二人きりの部室。着替えを終えた柳生はベンチに、それからまだユニフォームに身を包んだままの仁王はロッカー前に佇んでいた。



「・・・・と、いうわけなんじゃ」
「そういう事でしたか」



仁王がたった今、柳生にはなしたのは・・・・・みょうじなまえとの出会いのはなし。柳生を信頼している彼だからこそ、相談を持ちかけたのだ。

紳士と呼ばれる柳生は、ただただその状況を楽しむかのようにほくそ笑む。一方仁王は、近くのベンチに座り込み、ふてくされたように頬杖をついた。

なまえに柳生を好きになった理由をきいたのは、興味本意だった。だが、その話を聞いて思い出したのは・・・・仁王自身の、とある日の出来事。



「イリュージョンがこんな形で仇になるとはおもっとらんかったぜよ」
「ですから私はとめたんです」



ため息をつく柳生をちらりとみて、しょんぼりと項垂れる仁王の姿に普段の余裕はみえない。

・・・・あの日、なまえを助けた柳生の正体は、イリュージョンをした仁王だったのだ。



「その日はなぜ私と入れ替わっていたんです?」
「・・・・・わからん」
「そこで偶然みょうじさんを助けた、と」
「そういうわけじゃ」
「普段は面倒事にはかかわらないでしょう、それが一体どういう風のふきまわしで彼女を助けたんです」
「・・・・・柳生になっとったからのう、ほら、紳士じゃき・・・」
「気紛れだったんですね」
「・・・・・」



仁王はわかりやすく口を閉ざす。その横顔からは諦めすら伺えるが、真実はべつにある。

偶然柳生に扮した仁王が中庭に訪れ、そこで・・・・上級生に絡まれるなまえと出会って。
怖じ気つかずに、小さな体でじっと相手を見据えるなまえの横顔をみて、勝手に足が動き出していた、というのが理由だった。



「その気紛れで柳生をしるきっかけをつくって、惚れさせてしもうたんじゃよ」
「・・・・それで、どうするおつもりなんです」
「なにがじゃ」



しずかに振り向けば、鋭い視線をうけて、仁王はすこしたじろいだ。それを柳生が見逃すわけもなく、さらに語尾をつよめる。



「まさか、私にイリュージョンをして告白しようなどと考えていないでしょうね」
「・・・・お前さん、いい性格しとるのう」
「なんのことやら」



仁王が思い出すのは、先日、なまえと過ごした一時のこと。あの優しく髪を撫でる手の感触と、柔らかな笑顔が脳裏からはなれそうにはないのだ。



「・・・・・なんで好きになったんじゃろうなー」
「・・・・おや、仁王くんにしてはえらく素直ですね」
「しょうがなかろ、想い人が親友を好いてるんじゃ、焦りもするきに」
「しかし、みょうじさんはどうなる気もない、と仰ったんでしょう」
「それが余計に切ないんじゃよ」


口元に弧を描いて、仁王は自嘲ぎみにわらう。そんな仁王を、柳生はもうわらうことなどできなかった。

それからすこし、沈黙がつづいて・・・・
ゆっくりと、柳生がくちをひらく



「・・・・で、どうして好きになったんです?」



もちろん、仁王は抵抗を示すが、そんなものが通用するわけもなく。
やがて、くちをひらくことになるのだが・・・・彼自身、"それ"については不透明な部分が多いらしく、またしばらく沈黙がつづき、結局仁王がぼそぼそと話し出したのはずっとあとだった



「・・・・・・最初は、イリュージョンを見破ったやつじゃったし、柳生と突き合わせてからかいたかっただけだったんじゃ」
「だと思いましたよ」
「でも、なんか惹かれるもんがあるっていうんかのう」



俺もわからんのじゃ、
そういって膝を抱える仁王を横目に、柳生は眼鏡の縁を引き上げる。

例えば、からかったときの照れた表情や、普段の明るい笑顔。そういうものに惹かれたのかどうかは、仁王自身もわからない。ただ、傍にいたい、そんな気持ちが彼を突き動かしていた。
それを見計らってか、柳生は笑みを深めてこういう。



「仁王くんは意外に奥手ですから、私も応援して差し上げますよ」「悪いが、おまんは出て来んほうが有難いんじゃがのう・・・」
「ではストレートに想いを告げたらいかがでしょうか」
「・・・・ピヨ」
「仁王くん」
「わかっとる、親友の助言じゃきに、善処するナリ」



それから、いつまでも動く気配のない仁王に着替えるように声をかけるが、やはり仁王は踞ったままで。結局、彼が動き出したのは何度目かのチャイムをきいたあとだった。

柳生はもそもそと着替えだす彼を横目に、ひたすら打開策を考えるのだった



「仁王くん」
「なんじゃ」
「ボタンをかけ違えていますよ」
「・・・・・・」


20130425

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