女の子の!」
「なんじゃつまらん」
言ってくれればよかったのになあ、だとか。すこしだけそんな風に思ったけれど・・・口をつぐんでおく。
それに、仁王さんもいくんですか、とか・・・そんな無難なことを聞こうか悩んだけれどそれもやめて・・・黙々とクレープを口にはこぶ。
仁王さんなら彼女がいそうで、それがなんだか悔しいとか・・・寧ろ幸村さんや、柳さんにいないことが珍しいんだなあ・・・って、
改めてそう思ったりして・・・そんなとき。
ついつい考えこんでしまったわたしを現実に引き戻したのは、なんの前触れもなくわたしの髪に触れる仁王さんの手だった。
「魔法かけちゃるき、じっとして」
「・・・魔法?」
びくりと肩を揺らすと、まるでたしなめるような視線が注がれ・・・慌てて前を向けば、仁王さんは器用な手つきで髪をひとまとめにしていく。
どうにも仁王さんの行動は予期できない。改めてそうおもいながらも、わたしはただただじっと前を向いたままで・・。残り少なくなったクレープを食べようにも頭を動かすのもなんだか忍びない。
一体どうなっているのか、気になるのは山々だけど確認する術はなく、なんとかクレープをたべおえた頃。
仁王さんができた、とぽつりと呟いた。促されるがままに手鏡を取り出して確認すると・・・それはわたしが思った以上の出来で、丁寧に編み込みまで施されている。
「・・・すごい!仁王さんって器用なんですね!」
「魔法じゃき。ほら、いくつか試してみた方がイメージ湧くじゃろ?」
仁王さんに肩を押され、見惚れる暇なく向かいのお店へ。
さらに、浴衣の柄や色を伝えただけでぴったりの髪飾りを選んでくれる仁王さんのセンスにはかなり驚かされた。
気に入ったものはいくつかあったし、正直すごく悩んだけれど・・・
本当に悩んだけど・・・・!結局、買わずにいろんなものを振り切ってなんとかお店をでて・・・息をつく。
「ええの?」
「・・・・一晩悩んでみます。今日は色々ありがとうございました!」
「これぐらい、お安い御用ナリ」
明日、髪飾りは改めてみっちゃんとみにきて・・・あとは、この髪型も!やりかたなら少しだけ伝授してもらったし、家に帰ったら写真でも撮っておこう。
「上手くいくといいのう」
「・・・上手く?」
「こっちの話じゃよ」
「・・・・・・仁王さんは、その・・・・どうして・・・わたしに、」
「ここまでするのか、って質問なら答えは簡単じゃよ」
ぎくりとしながらも、じっと言葉を待つわたしと、仁王さんの視線とが交差する。
仁王さんはにんまりした表情を崩さずにいて・・一方わたしはすこし緊張した面持ちでいるにちがいない。
そうして、それから時計の針が一周程進んだ頃。
「俺となまえちゃんが偶然にも知り合いで・・・・なまえちゃんが一生懸命だから。ただそれだけじゃよ」
子供にするような手つきでわたしの頭のてっぺんをひと撫でし、仁王さんはそう言ったのだった。
なんだろう・・・すこし腑に落ちないんだけど・・・仁王さんらしいせいか、不思議と納得してしまい・・・結局、それきりなにもいえないままで別れてしまった。
夕映えが褪せて雲が灰色にみえるようなそんな空は、まるで今のわたしのこころのよう。
・・・だけど、ずっと先はオレンジに明るく染まってる。キャンパスのように融け合う空はきれいで、目を細めたままみつめた。
20140810
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