※幸村の口がわりと悪いです
「みょうじさんに手紙を書く?」
弦一郎がそんな事を言い出したのは、昼休憩のことだった。
呼び出されて来てみれば精市と、堅苦しい書き出しの書面とにらみあう弦一郎の姿があったときにはなにが始まるのかと思ったが・・・・つまり、"彼女"であるみょうじに恋文を書くらしい。
弦一郎らしくもない、というよりはこれまで俺たちが知る由もなかった出来事に、俺は驚かされたが・・・・精市はすっかりやるきになっているのが伺える。
大方文面に悩んで俺たちを呼んだのだろうが・・・・・俺たちが力になれるかはさておき、
「・・・・まず、なぜ筆なんだ?」
「き、気を引き締めるためだ!」
「せめて筆ペンにしとけって」
「筆を推すのをやめろ、精市」
恋人にあてた手紙に筆をつかうのはどうだろうか。はじめてみる、滑稽ともいえる光景に一抹の不安を覚えながらも、その書面に目を通す。
まだ一文しか書かれていないそれにはまるで師に送るかのような堅苦しい文がみえ、目眩すら感じたのはいうまでもない。精市は真田らしさが大切だ、といって笑うが・・・・・まあ、よしとしよう。
「それで、俺たちを呼んだわけはなんなの?」
「・・・・こういう事に詳しいと思ったのだ、手を貸してはくれないか」
「・・・・・なるほど」
「だがそれなら尚更俺たちは必要ないな」
「な、なぜだ!」
弦一郎は予想通りの反応をみせた。俺は思わず精市と顔を見合わせる。すると、弦一郎はますますわからない、といった表情で俺と精市とを交互にみた。
「お前が彼女に伝えたいことを書かなきゃ意味ないだろ」
意外にも、先に口を開いたのは精市の方だ。
俺も同じことを伝えたかったために、相づちをうつ。こればかりは俺たちが手をだすことではない。強いていうならば・・・アドバイスぐらいだろう。
弦一郎は納得はしている様子だが、それ以降、考え込んでしまう。
たしかに、気持ちを文にしたためるということは簡単なことではないな。
「俺が・・・・伝えたいこと・・・・」
「そういえば、みょうじさんのどこが好き?」
「っ、幸村!な、なにを・・」
「いいだろ、俺達以外誰もいないし」
「それは是非とも聞きたいな」
当然、やることがなくなった俺たちが暇を持て余すことにもなるわけだ。
そういえば・・・・俺からはあまりそういった会話は持ち込まないからな。データをとるいい機会だ、と思うよりもさきに、好奇心が勝った。
弦一郎が彼女を大切にしているのは日頃から一目瞭然だった。例の、彼女の告白の日は弦一郎の雷がほんの僅かに鈍っていたぐらいだ。それほどに影響力は強かった、といってもいいだろう。
それでも、弦一郎が気持ちに気付くまで時間はかかったようだが・・・・・いまにしてみればすこし懐かしいな
と、俺が記憶に浸っている間にも、精市の尋問は続いている。
「く、くだらん!そのような事、お前達に話す理由は・・・!」
「へえ、お前って好きじゃないのに付き合ってキスしてセックスするんだ」
「っ!!!???」
「精市、口がすぎるぞ」
「だってそうだろ?セックスするんだろ?」
「や、や、やめんか!!!」
弦一郎はこの手の話題に疎い。それは精市もわかっているはずだが・・・・それでも、奴は留まることを知らないらしい。とはいえ、一度とめたきり、あとは放任する俺とて同類だろうが・・・
「どうなんだよ」
「・・・・・・・みょうじは、」
「みょうじは?」
「・・・・・・まっすぐで、可愛らしいのだ・・・・・・・・!」
「ふうん、じゃあ次、好きな部位いこうか」
「精市、あまりいじめてやるな」
まっすぐ、か。実に弦一郎らしい答えだ。精市は答えがかえってくることすら予想外だったのか、目を瞬かせている。
弦一郎は変わった。それもずっと、俺たちが知る以上に、だ。だが、テニスに対する熱意に変わりはないと見受けられる。むしろ彼女の存在はいい意味で大きいだろう。
彼女にも考えるところがないわけではないだろうが・・・それは二人の問題だ
とにかく、
ずっとみてきた友人がこんなにも、大切に想えるひとのために筆に向かっている。その事実は喜ばしいことこの上ない。
「まあとにかく、それだけ好きなら手紙ぐらい書けるだろ」
「幸村・・・・すまない、渾身の力で書こう」
「紙を破らないようにな」
「ああ、蓮二もわざわざありがとう」
「でもまさか真田に先越されるとは思わなかったよな」
「・・・・幸村、聞こえているぞ」
その後、手紙は推敲に推敲を重ねたらしく・・・・仁王に無事に預けられたのは当日の朝。
俺は、満足げにほくそ笑む弦一郎を傍らで見守りながらもただ、二人の幸せを願った。
・・・・・ただ、達筆すぎて読めぬ事がないといいのだが
20130613
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