事の発端は、やはり幸村さんの一言だった。肝試しがしたい。そんな漠然とした提案に、みんなが思い浮かべたのは先月工事が取り止めになった竹林だ。ただ、雰囲気がかなり本格的なその場所は、工事の一件によりすっかり心霊スポットになっている。
実際にみた、なんて話はきかないけれど、昼間にみてもどことなく嫌な雰囲気を醸し出すそこは肝試しにはもってこいなのだ。
・・・・・と、まあそんな幸村さんの唐突な提案にもきちんと思惑があって。今回はみっちゃんと白井くんを急接近させるのが本当の目的らしい。そうそっと耳打ちされたわたしはすぐに幸村さんの支配下となり、二人を誘ったというわけだ。
今回集まったのはわたし、柳さん、仁王さん、幸村さん、白井くんとみっちゃんの6人。
ルールは簡単で、懐中電灯片手にすっかり暗くなった竹林の半ばにある広場に置かれたとあるアイテムをとって戻ってくる。ただそれだけだ。
一番をひいたみっちゃんと白井くんが入っていくのを見送ったわたしは、幸村さんとこっそりアイコンタクトをかわす。
ひとまずここまでは成功だ。あとは・・・・手元に握る二番の紙を握りしめ、残りのみんなに声をかける。
「それじゃあ二番は・・・・」
「俺だな」
「俺は、仁王とだね」
「ピヨ」
わたしの呼び掛けに応えたのは、柳さんだった。どうやら彼がわたしと同じ、二番をひいたらしい。
こっそり幸村さんをみれば、意味深な笑顔を向けられる。・・・こうなる予感はすこしだけしてたけど、いざ対面すればやはり緊張がはしる。
なんとか平静を保って笑顔を向けると、柳さんも穏やかに微笑んでいた。
「ねえなまえちゃん、ここの噂・・・知ってる?」
「・・・・い、いいです遠慮します」
「つれないなあ」
「まだみつかっとらんのじゃって?」
「・・・ああ、ずっと探しているそうだ」
「仁王さんに柳さんまで!」
やめてといいつつも、半端に聞いたんじゃ気になるばかりだ。しかし、なにがみつからないのか問い詰めるけれどはぐらかされ・・・・痺れを切らしたわたしが拗ねて口を閉じた所でようやく冗談だって宥められた。・・・・この人たちはこういう時ばかりチームワークがいいのだ。
不貞腐れていると、不意に柳さんが腕時計を覗く。
「10分経ったな、そろそろ行こう」
「そのさらに10分後に俺達が行けばいいんじゃな」
「・・・・え、も、もう・・・!?」
「腰を抜かさないようにな」
「や、柳さんこそ!」
改めて暗闇の向こうをみつめて、懐中電灯の光を頼りに一歩踏み出す。
月明かりでなんとか柳さんの表情はわかるものの、怖くない、といえば嘘になる。
途方もなく続く暗闇をみていると、どうしても不安になる。
「もしかして苦手だったのか?」
「え?」
「難しい顔をしているぞ」
「大丈夫、なはずなんですけど・・・・暗闇はこ、こわい、です」
「俺と散歩してるだけって思えば案外平気・・・・って言いたい所だが、雰囲気は想像以上だな」
それから、柳さんは怖がるわたしに気を使ってくれたのか・・・・いろんな昔話をしてくれた。幸村さんのこと仁王さんのこと、それから真田さんのこと。特に真田さんとはまだあまり話したこともないのに、厳格なイメージが随分と柔らかくなった。
柳さんたちと同じように学生生活を送っていたらもっと楽しかったのかな?・・・同じように柳さんのことを好きになってた?同じ年頃だったら、柳さんだって
「みょうじさん」
「・・・・はい?」
「そこは足元が段になっているようだ」
「・・・ありがとうございます」
「結構歩きづらいが、平気か?」
「はい!」
・・・考えないようにしないと。いつもと同じ笑顔を前に、そっと拳を握る。せっかくの肝試しなんだから。そう意気込んでわたしが口を開いたのと、辺りが暗くなったのは同時の出来事だった。
「・・・わ、・・・・や、柳さん?」
「・・・・・・電池切れのようだ」
電池切れ。頭の中で反復し、息をつく。スイッチを何度も操作する音だけがあたりに響くなか、わたしはじっとそれを見守る。目が大分慣れたおかげでなんとか状況がわかるものの、やはり周りを見渡すのにはかなり勇気がいる。
夜ってこんなにも静かで、真っ暗だったんだ。小さく聞こえる衣擦れの音にすら心臓がはねあがる。おかしいな、その一言を最後に柳さんは黙り込んでしまい・・・・待てども静けさが広がるばかりだ。
「ひとまずはこれで凌ごう」
そう言って、柳さんが取り出したのは携帯だ。懐中電灯の機能を使えば十分に明るい。ほっと息を撫で下ろすと、肩の力も大分抜けたような気がする。
「そこを抜ければチェックポイントがあるはずだ。それからすぐにゴールはみえるさ」
そっと手を差し出され、戸惑いながらその手をみつめると催促のように揺らされる。
・・・・暗いし、足元は歩きにくいし、・・・・怖いから。・・・・他意なんて、ない。そう言い聞かせて、そっと手をとった。
・・・柳さんと出会って、いろんなことがあったなあ。一人舞い上がって落ち込んだり・・・不審者から助けてもらったり、お祭りに、花火。それから、今日の肝試し。
本当に、常々思うけどまさか柳さんたちとこんな風になるなんて思ってもみなかった。一度幸村さんにはきちんとお礼を、
「・・・・あれ?なんか、聞こえません?」
「・・・驚かし合いか?それならとっておきの話があるが・・・」
「そっそうじゃなくて本当に!」
お互いに黙り込んで、顔を見合わせる。
微かにだけど・・・たしかになにか物音がした、ような。気のせいだったのかも。そういいかけて再び口をつぐんだのは、やはりなにか妙な音がしたからだった。
柳さんもわたしとおなじように、音がした方をじっとみている。自然と、つないだ手にこもる力は強くなる。大丈夫だといわんばかりに握り返してくれるけれど、その表情は真剣そのもので。
「様子をみてこよう」
「まっ、・・・ひ、一人にしないで・・・・・くだ、さい」
離れていく手を迷わずに掴む。いま、一人にされたら死んでしまいそうだ。っていうか、この流れは怖い話によくある様子をみにいった人が戻ってこないやつ。・・・それは絶対にいやだ。
「こういう話を聞いたことがあるな。こうして胆試しをすると、いつのまにかメンバーの中に見覚えのない顔が・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・顔が真っ青だが」
「だ、誰のせいですか!・・・そもそもなにかでそうな雰囲気っていうのが怖いんですよね」
「この辺りは昔・・・」
「柳さん!!」
・・・意外と意地悪なんですね、そう告げると柳さんは心外だと笑う。笑い声があたりに響くと同時に、自然と緊張もとけていく。
かなり歩いたから、もうすぐ折り返し地点に着くはずだ。
「・・・・あ、柳さん!」
「・・・珍しいな」
ほっと一息ついて、不意に空を見上げて思わず声をあげた。木々にぐるりと囲われて、ぽっかりとあいた空間にちょうど星空がみえていたのだ。満点の星・・・とはいえないけれど、真っ暗な空に輝く星は素直に綺麗だと思った。
同じように空を見上げる柳さんの横顔を盗み見て、胸が脈打つ。
「・・・告白するにはいいムードだな」
「・・っみ、みっちゃんと白井くん・・・うまくやってるかなあ」
そうだな、そう相槌をうってまたあるきだす柳さんに続いて足を踏み出した。・・・・慌てて取り繕ったものの、動揺しているのはわたしだけのようだ。ついでに繋いだ手も離ればなれになってしまったけれど・・・・もう一度繋ぐ勇気なんてなくて、ただ手のひらを目で追いかける。
星はあんなに綺麗に輝いているのに、なぜか作り物のようにみえた。
「ここだな」
「・・・・ここが、チェックポイント」
それから、たどり着いた広場のような場所にぽつりと目立つ切り株をみつけたわたしたちはようやく安堵のため息をついた。
これでようやく折り返し地点だ。幸村さんか仁王さんかが用意したであろう変わった形の石を拾い、柳さんに笑いかける。歪な形のそれは、みようによってはテニスのラケットのようにもみえる。これをもってゴールすれば、肝試しは終わりだ。
「・・・夏が終わるのは早いな」
「そうですね。今年は楽しかったなあ。来年は・・・・受験、かあ」
「・・・そうか、そんな時期だな」
「・・・・・・・そうですね。また、来年も一緒に・・・なんて、・・・・勿論勉強もしますけど・・・」
「そうだな。息抜きも必要だろう」
「・・・・またすいか食べたいな、花火もやりたい」
ぽつりと呟いたわたしに、柳さんは穏やかな表情で頷く。
もうすぐ夏が終わる。わたしにとってそれは、大きな意味をもっているのだ。・・・来年は受験生だから、きっと今年のようにはいかないし・・・・進路のことだって、たくさん悩むだろう。そう思うとすこし、寂しくなる。
「この前のがまだ残っていたな」
「湿気っちゃいますよ」
「ならまたとびきり大きいのを買おう。思いのほかすぐに終わっただろう」
「・・・柳さんって時々子供みたいですよね」
「まだ大人になりきってはいないさ」
「・・・いいなあ、わたしも大人になりたいな」
「・・・寂しいものだな」
寂しい?そう聞き返した所で柳さんは曖昧にわらうだけで答えてはくれない。
・・・・・どっちの意味だろう。寂しいって思ってくれたなら。・・・それは、とってもうれしいのに。
気持ちは足踏みしたままなのに、期待するし。いまだって、手をつないでドキドキしたりして。・・・・宙ぶらりんだ、なにもかも。不意に、体の中心から冷えていくような感覚に陥って・・・ゆっくり息を吐く。
「・・・来週、予定はあるか?」
「ない、ですけど」
「そうか。・・・・なら、どこか行かないか?」
立ち止まったわたしを振り返る柳さんは真剣な顔をしていて、なぜかわたしは他人事のようにその光景をみつめていた。
夜はしずかで、息をするのも億劫になる。
まるで、時がとまったようだった。わたしも、柳さんも、すこしの間動けずにいた。
20150922
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