夏祭りの終わりは、いつもなんだかちょっとだけ寂しい。
花火が終わった途端に帰るお客さんだとか、静けさだとか・・・そんな景色を眺めているとどうしてもそう思ってしまう。
しかし、そんな余韻にひたる暇もなくなんとかみっちゃんや幸村さんたちと合流し、別れたのであった。
夢から覚めたあとみたい、
そうぽつりと呟いたみっちゃんの横顔はなんだかぼんやりしていたけれど、決して悪い意味じゃないのは表情からすぐにわかった。
「・・・おはよ」
「おはよー」
次の日、登校して顔を合わせるなりにんまりにやけたわたしとみっちゃんは早速昨日の報告会を始めたのである。
お互いにきゃあきゃあと騒いで撮った写メなんかを見せあったり。・・みっちゃんと白井くんもうまくいったみたいで、わたしまで嬉しくなる。
そうして、盛り上がったのが・・・例の話だ。
「よかったじゃん!!」
「・・・よかったのかな?」
「だって、キスされそうだったんでしょ?それって・・」
「わーやめて!期待したくない!」
「期待もなにも柳さんもなまえがすきってことでしょ!」
「・・・そうなのかな」
興奮ぎみに捲し立てたみっちゃんはうっとりした表情でいいなあ、といったきり黙り込んでしまう。
・・・・柳さんが、わたしを。・・・・・ちょっとだけならそう思えるかもしれないけど、よく考えたらありえないような、そんな気がして結局わからなくなる。
「・・・・もしかしてゆめだったのかも」
「えーでもほら!髪飾り、もらったんでしょ!ゆめじゃないよ」
「・・・・・そっか」
「まあほら、一緒に花火みれたのはいい思い出になったでしょ」
「・・・うん」
そういえば、昨夜改めてお礼のメールをしたらきちんと返事がきたんだった。
夢でも困るけど・・・夢じゃなくても困る・・・!
・・・・あの時、あの視線の意味を尋ねていればなにか変わっていたんだろうか。ぐるぐると回る意識のなか、みっちゃんに声をかけられて慌てて顔をあげた。どうやら担任の先生が来てしまったらしい。席替えをしたおかげでわたしとみっちゃんの席は前と後ろで、手紙のやりとりなんかがずっと簡単になった。
席が離れてしまった友達から口々にお祭りの話をするようにせがまれ、頷きながらも慌てて席につくとさっそくみっちゃんから小さな紙切れが回ってきて、すこし頬が綻ぶ。内容は白井くんとの事で・・・余計に嬉しくなりながら、余白にペンを走らせた。
#mtr3#
今日はすこし帰りが遅くなってしまった。というのも、友達とすっかり例の件で盛り上がり、遅くまで話し込んでしまったせいだ。
柳さんは最近普通よりも細い、かっこいい自転車を買って通勤に使っている。運動不足だからだと、笑って話していたその体に脂肪なんて見当たらなくて、なんだか悔しくなったのはまた別の話だけど・・・
おかげで駐輪場をのぞくだけで柳さんの帰宅状況がわかるようになったのはちょっとだけ嬉しくもある。
今日も、きちんと施錠された自転車が停まっているのを横目に階段をのぼる。
同時に、柳さんの部屋の前に差し掛かると途端に歩く速度をおとすのもすっかり癖になってしまった。
実をいうと・・・すこし前に柳さんの部屋がある方の壁に耳をぴったりつけてみた事もある。直後、自己嫌悪に陥って一人落ち込んだんだけど・・・なんていうか、ストーカーの素質があるかもしれない。自らそんなことを考えて、再び項垂れる。
・・・なんでこんなに好きになっちゃったんだろう。気持ちを振り払うように早足で帰宅し・・・壁を背に、ため息をつく。
今日はさっさとご飯もお風呂も済ませて寝てしまおう。そう一人決意した直後だ。インターホンが鳴り、ぬぎかけたセーラー服に再び腕を通す。こんな時間に誰だろう?淡い期待を振り払い、そろりとドアを開けたわたしははっと息を呑んだ。
「こんばんは、夜分にすまない。・・・・誰か来ているのか?」
「・・・・こんばんは。えっと・・・これは、その・・・今帰ったばかりで」
「成る程な、・・・さては、補習か?」
「違います!」
笑みを浮かべる柳さんにどきりとしながらも、慌てて否定する。
変な所、ないっけ・・・!?部屋・・・ちょっとみえてる、よね?この前片付けたばかりだし、大丈夫だと思うんだけど・・・気持ちとは裏腹に、背中にひやりと汗をかく。
それに、急にどうしたんだろう。そう考えかけた所で柳さんの手に握られたボードをみてすぐにぴんときた。
「・・・回覧板、ですか?」
「その通りだ。至急回すとの事でな、急に押し掛けてすまない。」
「いえ、・・・柳さん?」
「いや・・・・・・・制服、だな」
「あ、ああ!・・・朝、いつもみてるでしょう?」
「近くでみるのは初めてだ」
視線を感じて問いかけてみれば、返ってきた答えは予想外のものだった。柳さんはわたしのてっぺんから爪先をみながら感心したように続ける。・・・・改めて言われるとどうにも気恥ずかしくなる。肌に熱が帯びて、ひんやりとした廊下や壁に触れた部分はここちいい。
最初に比べると柳さんと話す機会も随分増えたというのに、いつまでたっても慣れないらしい。緊張の末、少し裏返った声は嫌でも頭に響いて、余計に頬をあつくした。
「学生らしくて良いな」
「どういう意味ですか」
「そのままの意味だ、すこし懐かしいな」
目を細める柳さんの視線の奥・・・ずっと奥にうつるのは一体だれなんだろう。・・・誰を懐かしんでいるんだろうか。恐らくいたであろう学生時代の彼女の存在にすこし胸が苦しくなるけれど、またすぐに罪悪感やらなにやらに変化を遂げた。
・・・・だから、そんな事を考えてどうする、わたし。単純に懐かしんでいただけかもしれないんだから。
そこまで考えて、以前仁王さんが柳さんの学生時代の写真を見せてくれるって言っていたのを思い出す。・・・今度会ったらまずはこの前のお礼と報告をして、こっそり聞いてみよう。
「じゃあ、邪魔をして悪かった」
「あ、・・あの、柳さん!」
「どうした?」
「えっと、・・・用は、ないんですけど」
「また悩みごとか?」
行かないで、なんて。言えずに飲み込んだのは誰にも秘密だ。一緒にいたくて引き留めただなんていえないし・・・・
思わず呼び止めたものの、次の言葉が思い付かずにまごつくわたしを、柳さんは優しい眼差しでみている。
「・・・えっと、」
「ああ」
「・・・柳さんの好きなもの、ききたいです」
「随分急だな」
「だめですか?」
「・・・そうだな」
柳さんのすきなもの。とにかく話がしたくて、思わず聞いてはみたものの・・・意外にもたくさん単語が飛び出した。・・なにか薄味のもの、純文学、図書館、テニス。並ぶ単語はどれも柳さんらしいけれど・・・好きな食べ物だけはどうしてもイメージが沸かずに少し笑ってしまった。
「・・・それに、花火、だな」
「花火?」
「ああ」
一呼吸置いて、すこし考えるような仕草をみせたあと、柳さんは穏やかな口調でそう言った。消え入りそうな声でした返事は虚空に消え、しばらく沈黙が訪れる。・・・けれど、決していやな沈黙なんかじゃない。
花火。脳裏に浮かぶのは昨日みたばかりの景色だ。頭に強くやきついてるそれは・・・柳さんが今、思い浮かべている景色とおなじだったらいいのに。そう、強くおもったけれど今は聞けずに俯いた。
記憶の片隅では浴衣をきたわたしが柳さんに寄り添い歩いている。・・・花火が照らす二人はすこしでも恋人同士にみえただろうか。
そんな途方もないことを考えては、振り払うように向き直る。すると、視界の片隅でセーラー服の裾が小さく揺れた。白に濃紺の線が入ったそれはまるで境界線みたいだ
「また、花火をみにいこう」
ふわふわした意識のなか、柳さんがぽつりと呟く。うれしいのに、喜んでいいはずなのに・・・・なんだか悲しくなったわたしは、ほんの少し笑顔を浮かべて頷いた
20150527
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