「・・・・・みっちゃんすごくかわいい」
「ホント!?ありがとー!なまえもかわいいよ!」



 いよいよやってきたお祭り当日。
まだ日が沈まない時間から待ち合わせたのに、プリクラや写真を撮っているうちにすっかり辺りは暗くなり・・・
 履き慣れない下駄の音を小気味良く響かせながら会場へ向かう。花火まであと二時間はあるけれど・・・会場はすでに人で賑わっていた。


 その列について、いつもよりもゆっくり歩きながら出店をみてまわる。
 そんななか、みっちゃんの頭に咲いた鮮やかな髪飾りが視界の隅で揺れて、小さく息を吐いた。



 ・・・・・実は、みっちゃんとおそろいで買った色違いの髪飾りを無くしてしまったのだ。

プリクラにははっきり写っているし・・たぶん、混雑した電車の中でおとしてしまったんだろう。
みっちゃんは戻ってみようって言ってくれたけど、わたしはそれを断った。

 ・・・・・勿論すこし落ち込んだけれど、今は折角のお祭りを楽しみたかったからだ。
りんごあめと苺飴とを真剣に迷っているみっちゃんに、わたしの頬も綻ぶ。



「・・・で、本当にいいの?」
「わたしは苺もすきだし・・・」
「そうじゃなくて!・・・・白井のこと!」
「寧ろわたしが謝りたいぐらいだよ?」
「っ!わ、わたしが一緒にきたいのは白井じゃなくてなまえなんだから!」
「ありがとう。でも本当に大丈夫!もうすぐ待ち合わせ時間だね」
「・・・髪とか、変じゃないかな?」



 実は今回のお祭りには一つ作戦があった。
 白井くんも一緒にまわる、っていう至ってシンプルなものなんだけど・・・みっちゃんにとっては大事件だったらしい。
 しきりに髪型や浴衣を気にするみっちゃんは本当に可愛らしくて、わたしの頬は緩みっぱなしだ。


 ちなみに、合流はもう少し歩いた先の広場だって伝えてある。近付くにつれ、顔が強張るみっちゃんを励ましながら歩いて・・・

 すこし先、わたしたちの姿をみつけて友達から離れる白井くんの姿をみつけたときにはわたしまでどきりとした。
 ・・・・みっちゃんと白井くんがうまくいきますように。



「・・よ」
「・・友達、いいの?」
「あいつらはいいんだよ。・・・彼女いるし」
「・・・・・そう」
「似合うじゃん」
「・・・ありがと」



 ・・・本当は照れてるはずなのに、さらりと言ってのけた白井くんも・・・・顔を赤くして俯くみっちゃんみるとすっかりおんなじように真っ赤になってしまった。
 ・・・・・・絶対に二人にしないで、ってみっちゃんからの前置きがなかったらふらりと居なくなりたいぐらいだ。



「よし、制覇しようぜ」
「わたし綿あめ!」
「俺からあげ!」



 暗くなるにつれ、人は増えていく。わたしたちは思い思いのものを食べながら・・・花火をみる場所を探していた。
 二人の様子はというと・・・・最初は照れがあったものの、もうすっかりいつもの二人に戻っている。
そんなときだ。



「なまえは柳さんにメール、しないの?」
「えっ!・・・し、しないよ!柳さんがきてるかどうかもわからないし、」
「じゃあ柳さんの友達の、」
「・・・幸村さん?」
「そう、幸村さんにメールしてみよう!」
「だっだめだよ!」
「お祭りきてます!みたいなの送れば行ってるか行ってないかわかるかもよ!」



 白井くんの前で柳さんの話をするのはなんだか気がひけて、こっそり様子を伺ってみる。・・・すると、意外にも白井くんの表情は変わらず。わたしの視線に気づいたのか、みっちゃんの意見に同意する始末だ。


 そして、勢いに負けて、そっと携帯をひらく羽目になったのはいうまでもなく。・・・・・期待しないってきめたんだから、がっかりしちゃいけない。そう言い聞かせながらも・・・メッセージの受信に気付いたわたしは小さく首を傾げた。



「・・・もしかして柳さん?」
「えっと・・・・・・・・・幸村さんだ」
「マジ?なんて?」



 気付かないうちにいくつか送ってくれていたらしく、新しいものから辿っていって・・・・・・はっと息を呑んだ。
のぞきこんだみっちゃんが小さな悲鳴をあげるのを、なぜか遠くに聞いた気さえした。

 お祭りにきてるよ、という文面の直後には隠し撮りらしい柳さんの後ろ姿の写真が添付されている。・・・・それも、お面を物色しているところだ。

 買ったのかどうかがすっごく気になるんだけど・・・もっと衝撃なのがそのあとだ。
5分置きぐらいにどのスペースの屋台にいる、だとか、たまに写真なんかも送られてきていた。

 どれも隠し撮りみたいなアングルなんだけど、中には仁王さんや丸井さんがピースしているものもある。



「・・・・ほら!これはいくしかないでしょ!」



 これって・・・・・もしかして誘導してくれてる、のかな?

 迷うわたしの肩を押してくれるのはいつもみっちゃんだ。浴衣姿をみせるだけなら、その言葉にわたしはこくりと頷いた。

 幸村さんの示した目印を目指してひたすら歩く。先程とはうってかわって、今度はみっちゃんがわたしを宥める番だ。・・・・どうしよう。胸が苦しいの、絶対浴衣のせいだけじゃない・・・・!



「む、無理だよこんな人の中から探すなんて!」
「でも、今ならまだわかりやすい所にいるみたいだしチャンスだって!」
「白井!もっとよく探して!」
「俺だってちらっとしか見たこと・・・・あ!」



 白井くんの視線の先に見慣れた顔をいくつかみつけたときには思わず息がとまりそうになった。

 奥にたたずむ仁王さんはにやなやしながらわたしをみていて、
こっちに気付いた幸村さんが手をふってくれた。
・・・それから、丸井さんが柳さんの肩をたたいて、こっちを指差す。

 柳さんが振り返る、その表情はよくみえないけれど、とりあえずわたしも手をふりかえす。
みっちゃんに肩を押されて、同じように柳さんもわたしの方へ近付いてきた。・・・ほんものの柳さんだ。ゆめなんかじゃ、ない。

 柳さんの目にわたしはどう映っているのかな。今日はいつもよりもお化粧に時間がかかっているし、浴衣をきるからってとびきり気合いをいれてる。それなのに、柳さんを前にするとそんな小さな自信はすっかり消えてしまった。



「・・・柳さん」
「こんばんは」
「・・・こんばんは、私服なんですね」
「はしゃぐ年じゃないからな」



 ・・・和服、すごく似合いそうなのに。そうは言えずに口ごもる。

 それに・・・・遠慮がちに向けられる柳さんの視線がくすぐったくて、どんな顔をしていいかわからなくなってしまいそうだ。



「どう、ですか・・・?」
「・・・ああ、とてもよく似合ってる」
「あ、ありがとう・・・・ございます」
「普段より大人びてみえるな」
「何歳くらいにみえますか?」
「・・・それは年相応だが」
「・・・・・・はい」



 ・・・・似合ってる、だって!大人びてみえるって!うれしくて頬が緩む。

 そんなときだ。不意に柳さんの向こう側、仁王さんが手を振っているのがみえた。・・・今さらどうして?そう思ったのと、仁王さんが背を向けたのはほぼ同時で・・・
 さらにその奥、すでに歩き出している幸村さんたちの姿をみつけ・・・ようやく異変に気付いた。



「・・・・あ、あの、柳さん!み、みんな」
「・・・・ああ、・・・・・成る程な」
「あ!みっちゃんまで!ちょ、ちょっとまっ・・・」



 幸村さんたちはもうすっかり人混みのなかに消えてしまったし、慌てて振り返ってももう遅く。さっきまですぐ後ろにいた二人は同じように忽然と姿を消していた。・・・・・ちなみに、携帯にはガンバレ、とだけかかれたメッセージ。



「やられたな。初対面だろうに大したチームワークだ」
「・・・・そうみたいですね。お、追いかけますか?」
「無理だろうな」
「・・・・・ですよね」
「・・・あとで合流するさ。だから・・・それまで付き合ってくれないか?」
「・・・・っ!」



 ・・・・・ゆめじゃない、よね
こくりとうなずいたあと、わたしと柳さんは肩を並べてゆっくり歩き出していた。

 ・・・・・・・・みんな"こういう"つもりであんな事をしたんだろうけど、柳さんは"そういう"つもりなんてちっともない。それなのに、さらっとあんな風に言えるなんて・・・・・・・・・やっぱり、柳さんの気持ちはいつまで経ってもわからないみたいだ。

 この状況は勿論うれしいけど・・・まずは拒否されなくてよかったって。そう思うべき、かな・・・・・すんなり受け入れられたのもそれはそれでちょっと複雑だし・・・・・うん、そういうことにしておこう。



「足は平気か?」
「・・・大丈夫です」



 小さな気遣いにすらときめいて、柳さんの顔を直視できないし・・・
それに・・・柳さんと、その傍らに揺らめく提灯の光が幻想的で・・・・・ざわめく声すらなんだか遠くに感じる。
 ・・・・どうしようわたし、いま人生で一番緊張してるかも・・・・・!



「お待たせ」
「ありがとうございます!・・・おかね、」
「・・・俺も食べたかったんだ、気にしなくていいさ」



 わたしに小さな石垣に腰かけるよう告げて姿を消し・・・数分後、戻ってきた柳さんの手にはわたあめが握られていた。
 お礼を言って受けとるも、緊張で味わう余裕なんてない。
さらに、そうはいいつつも柳さんが食べたのはほんの二口ほどで・・・やっぱり気を遣わせてしまったことを思い知らされた。



「足は・・・・・・平気、そうじゃないな」
「・・・ちょっと痛いけど、絆創膏貼ってあるし・・・大丈夫、かなあ」
「つくづく女性は大変だな」
「・・・でも、柳さんにみてもらえてよかった。ほら、ちょっとは大人びてみえるみたいだし」
「そうだな」



 言いながら、柳さんは可愛らしい袋をわたしに差し出した。最初はわたあめが入っていた袋なんだと思って、最近のは随分お洒落になったんだなあ・・・って、そんな風に思っていたけれど、よくよくみればなにか膨らんでいるのがわかる。

 慌てて顔をみたって柳さんはなにも言わずに袋を押し付けるばかりで。
導かれるがままになかを覗くと・・・



「・・・・・え、・・・こ、これ、」
「格好つけるつもりはないから白状するが、ここの出店で買ったものだ。高価な品ではないさ」
「で、でも!」



 わたしの浴衣の柄によくにた可愛らしい花がモチーフの髪飾りだった。
わたしの動揺をよそに・・・似合うな、と呟いた柳さんは早速わたしの髪に宛がいはじめる。そして、あっという間に髪に差して・・・・満足げに笑みを浮かべると。



「・・・我ながら完璧だな」
「なっ・・・・こんな、・・・ここまでしてもらうなんて!」
「・・・・この前の誕生日プレゼントの礼をしていなかっただろう」
「あ、あんなの!大したことないのに・・・!」
「とにかく、貰ってほしいんだ。突き返されて幸村に贈っては示しがつかないだろう?」



 幸村さんの方が似合いそう、だなんて・・・とんでもない事を考えて慌てて口をつぐんだ。
・・・・喜んでもらえたらって、柳さんはそういうけれどわたしにしてはとんでもない事なのだ。でも・・・柳さんの言う通り、返した所でどうにもならないし・・・



「お気に召さないか?」
「・・・・嬉しいです、すごく。」
「そうか」



 鏡を持ってこなかったことをこんなにも後悔したのは初めてだったかもしれない。そっと携帯を取り出して、画面をのぞきこむけれど・・・・満足にうつらずにため息をつく。


 頬に集まる熱も、柳さんのやさしさの意味も・・・・・・今は全部気付かないふりをしよう。いつもそうだった。なんでもない、わたしの柳さんへの気持ちは憧れ。
・・・・・・だけど、今日だけは
呪文のようにそう唱えて、再び柳さんの隣を歩く。足を進めるたびに髪飾りが音をたてて揺れて・・・・・・それがどうしてか、わたしに勇気をくれるような気がした。



20141002

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