「今日は真田デー、ってわけじゃな」
「うん」


 一週間に一回、わたしと真田くんが一緒に帰る日、別名真田デーはすっかり定着しつつあった。
おかげで、こうして主に仁王くんからいじられるようにはなったんだけど・・・わたしはわたしで、その単語をきくだけでにやにやが止まらなくなるから困る。

そんなわたしをただひとり、複雑な表情で見守るのが・・・


「お前らマジでそれで満足してんの?」


 丸井くんだった。
頬杖をついた彼はまっすぐわたしを見据える。

満足できているか、そうきかれると、正直どっちかというとできていないのが本心だ。人間とは贅沢なもので、与えられれば与えられるほど上を求めるもの・・・だと、わたしは考える。

 そうはいったって、一日でもあえるのはしあわせだし・・・迷惑はかけたくは・・・ない、けど、丸井くんに、嘘はつけないのもほんとうで。


「・・・・そりゃ、し、してるわけじゃないけど・・・」
「なまえがこんなにいじらしい乙女じゃったとはのう」
「う、うるさいなあ」



 恥ずかしながらもそうこたえると、丸井くんはやっぱり、とでもいうような表情をみせた。
さらに、ここぞとばかりに突っ込んでくる仁王くんにため息をつくはめに。・・・・最近ずっとこんな調子だから。



「いつか爆発せんようにの」
「・・・・どっちが?」
「・・・・どっちかっていうと・・・・」
「真田・・・じゃな」
「だよなー」



 真田くんが、爆発?
いいおえて苦笑いを溢す二人とは裏腹に、わたしは首を傾げることになる。

 まだわたしが真田くんをよく知らないせいもあるけど・・・・きちんと好意は伝わるものの、爆発、といわれてもいまいちぴんとはこないのだ。


「・・・そうかなあ」
「無自覚とは、つくづく報われんやつじゃ」
「ま、所詮そんなもんだろい」



 ・・・・爆発する真田くんも、すこしはみてみたいんだけど。そうはいえずにあいまいに笑っておいた。
そんなこんなで約束の時間まであと数十分。律儀な真田くんのことだから、もうむかってもいい頃だ。そう言わないうちに丸井くんに背中を押され、仁王くんには再び頬の緩みを指摘され・・・・・一度鏡を取り出したのはいうまでもない。

 そうして、二人と別れ教室をでたわたしは、正門へとはしる。
待ち合わせの瞬間は、いつまでたっても慣れないものだ。真田くんをみつけた途端真顔でいられなくなるし・・・・・足だって、自然とはやくなる。わたしをみたとたん、すこし顔を綻ばせる真田くんをみると余計に、だ



「真田くん!おまたせ!」
「・・・帰るとするか」



 ・・・・・いまだに緊張してる真田くんがかわいすぎる。(わたしも言えないほど緊張してるけど、そこはおいといて)

 となりを歩くだけでしあわせになりながらも、不意に、まえを歩くカップルがめについた。
わたしたちもあんな風にみえてるのかなあ。あの二人みたいに手は繋いだりしてないけど・・・・・・・・、
 ・・・・・・いつか、いつか、繋げる日がきたらうれしいなあ・・・なんて、
そんなことばかり求めるのはほんとによくないんだけど、つい考えてしまう。

 そのやましさからおそるおそる顔をあげて、真田くんの視線までカップルにまっすぐ注がれていることに気付いたわたしはそのまま思わず目を泳がせた。
 わたしがみていたのも、ばれただろうか。なんだか考えていたことすら見通されているような気さえして、一気に恥ずかしくなる。
 わたしの手の甲が、真田くんの手とこつんとあたって、たったそれだけなのにうんと意識するほどに、だ。



「・・・・・・・・真田、くん?」



 けれど、それが何度も続いて・・・・ぴったりとくっついたからには話は別で。
思わずそう口走りながらもう一度顔をあげると、今度はがっしりと手を握られた状態で真っ赤な顔をした真田くんと目があった。



「・・・・お、お前は、その・・・・危なっかしいからな!念のためだ!」


 ゆめなんじゃないかって、おもったけどちがった。真田くんの大きな声はびりびりひびいて、まえのカップルもすこしこちらを振り向いてはいたけれど・・・・・わたしの脳内はもはやそれどころじゃない。

 強引に繋がれた手は熱を帯びていて、つなぎかただってあまりにもちぐはぐなもの。
こんなとき、"どっちかっていうと真田が"と、二人がいったのを思い出し・・・・・すこし笑みが溢れた。



「な、なにを笑っているのだ!」
「・・うれしいだけ!」
「・・・・・お、俺は、お前を思ってだな・・・!」
「想ってくれてるんだね」
「みょうじ!!」



 この真田デーをきめたときだって、真田くんはわたしのことを考えてくれていたのに・・・・ついつい忘れてしまうみたいだ。こんなに想われていることを。

何気なく手の平を開いて、改めてわたしよりも大きなその手を迎え入れてみる。指同士、何度かぶつかったりを繰り返して・・・・ようやくおさまったそれは、所謂恋人繋ぎ、とよばれるもの。



「真田くん」
「だめだ」
「ま、まだなにもいってない!」
「・・・・・だめだ」
「・・・・・・」



 あの曲がり角を曲がれば家についてしまう。もうすこしこうしていたくて、真田くんと、一緒にいたくて・・・自然とくちをついてでた言葉だった。

しかし、真田くんがそれを許してくれるはずもなく、用件をいうまえに却下されてしまう。・・・・察してくれたけど、これなら嬉しいのか悲しいのかわからない。

 求めすぎるのはよくないって、わかってるけど・・・・真田くんはわたしの予想を超えてくれるから、わたしも甘えてしまう。



「・・・・・・・そんな顔をみせるな」
「・・・・ううん、わがままいってごめんなさい」
「そのような話をしているのではなく、」
「じゃあまたあし・・・」



 わがままな自分がいやになって、嫌われたくなくて、足早に逃げようとしたわたしを、真田くんがだきとめた。わたしは目を見開いて、それからゆっくりとあしを止めざるを得なくなる。


「・・・・っここ、外だよ」
「お前が待たんからだ・・・!」



 だからって、こんなのずるい。背中越しに伝わる真田くんの心音ははやいけど・・・わたしだって、それに負けないくらいはやくなっているのがわかって、耳まで真っ赤になるのをふつふつと感じた。

 真田くんははなしてくれる様子もなく、あせった声色のままこうつづける。



「その、からだが目当てだと、思われたくないのだ・・・!」
「な、な、・・・・・そ、そんなの!わかってるし!!」
「、急に大声をだすんじゃない!」
「だ、だって、そんな話するし!真田くんこそ大きかった!」
「俺は不可抗力だ!」


 それからは、自然とお互い黙り込んでしまった。その間にも真田くんの手がひくりとうごいて、はなれようか迷っているのがリアルに伝わってくる。
 それがいやで、おもわず真田くんの手首をにぎりしめると今度はわかりやすく肩が揺れた。



「・・・・・・・・・・・俺は、必死にお前に触れるのを、我慢しているのだ・・・・・・」
「・・・・・我慢って、どういう我慢?」
「・・・・」
「・・・・・・真田くん?」
「・・・・・・・・帰るぞ」
「あ、ま、まって!ずるい!」





 結局つづきを聞き出すことはできなかったけど・・・・・しばらく、真田くんの声が頭からはなれそうにはなかった


20130514


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