あの日から、とくになにもおこらないまま三日が経とうとしていた。

わたしは、真田くんのことを考える時間も日に日になくなって・・・もうすっかり立ち直ったともいえるようになっている。
いまだに丸井くんたちは気にしてくれてはいたけれど・・・やっぱり友達の力は大きいようで、あんなに泣いて、悔やんだわたしは・・・・もう、いない。・・・そう、おもいたい



「仁王くんは好きな子とか、いないの?」
「なんじゃ急に」
「あんまりそういう話きかないなーって」
「お前さんがしらんだけでもう付き合うとるかもしれんぜよ」
「はいはい」
「・・・・信じてないのう」



お昼休み、仁王くんにそんな話題をふってみると、なにやら怪しげな笑みを浮かべながらそんな返事が返ってきた。

都合の悪いことをいわれたときの仁王くんの癖みたいなものなんだけど・・・・・今回は話題が話題だからちょっと可愛い。なんだかんだいっても中身はふつうの中学生だもん。そんなふうにおもうと益々口元がゆるむ



「ね、好きな子ができたら一番に教えてね」
「なんでなまえに教えるんじゃ・・」
「友達でしょ!わたし、協力するから!」
「なまえちゃんは頼りないナリ」
「ま、丸井くんよりは頼れるし」
「ハードル低いのう」



なんで突然そんな話をするのかというと、助けてもらった分、今度はわたしが助けたいって、そうおもったからだった。
た、たしかに、頼りないのは否定できないし、自信はないけど・・・・・でも、教える約束ぐらいしてくれたっていいのに。
そう口を尖らせたときだった。



「なあ、」
「ん?」
「もし俺が・・・もうおるっていったら・・・どうする?」
「・・いるって、か、彼女?」



真顔でもなく、神妙な顔をした仁王くんがなんだか聞いたことのない声色でそう言った。いつもならなにがくるのかと身構えるのに、自分でもわからないけどそんな気にはなれず、わたしまで不思議な面持ちのまま仁王くんと向き合う。



「彼女じゃのうて、好いとる人」
「え、うそ、ほんと?」
「・・・・・・・俺は」



すこしの沈黙なのに、時がとまったようにさえかんじて、わたしはおもわず息を呑んだ。
・・・仁王くんに好きな人、って、ほんとに初耳だ。からかわれてる風にはおもえない、そんな空気がわたしのむねを騒ぎたたせる。どうしよう、きになる。

しかし、
仁王くんがゆっくりと、慎重にくちをひらく、その瞬間



「なまえ!あ、いまいいか?」



丸井くんが突然視界にはいってきて、わたしはおもわず小さく悲鳴をあげながらのけぞった。仁王くんが急に小声になるから、しらないあいだに接近していたらしい。かおが真っ赤になるのを感じながらも丸井くんに目をむけると、こちらもなにやらただ事ではない様子で、仁王くんともう一度顔を見合わせた。

本来ならいいとこだったのに、と、遮った丸井くんをせめるとこだけど・・わたしも仁王くんもそれをしないのは、この異様な空気を感じ取ったから、だとおもう。



「どうしたんじゃ、血相かえて」
「っそれがな、なんか、お前に会いたいって!」
「わたし?だれが?」
「だから、」



そこで、混乱している丸井くんは一度咳払いをすると、もう一度顔をしかめる。

そこでわたしはとある"場合"を頭に浮かべたんだけど・・・・・まさか、それが実現するとはおもいもしなかった。



「さな・・・だ、くん・・・・・」
「みょうじ」



丸井くんから名前をきいたときには驚いたけど、ほんとうに、彼は廊下でわたしをまっていた。

わたしの姿をみてすぐ、真田くんはらしくもない、弱々しい表情をみせたようなそんな気がしたけれど・・・・・顔をみたくなくてすぐに目をそらす。


そうして、頭のなかで整理をおえて、迷わず教室ではなく真田くんがたっている反対方向の廊下へと走り出していた。
ほんとうに、足は勝手に動き出した、というか。なんの用かしらないけれどわたしはその用を穏やかにきけるほど大人になったわけじゃないし、大体、やっと忘れられるところだったのに、まえへすすむってきめたのに、



「みょうじ!足をとめんか!」
「っ、!!」



が、当然逃がしてくれるはずもなく。
廊下にいるひと、すれちがうひとみんながわたしをみる。わたしは全力ではしってはしって、後ろからきこえる名前をよぶ声に頬を染めた。

反射的に逃げたのはいいけど、これはさすがに恥ずかしすぎるし、なによりどんどん近くなる真田くんの怒声がこわい!

たぶんまわりにはわたしが校則をやぶった粛正からにげているようにしかみえていないらしく、偶然とおりかかった教師に助けを求めても廊下は走るな、がんばれ、というよくわからない声援をもらう始末で。

とくに運動をしていたわけでもないわたしが真田くんから逃げ切れるわけも、なく、



「っ!」



追い付いたものの、どうつかまえようか悩んだ真田くんがわたしの腕を掴みかねている間にもわたしの体力は限界をこえ、わたしは廊下にへたれこんでしまった

そんなわたしのまえに真田くんがたちはだかる。顔は、こわくてみられない。



「なぜ・・・逃げるのだ」
「なんでって、そんなの、真田くんこそ・・・・・ほんとになんなの、意味わかんない」
「みょうじ、すまない、俺は・・」
「まって、また頼まれて来たならわたしはほんとに大丈夫だから・・・かえって、」



泣かない、そうきめた
だから、泣いてない。泣いてないけど・・・しぼりだした声は、いまにも泣きだしそうなものだった。

真田くんが言葉につまっている間にも背を壁に預け、必死に息を整える。
ながい沈黙のすえ、真田くんが放った言葉は信じられないものだった



「・・・今日は俺の用事できたのだ」
「・・・・真田くんの、用事?・・・・・・やだ、きかない」
「なぜだ」
「ききたくない、」



だけど、驚くよりもさきに、こわかった。

わたしがやっと、取り戻せそうだった日々を、またなくしてしまいそうで。
昨日までの弱い"わたし"を、思い出してしまいそうで、

子供のように声をはりあげて、まだ真田くんの顔をみないまま立ち上がって、走りだそうとするけれど、今度は腕をつかまれ引き戻される。



「みょうじ、はなしを聞いてくれ」
「も、やだ・・・はなし・・」
「あと、廊下を走るな」
「さ、真田くんも、走ったし!」
「やむをえないからだ!」



お互いため息をついたところでわたしは再び腰をついた。手首をつかむ手をはなそうとしない真田くんを睨み付けると、真田くんはすこし迷ったあと、なんとか離してくれる。

顔もみたくなかったのに・・・・こんな風になるわたしが嫌でどうにかなりそうだったのに、
半ばやけになっているせいか、涙は不思議と引っ込んだようだった



「みょうじ」
「・・なに」
「・・・その、・・・もう、大丈夫か」
「なに、それ」
「だから、大丈夫かと聞いている」



だけど、こんな展開になるなんてきいてない

当然びしりとかたまるわたしに、真田くんはなんだか妙な顔をする。
わたしは、わなわなといろんな感情がこみあげたけど・・・とりあえず一旦それは落ち着かせて、ため息をつくと、再びくちをひらいた



「い、いみわかんないんだけど!」
「な、どういう意味だ!
「だから、こっちの台詞!」
「俺は・・・貴様があんな態度をとるから、心配して言ってるのだ!」
「あ、あんなって・・・きまずいんだから仕方ないでしょ!」



・・・・・つまり、わたしが数日前に真田くんを避けたから、気になったからきた、ってこと?

わたしの気もしらないで、
なんて言うのはなんだか押し付けがましい気がして、なんとかふみとどまる。が、かわりにでた台詞だって、十分に真田くんをきずつけるものだった



「不用意に、関わろうとしないで、・・・・・・わたしは、気持ちの切り替えで必死なのに、無遠慮に、はいりこまないで」



わたしが真田くんを拒絶するのは、今日で何回目だろう。そうあたまのなかでは思いつつも、とまらなかった

真田くんはまるでそういわれることを覚悟していたかのように、目を細める。



「・・・泣いているのか」
「・・・・・・泣いてない」
「すまない、」



真田くんが不器用なのはしっている。まっすぐで、やりかたをしらないから、空回りすることだって、しってるつもり。だから、今だって、わたしを本当に心配していたんだろう。でも、言葉をみつけられない真田くんがこうして真っ向から謝って頭をさげるのも、予想はつくけれど、

謝られると、余計につらくなることを、真田くんは知らないのだ



「・・・・わざわざありがとう、ひどいこといってごめん」
「・・いや、」
「だけど、・・・・ほんとに、関わってほしく、ない」
「っ俺は、」
「さよなら、真田くん」




しあわせになって、
そう口に出していえなかったから、かわりに胸のなかで祈る

でも、真田くんに背を向けた瞬間どうしてか、むねが一段といたんだけれど、涙はでなかった



20130412


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