この一週間、おもえばいろんなことがあった。

真田くんとの距離はずっとずっとちかまったし、本当にこんなにしあわせでいいのかなー・・・だなんて思う毎日で。
その反面、もっと甘えたい、真田くんのことを知りたいって、思う気持ちも大きくなりがちでもあって・・・・だめだなあ。
 手を繋いだのだって、いま思えばすごいことなのに。近付けば近付くほど、欲は深まってく。欲張りになってく。

 ・・・・・いつか、キスとか、するのかな
そんな話をふられたのは今からちょうど二日前。あのときの丸井くんの神妙な面持ちはいまでもわすれられそうにない。

真田くんがそんなこと・・・・・かんがえてる、かもしれないし・・・・そうじゃないかもしれないし・・・。けど・・・・・いまでは到底考えられないのはたしか、だ。

わたしだって、なんでこんなこと思い出したんだろ・・・・・!
ぜんぶぜんぶ丸井くんのせい。・・・だけど、別にしたくないってことじゃなくて!真田くんがいいならわ、わたしだって・・・・じゃなくて!!
こんなことを考えてしまうのは、きっと今日が・・・・・



「おまたせ、みょうじさん」
「・・・・あれ?えっと、」
「仁王に頼まれて来たんだ」



 振り向けば幸村くんが立ってたんだもん。本当に驚いた。待っててっていったのは仁王くんなのに・・・、頼まれたって、どうしてだろう。
幸村くんとは実は何度か話したことがある。だけど、急に二人になって緊張しないわけがない。
 他愛のないはなしをしながらも校舎をでて、幸村くんがあしをとめたのは、テニスコート脇にたたずむ部室のまえだった。

 そこで、ドアをあけてにっこり微笑む姿にはどこか威圧感があって・・・・わたしは小さく深呼吸をして、なかへ。
中には仁王くんも、だれもいない。不信感を覚えながらもたたずんでいると、なにかを手渡された。



「・・・・・これ、」
「ふふ、安心しなよ。真田のだよ」
「え」
「これ着て、そこ座って」



 これ、というのは間違いなくわたしの手のなかの、真田くんのジャージをさしていて、そこ・・・っていうのはきっとわたしの背後にあるベンチをさしてるんだ

とはいえ、状況がわからずに目を白黒させるけれど・・・・やんわりと催促をうけて、わたしはおそるおそるジャージに袖をとおした。・・・・・・綺麗なかおをしてるのに、なんだろうこの威圧感。

ジャージは洗ったばかりなのか、うちのとはちがう匂いがして・・・余計に心拍数があがる。幸村くんはわたしがきちんとジャージを着たのを確認すると、



「悪いけど、もうすこしここで待っててもらえるかな」
「え、ちょ、ちょっと」
「一ヶ月、おめでとう」



 にこりと笑って、ドアをしめて行ってしまった。
た、たしかにわたしと真田くんは今日で付き合って一ヶ月だけど!どうしてそれを幸村くんが?っていうか、つまりもうすぐここに、真田くんが?

そ、それに!このジャージ!
わたしよりもはるかに大きいそれは、スカートの大部分を覆っている。袖なんかも、ずっと余ってるし・・・・・・これがあの、俗にいう"彼シャツ"・・・!

うっかりきゅんとしてしまい・・・・、すこし罪悪感に苛まれる。
たしかに、一ヶ月で浮かれてはいたけど・・・・・真田くん本人はもちろん、誰にもいっていなかった。だからこんなことになるなんて思いもしなかったのだ。

 どうにも落ち着かず、わたしが視線をさ迷わせはじめたころ・・・・不意にドアが控えめに開かれた。隙間から覗かせたテニスバッグですぐにわかる。
真田くんだ・・・!



「みょうじ・・・・・・?な、にをしているのだ」
「え、えっと・・・・・!ゆ、幸村くんが勝手に!」



 真田くんはすごく驚いていた。彼女とはいえ、自分のジャージを着用して待機してたんだから当然といえば当然なんだけど・・・視線はすぐにそらされてしまう。

 今朝挨拶をして以来だったし、会えてうれしいし・・・・話したいこともたくさんあるのに言い出せず・・・・・すこしの沈黙のあと、口を開いたのは真田くんの方だった。



「・・・・・教室に、迎えにいったのだが、姿がないから・・・心配したのだぞ」
「そうだったんだ、でも今日は・・・・・あ、記念日・・・・」



 約束してないよ、そう言いかけてはっとする。
もしかして、記念日を一緒に過ごそうとしてくれた、とか・・・?

真田くんは、いつもわたしの考えてる以上にわたしのことを、考えてくれてる。・・・想って、くれてる。ふつふつとそうおもう。



「あ、あのね・・・これ!幸村くんから託されたっていうか・・・・真田くんのだよね?」
「あ、ああ。しかし・・・・・・・・随分と、大きいな」



 立ち上がってくるりと回ってみせる。すると、真田くんはすこし戸惑いがちに視線を揺らした。はたして彼シャツならぬ彼ジャージの効果はあったのかどうかはわからない。
だけど、こうやって抱き締めてくれたあたり、すこしはあったのか・・・・それとも記念日補正なのかは・・・わからない。

 部室というのはすこし気がかりだけど・・・・・わたしもおとなしく真田くんの背中に手をまわした。


「・・・・・・・・その、なまえ、と・・・呼んでもいいだろうか・・・」
「っど、どうぞ・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「では・・・なまえ、・・・これからも、よろしく頼む」
「うん、」



 なまえ、だって。
名字で呼ばれることに疑問を感じたことはなかった。だけど、真田くんはずっと考えていたのかもしれない。名前でよぶ準備をしてくれていたのかもしれない。

そう思うとやっぱりしあわせで、こころがふわふわする。わたしもげ、弦一郎くん・・・って、呼んだ方がいいのか迷ったけれど・・・・・言い出せず、かわりにもっとぎゅう、と真田くんを抱き締めた。
(やっぱりいつも真田くんはわたしの先を歩いてる、)

 どれぐらいの時間、そうしていたかはわからない。どちらからともなく離れたわたしたちは、お互い照れ臭さからか、笑いあって・・・それから、ベンチに腰かける。


「それから、」
「うん」
「・・・・・その、・・・・・俺は、お前を、愛しく、思っている」
「・・・・うん」
「・・・・っだが、その格好は、・・・・その、」



 真田くんのジャージを着ていたことをすっかり忘れてた。言われて下をみて、改めて恥ずかしくなる。
真田くんも真田くんで、再びかおを真っ赤にしてそっぽをむいてしまうから、お互い目をそらしたまま、すこし時間がすぎた。
 わたしがつづきを促したのは、それからすこしあとだ。
真田くんは何度かいいかけてはやめて・・・それを繰り返し、そして、



「・・・・・・・・・・その、」
「わかった!」
「・・・む、なんだ、どうしたのだ」



 それを遮ったのは、わたしだった。真田くんも驚いたみたいだけど、気にせずにつづける。真田くんばかりに言わせたくない、わたしだって真田くんのために・・・そんな小さな理由。



「あの、いままで気付けなくてごめんね、わ、わたし、恥ずかしいけど・・・がんばるから」
「な、なにを言っている」
「だから、その・・・・心の準備をさせてほしいの」
「なまえ、まて、俺は・・・」
「・・・・・・・・・・げ、弦一郎、くん」
「・・・・・・・・・な、」



 真田くんは、そう一言発してぴしりとかたまってしまった。

さっきは自己完結したけれど・・・・わたしだってなにかしたい、そう思った結果だ。・・・・・けれど、



「・・・・・あ、あれ?ちがった?」
「・・・すまん、そうでなく、だな・・・・・・・いや、なまえの気持ちは嬉しいのだが、すまない、俺は・・・」



 なんでもないのだ、
真田くんはそういったきり、それ以降そのことを話そうとはしなかった。
聞いたってやっぱり悩んではやめる、の繰り返しで・・・・・最後には悩む、という過程すらきえてしまった。

 そして、すっかりそんなことも忘れた頃だった。話題も尽きて・・・沈黙が訪れたとき、真田くんは不意にわたしの肩に、手をまわしたのだ
あまりに急な出来事に、わたしはただただ瞬きをするばかりで。そして、



「・・・・・・・すまん、肩に、ごみがついていたのだ」
「・・・・・っ・・・・あ、ありが、とう、・・・」




はなれていく真田くんをぼんやり眺めながら、あるひとつのことが脳裏にうかんだ。
ありえない、ありえないんだけど・・・・でも、


 

もしかしていま、キスしようとしました?



20130601


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