なまえちゃんからメールがきた
普段メールなんてくれないなまえちゃんが、って、最初は柄にもなくうきうきしながらひらいた。でも、その内容をみたら、そんな気持ち一瞬で消えた

 ごめん、今日は用事があるからいけない。
それだけかかれたシンプルなメールに、俺はなぜか胸騒ぎがしたんじゃ。
慌てて理由を聞くけれど、なまえちゃんからの返事は、ない。それからの授業なんて聞くに耐えれんかった。なんでこんなに気になるんかって聞かれてもわからんぐらいに不安になった。
いますぐ飛び出してなまえちゃんの教室に行きたい、何度もそう思って・・・・昼休みになった瞬間、俺はブンちゃんに事情も説明せずに駆け出した。


 なまえちゃんの教室に顔をだしてすぐ、一斉に突き刺さる視線。そんなものは気にせずに見回すが、そこになまえちゃんの姿はなかった。
聞こうにも、俺はなまえちゃんとなかのいい女子をしらん。・・・それに、聞いたら騒ぎになる。なにもできない悔しさに、思わず舌打ちをすると、女子が数人集まってきた。

 相手できん、そうおもったとき、俺の肩をたたいたのはブンちゃんじゃ。どうやら様子がおかしい俺を心配して追いかけてきたらしい。ブンちゃんの涙ぐましい友情に感動を覚えた俺は、女子をブンちゃんにおしつけて再びはしった。(これぞイリュージョンってやつじゃな)
 謝罪はあとでするとして、今はこころんなかでブンちゃんに謝りながら、とにかく走って・・・今度は柳生の教室に顔を出した。また女子にがっちりホールドをされるまえに、柳生のもとへいそいで、それから息を整える。



「・・・・・どうしたんですか仁王くん、お箸を忘れたんですか?」
「違うんじゃ」
「ならお昼ご飯をお忘れで?」
「そうでも、なくて」


 柳生のやつ、ただごとじゃないのを察してわざと・・・・。ただただ息をするしかないのを悔やみながらも、柳生はまだ俺をきにするようにあれこれと起こりうる事象をきいてくる。

 柳生がここにいる、ということは柳生関連ではない。そのひとつの事実は、喜んでいいのかどうか、わからなかった



「いないんじゃ」
「どなたが、です?」
「・・・・やぎゅー」
「怖い顔をしないでください、わかっていますよ」



 教室で話すわけにもいかん。それをいわずとも綺麗に広げた弁当をまた丁寧に戻していく柳生をみて、俺は肩を撫で下ろした

 俺たちが移動したのはもちろん、屋上。淡い期待を抱いたんじゃが・・・・そこになまえちゃんの姿はない


「こんなメールがきて、それでなまえちゃんがいないんじゃ」
「学校には?」
「・・・・・・・・・たぶん、きとったはずなんじゃが」


 そのことを考えるのをわすれとった。柳生から鋭い視線を受けとるがそれはべつとして、落ち込んだ。
 俺はなまえちゃんのことをなんも知らん上にそんなことすら確認できずに、こうして親友を頼っている。そうおもうと、情けなくてしょうがなかったんじゃ


「ケースは二つ考えられます」
「・・・・二つ?」
「一つ目は、本当に仁王くんに知られたくないことがあった」
「・・・二つ目は?」
「二つ目は・・・・・・・仁王くんに関することで、知られたくなかったことが・・・」


 俺に、関することで知られたくないこと?よく意味がわからず、柳生をじっとみると・・・・奴は眼鏡を引き上げ憶測ですが、と付け足した。

 思い付くのは、


「・・・・例えば、仁王くんは先週のことを覚えていますか?」
「いまちょうど考えとったところじゃよ」


 先週、俺に告白した子・・・・・顔も、名前でさえもぼんやりとしか思い出せん。もしくはほかの・・・・・・・



「なんにせよ、彼女にきくしかないでしょうね」
「話してくれんかったらどうするんじゃ・・・・」
「どうするも、彼女を好きなんでしょう?」
「じゃけど、」
「では、私は昼食がまだですので、教室に戻ります」
「や、やーぎゅ、まだ話は・・・」


 話すもなにも、あとは貴方の行動次第ですよ
柳生はそう、たしなめるようにいって、颯爽とでていってしもうた。
取り残された俺は、ただただへたれこむ。

 まだ、決まったわけじゃない。でも・・・胸騒ぎはおさまらないんじゃ。
俺のせいでなまえちゃんの身になにかあったとおもうと・・・・・・だめじゃ、

 ・・・・なまえちゃんに会って、きくしかない。
そうはおもったものの、やはりなまえちゃんは教室に姿をみせず、メールの返事もこないまま。

 なまえちゃんのクラスのそのへんの男子をつかまえて、とりあえずなまえちゃんが学校に来ていることだけは聞きだすことはできたが・・・・・場所はやはりわからない。

 さらに、なまえちゃんが俺の連絡に応じたのは放課後になってからだった。
電話越しになまえちゃんの声をきいて、ひとまず安心したのはいうまでもない。


「・・・・仁王くん?」
「今、どこにおるん」


 焦るあまり、俺の第一声はただそれだけだった。なまえちゃんはすこし考えたあと、こうこたえる。


「えっと、・・・・・も、もう家のまえ」


 その電話越しの声と、すぐ近くで聞こえた声とが重なる。
顔をあげると、やはりそこにはなまえちゃんがたっていた。

 待ってた甲斐があったようじゃのう。
ここは、なまえちゃんの家の近くでもなんでもない。学校の、裏門から通じる道じゃ。人目につかんこっちを選ぶことは、なんとなく予想がついた。

なまえちゃんはかなり驚いた様子で座り込んだ俺をみて、それから、目をそらす。



「うそつき」
「なんで、ここに・・・・」
「・・・・・その頬、どうしたんじゃ」


 なまえちゃんの頬は、みてわかるように赤くなっとった。
俺にはみえんようにしとるつもりだったかもしれんが、それが余計に苛立って・・・やりばのない怒りに、拳を握りしめる。


「ころんだの」
「・・・・誰がやったんじゃ」
「ころんだんだってば」


 なまえちゃんは俺の顔を一切みようとはしない。
ただ、どこか一点をみつめたまま、笑顔を張り付けるばかりで。そんな姿に心がいたむけれど、どう考えたって傷ついてるのはなまえちゃんの方じゃ。



「すまん」
「なんで仁王くんが、あやまるの」


 掠れた声でそういう俺に、笑いかけるなまえちゃんの笑顔はやさしい。
ようやく目があった安心よりも、やはりショックはおおきい

 俺のせいで、なまえちゃんがこんな。
俺のまえにたつなまえちゃんの頬にそっと手をのばす。するとなまえちゃんは驚いたように目を見開いて、それでも俺の手を、振りほどこうとはせんかった。

 俺は、気付けば立ち上がってなまえちゃんの小さな体を抱き締めていた。仁王くん?と、探るような声がきこえるけど、俺は黙って腕に力をいれる。


「仁王くんってば、」
「・・・・・俺のせいじゃき」
「いいよ、大丈夫だから」
「でも、俺がちゃんとせんからこうなったんじゃ」


 もう、なまえちゃんは誤魔化したりもせずに、ただ大丈夫だっていいながら俺の背中をさする。その優しい声と、手の平に、胸の奥があつくなった。
・・・・責めてくれた方が楽じゃったのに。

 きっとなまえちゃんは隠しとおすつもりだったんじゃろうし、やった犯人だって、絶対にいわない。
これからなにがあるかもわからないのに、こんな小さな体で全部、ひとりで抱え込もうとするんじゃ。


「なまえちゃん」
「うん」
「俺は、・・・・・・俺が、なまえちゃんを、守るから」



なまえちゃんはなにもいわず、ただただ俺の胸のなかでぐすりと鼻をならした


20130430

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