今日、委員会にかおをだすなり柳生が俺に手渡したのは
もうしません、
そのワードをよく使い回す彼女、みょうじなまえがかいた反省文だった。

細々とした字で書かれたそれはお世辞にもいい文章だとは到底思えないし、みょうじの反省文をよむのははじめてではない。だが、今回はやけにその頻出ワードである、もうしませんが引っ掛かった。
浮かぶのは、いつだって辛そうに、無理をした笑顔を浮かべる姿。

思えば、奴はよく指導をうけていた。様々な理由でここへくるたびに、またおまえか、おまえじゃなくてみょうじです、というやりとりをしたものだったな。
そのときの無邪気な笑顔は最早記憶には残っていない。

・・・あの頃から俺を好いていたのかもしれない、
そう思うとどうにも複雑な心持ちになり、



「おや、考え事ですか?」
「そんなわけでは、」
「それは・・・なるほど、彼女の反省文ですか」



・・・・・つい、柳生の視線に気付けずにいた。
悪気はないにせよ、柳生の探るような視線は勘に障るが、我慢しておく。

が、奴はなにやら考えるしぐさをしたあとにこんなことをいった



「彼女、おそらくもうここには来ませんよ」
「・・・・・な、なぜだ」
「真田くんがいないときに反省文を提出しにきましたから」
「・・・・・・・・・・・そうか」



まだ、避けられていた、か。
当然といえば当然なのだが、そうすると、自然と脳裏に浮かぶのはあの日の情景だ。

たしかに、あの日みょうじはさよならと、いっていたんだ。俺は、いつもの調子で大丈夫だと、いまはもう思い出せない笑顔でそうかえってくると信じて、いや、思い込んで・・・・
自分が罪悪感から解放されたいがためにあんな風に、みょうじを傷つけた。

・・・・俺は、こえをあげて泣いたみょうじの表情をいまでも、



「なんだか楽しそうな話をしてるね」



・・・・・・考え事をしていたせいで、またもや気配に気付くことができなかったか
少々後悔しながら俺の向かいに堂々と腰掛けた幸村へと目をむける。



「ねえ、もっと詳しく聞かせてよ」
「・・・・・なにを・・」
「みょうじさんのこと」



そういって、楽しそうに笑う幸村の向こう側で柳生がためいきをついた。
俺とて幸村から逃げることは難しく、言葉に詰まる。・・・・話題が話題だから余計に、だ。



「・・・・っ気にするようなことでは、」
「ないなら、どうして落ち込んでるんだい?」
「・・・・・・・・・・・・わからんのだ」



それが俺の正直な気持ちだったのだ。
途切れ途切れにそういうと、柳生と幸村はゆっくりと顔を見合わせる。

俺は、たしかに悪いことをしたと思った。奴のいうとおり、話を聞かずにくだらんと言い捨てるのはしてはならんことだったのだ。だが、俺とて・・・その、れ、れれれ恋愛ごとには、どうしても、わからないことがおおく、

丸井や仁王に謝りたいことを伝え、みょうじの居場所を聞いたときだって正直どうすればいいかなど検討すらつかなかったのだ。

しかし、みょうじはそんな俺に屈したりせずに、自らの心の内をしっかりと俺にはなしたのだ。震える声で、膝をにぎりしめて、涙を流しながら懸命に。

なのに、俺は、あのみょうじの姿を忘れられずにいる理由すらわからずに、傷つけてばかりいる

自責の念に駆られ、思わず拳をつくったと同時に、不意に幸村がくちをひらいた。自然と俺も柳生も幸村をみる



「俺もみたいなあ、みょうじさん」
「・・・見世物ではないんだぞ」
「わかってるよ、ねえ、かわいい?」
「そうですね、可愛らしい雰囲気をおもちで、言動は純粋・・・単純ともいえますが魅力的な女性だと思いますよ」



俺が口をはさむまでもなく、柳生がやけに真剣にそうつげる。
俺までつられてみょうじのことを考えるが、真っ先に浮かんだのはひらがなばかりが目立つ例の反省文だった。あのひらがなの数々は本気でかいているのか、それとも字数稼ぎなのか、

あくまで後者だと柳生はいうが、俺には前者にしかおもえなかったのはいうまでもない。
そう、みょうじはいつだってまっすぐでいた。



「・・・へえ?弦一郎はそういうのがすきなんだ」
「な、な、な、なにをいっているのだ精市!!」
「今度俺にも紹介してよ」
「だ、だから、一体なにを・・・」
「いらないんだったら俺がもらっちゃおうかなあ」



幸村の声のトーンが、わかりやすくさがった。
さすがの俺もこれには反応せざるを得ない。おもわず音をたてて立ち上がるが…幸村は動じない。さらに、言葉を失う俺にかわって口をひらいたのは柳生だった



「おや、幸村くんが興味をもつなんて・・・珍しいですね」
「他の女とはちがうんだろ、気になるさ」
「も、もらうもらわないの話ではないぞ!それに、そのような話は、」
「そんなに必死になるなよな」
「ゆ、幸村」



・・・・本当に、こういう時の幸村ほど怖いものはないと、ひしひしと感じる。その目をじっとみつめたところで、真意なのかどうかなんてわからない。



「ああそうだ、用事があってきたんだった」
「用事?」



疑念ははれていないが、とりあえずは幸村の用事とやらを聞くことにした俺は、奴が取り出したものをみて目を見開いた。



「これ、表で拾ったんだけど・・・知ってる?」





そういってこれ、と呼ばれて取り出されたものを一目みて、すぐに飛び込んできたよく見知った顔に、俺は言葉を失うこととなった


20130417


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