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Category:蒼国マスカレイド


*セシル→イヴァン


 セシルが扉を二回叩いてからそっと開けると、ほんの微かなシガーの匂いが残っていた。椅子の背もたれには脱ぎたてのジュストコール。執務机の上には吸い掛けの葉巻が一本、それから口を付けられていない珈琲のカップが一つ。殆どの者が入る事を許されていない、書記長イヴァンの執務室だった。
 外面の良いイヴァンは、公人として振舞っている時は上品な紅茶を嗜み、如何なる時でも煙草や珈琲といったゲーグルの嗜好品を一切口にすることはない。そして煙草の匂いを服につけて人前に出ることもしないので、彼が喫煙者であることはほぼ誰にも知られていない。
 しかし、セシルだけは知っていた。王女付き侍従に任命されてから仕事の傍ら、イヴァン直々に政務のことを教わるようになってから知ったのだ。
 王女の前では絶対に吸わない煙草も、自分といる時は気兼ねなく吸う。本当の彼を知っているのは自分だけ――なんだかとても特別な関係に思えた。
 ジュストコールを手に取る。そっと抱き締め、煙草の匂いと混じる残り香を鼻腔に吸い込んだ。


シガーと珈琲と約十分間の愛

(title:scald/ブログより再録)


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