「じゃあ、わたしはこれで」
「ええ、次からはきちんと守るように」
「失礼しました」
いわれなくとも二度とここにはくるもんか、
愛想笑いを浮かべながら教室をあとにしたわたしが心の中ではそんなことを思っていたなんて、誰もおもうまい。
そう、ここは風紀委員の根城である、生徒指導室。たったいま、わたしは無事に校則違反の反省文の提出を真田くんがいない間にすませることができたのだ。ずっと気がかりだったから、自分でも驚くほど肩の荷がおりた。
というのも、先週ついにわたしの指導回数が一定を越えたせいなんだけど・・・そもそもの原因は彼、真田くんだというのだから余計に救えない。
そう、わたしは普段は会えない分、わざとスカートをいつもよりも折ってみたり、化粧をしたりして真田くんに会うきっかけを作っていた。・・・・・今となってはばかだなあ、って思うけど、当時は真田くんに怒鳴られるたびにうれしかったっけ。うん、すこし、なつかしい。
・・・・これでぜんぶ、おわったんだ。
そうおもうと自然と不思議な心地になった
「終わったんか」
「うん」
すこしあるいた角をまがってすぐの場所で待っていた仁王くんはわたしの姿をみるなり安堵の表情をみせる。
たったそれだけなのに、わたしまではりつめた空気が溶かされるような、そんな空気を感じた。
「・・・スカート、折るんやめたんじゃな」
「必要、なくなったから」
「適度な長さじゃったのに、残念ナリ」
「それはどうも」
適度な長さ、といわれてもぴんとこないけど、なんとなく落ち着かなくてまだしっかりと折り目がついているスカートの裾を引っ張ってみる。
「・・・真田には、」
「会ってない」
厳しい顔をした仁王くんがそういって、わたしがこたえて、
それきり、わたしたちはしんとなったまま廊下を並んで歩く。
歩くたびに重力にそって揺れるスカートは、いつもよりも違和感がある。だけど、それさえも落ち着ける、だなんて感じたわたしはおもったよりも穏やかな心持ちでいたらしい。
そのままぼんやりとすすんで、不意に仁王くんがあしをとめたから、わたしもびっくりしてそれに続く。なにかいいたげなのは仁王くんの様子からすぐに感じ取れたけれど、返事がみつからず、眉をよせた仁王くんとしばらくみつめあった。
「・・・・なんか、わりと元気だよ、わたし」
「なにもいっとらんじゃろ」
「顔が心配してた」
「ピヨ」
困ったように笑う表情をみる限り、図星だったんだろうか。でも、大丈夫だといったわたしの気持ちに嘘はなかった。さぐるような仁王くんの視線にも笑顔をみせる。
「もう、なんとも思っとらんの?」
「うーん」
・・・・そういわれると、どうにもわからなかった。
いま、もし、万が一真田くんとなにかあればわたしはうれしく、おもうかもしれないし。でも、それを自ら望むわけじゃなくて、あくまで万が一のはなしで、
・・・・わすれる、なんていったのに、
やっぱり真田くんの存在は大きかったことをこういうふとした瞬間に再確認してしまう
「ま、気長にいきんしゃい」
「ん」
そんなわたしの頭を、仁王くんの手がふわりと包んだ。頭をなでるのは仁王くんの癖だけど、きらいじゃない。
「・・・・・真田に、おまんの事を聞かれたぜよ」
「え?」
「大丈夫なのかって」
「真田くんが・・・」
「なまえはすぐに強がるから、俺にもわからん」
あの日、わたしが真田くんを拒絶したあの日も、彼はわたしを心配してくれてた。なのにわたしは罪悪感からなら、だなんて、ひどいことを言ってしまった。今さら悔やんだって遅いのに、真田くんの声や表情をおもいだして、胸がきゅう、といたんだ。
・・・・目の前にいる仁王くんだって、そうだ。
「だけど、辛いときは頼っていい、・・・頼ってほしいんじゃ」
「・・・・仁王くん、」
「なまえは弱いからのう、心配なんじゃよ」
髪を撫でていた仁王くんの手がするりと降りてきて、わたしの目尻をつたって、頬を包む
くすぐったさに思わず身動ぎしながらも、わたしはまっすぐ仁王くんをみて、わらってみせる。
「・・・・仁王くんたちが、甘やかすからだよ」
「上等じゃ」
そういって、仁王くんもわらうから、わたしも今度は自然につられるように口の端をあげる。一方で、頬を包んでいた手は名残惜しげにひとなでし、はなれた。
「丸井くんに提出できたって、つたえないと」
「帰りが遅いから心配してるじゃろうな」
「・・・真田くんにも、なまえはもう大丈夫だって、伝えてね」
「・・・・・・了解」
これで、いいんだ
そう言い聞かせながら、胸の奥のわたしはまたしずかに膝をかかえた
20130415
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