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第2章 仙人掌-サボテン-



「やばい!早く帰らなきゃいけないの忘れてた!」


何かを思い出し急ぎ家へと向かうフタバ。
今日はどの班の任務にも参加しない非番の日、久々の休日を1人街で楽しんでいた。
さっきまで家でのんびりしていたが、大至急卵を買ってきてと母親に言われ街に出てきていたのだ。心躍るような好みの服や鼻をくすぐる美味しそうな甘味の誘惑に負けフラフラしているうちにすっかりおつかいのことなど忘れていたフタバは、団子を頬張っている途中にそのことを思い出したのだった。


「お母さん料理の最中だったし、困ってるよね…」


ダッシュしながらも卵が割れないよう気をつけて走る。家まで後数百メートルといったところだ。


ドンッ


強い衝撃が頭に走る。卵に気を取られすぎていたせいで、前を歩いていた誰かにぶつかってしまったのだ。

「す、すみません!よそ見していて…!」
「…今日はやけにぶつかられるじゃん」
「さっきのガキといい、木ノ葉はそそっかしいのが多いみたいだね」

痛てて、と尻もちをついたまま前を見ると黒子のような格好で変わった化粧をした男が立っていた。
その隣にはそそっかしいと発言した金髪の気の強そうな女の子と、額に''愛"という刺青をした男の子がおりフタバを見下ろしていた。
額当てと『木ノ葉は』という言葉からして恐らく他里、それも砂隠れの忍。フタバは以前戦い初めて吸収の力を使った相手、水遁使いのくノ一を思い出していた。

「(彼女もたしか砂隠れの忍だったはず…)…あの、お怪我はないですか?本当にすみませんでした!」
「こんなんで怪我する程ヤワじゃねぇじゃん。だが許すかどうかは別だ。お詫びはしてもらおうか」
「わ、私にできることがあるなら…」
「やめろカンクロウ、さっきから何度も言わせるな。…すまなかったな。君こそ怪我はないか?」


彼がこの3人のリーダーのようなものなのだろうか。差し出された手をありがたく握ると優しく立ち上がらせてくれた。


「私は大丈夫です、ありがとうございます!…貴方達は砂隠れの方ですよね?以前砂隠れの中忍にお会いしたことがあります」
「ほう…友人かなにかか?」
「あ、いえ!ちょっと戦ったことがあって…凄く強い方でした」

フタバがそう言うと3人はピクッと眉間に皺を寄せた。

「…その中忍には勝ったのか?」
「私は途中で気絶しちゃって覚えてないんですけど、結果的には勝った…のかな?微妙なところです、ハハハ」

確かに吸収の力を使い敵のチャクラはほぼ失われたが、フタバ自身の意識がなかったのだ。シカマルとアスマが居てくれたから安全だったが、1人で戦っていたとしたら負けていただろう。
その時のことを思い出しフタバは苦笑いを浮かべた。

「…お前下忍か?」
「はい、こんなんでも一応下忍です」
「そうか…。名前は?」
「柊フタバです!…あ、あんまり簡単に名乗るなってシカマルに言われてたんだった」
「フタバ…覚えておこう。俺は我愛羅だ。恐らくまたすぐ会うことになるだろう」
「???」

我愛羅と名乗った男はそう言うと連れの2人に行くぞ、と声をかけ瞬身でフタバの前から去っていった。

特に強そうにも見えないほわほわとした少女が、微妙なところとは言っていたが結果的に自国の中忍に勝った。それは我愛羅がフタバに興味を持つには十分な出来事であったということを、フタバ本人は知る由もなかった。


「またすぐ会うってどういうことだろ…。ん?ああ!卵割れてる!…買い直そう」


フタバはトボトボとまた街へむかった。
その後母親に心配したでしょ!と、ちょっぴり叱られてしまったのは言うまでもない。


* * *

「…え、中忍試験?」
「そ、フタバも受けるんでしょ?まったくアスマ先生も無茶なこと言ってくれるわよねー」


数日後、簡単な任務終わりにいの、シカマル、チョウジと食事をしているとふいに中忍試験の話題になり私は言葉を失った。
自信なさげに試験について話していたいのは、そんな私の様子に気付いたようだ。


「…え、フタバには話きてないの?おかしいわねー。正直あんたってもう中忍でもいいくらい強いじゃない。任務だってあんた無しじゃきついもんがあったもの」
「…シカマルもチョウジも受けるの?」
「…ああ、十班は昨日揃ってアスマに志願書を貰った」
「フタバも貰ったとばかり思ってたよ」
「ううん、私は…何も知らなかったよ」

私がそう言うと彼らはすっかり黙ってしまった。

私は正式には十班ではない。彼らが受けるとしても私まで受けられるとは限らないのだ。じゃあ同じ下忍の同期であるナルトやキバの班の皆はどうなんだろう?
受けるか受けないかの決断は明日までのようだ。
…他の班の皆にもこの話がきているのか尋ねてみよう。


フタバは早めにご馳走さまをすると1人食事処を後にした。


「おい、フタバ」


後ろを振り向くとシカマルが立っていた。


「…ゆっくり食べててよかったんだよ?私のことは気にしないで」
「俺はお前が受けらんねぇのがどうも納得できねぇ」
「でも、それが事実なんだしどうしようもないかなって」


極力明るくそう言ってみせたけれど、彼はすごく不機嫌そうな顔をしていた。
無理しているのなんて彼にはお見通しなのだ。


「諦めんのか」
「…どうしようもないじゃん。私には受ける資格がなかったってことだよ」
「…らしくねぇな、なんかだせぇぞ。フタバ」
「…っ!放っといてよ!私の気持ちなんてシカマルにはわからないでしょ!」


彼は一瞬悲しそうな目で私を見たが、「そうだよな」とポツリと吐き出すように呟き背を向けて去って行った。



私はそんな顔をさせたかったんじゃない。ただ一言、頑張れって言いたかっただけなはずなのに。



* * *

次の日、フタバは試験会場となっているアカデミーに向かっていた。ナルトに会場と受付時間を教えられたのだ。
あれから七班、八班の皆に尋ねて回った。どうやらフタバ以外の全員が、担当上忍から推薦を受けたらしい。ルーキーが推薦されるのは数年ぶりらしく、皆浮き足立っていた。


「試験受けられない新人は私だけ、か…」


頭では理解していたがどうしても諦めきれずついアカデミーまで来てしまった。昨日シカマルと喧嘩した後、抑え込んでいた悔しい気持ちが溢れ出て仕方なかったのだ。
受付時間ギリギリ、ナルトの言っていた301の教室の前に向かっていると同じくソコへ向かっているであろう七班のメンバーと会った。


「あれ!フタバ!やっぱりお前も受けられることになったのか?」
「う、ううん違うの。なんか居ても立っても居られなくなっちゃって…」
「…お前が受けられないのは何かの間違いじゃないのか」
「ハハ…そうだったらいいんだけどね」
「とりあえず私たちと一緒に会場まで行ってみるわよ!」


サクラに手を引かれナルトに背を押される。サスケは私たちの数歩先にいるが、私たちを待つかのように少しだけゆっくり歩いてくれている。急いでいるだろうにそんな接し方をしてくれる仲間の優しさに、落ち込んでいたのも忘れ笑顔になってしまった。


「カカシ先生?」


会場の扉の前に着くとカカシが立っていた。
カカシはサクラも来たかと言い、この試験は最初から3人1組、スリーマンセルでしか受験できないことになっていたんだと微笑んだ。
きっとサクラは悩みながらも受験すると決めたのだろう。カカシは七班にお前たちは俺の自慢のチームだと告げ、さあ行ってこいと背を押した。


彼らの誇らしげな姿はとても輝いて見えた。


3人はフタバを気にしている様子だったが、フタバ本人は満面の笑みを浮かべていた。


「ナルト、サクラ、サスケ!絶対絶対ぜーったい合格してね!落ちたりなんかしたら許さないんだから!」


ガッツポーズをしてみせると、3人は親指を立てて応え、笑顔で会場へと入って行った。
扉の前には、カカシとフタバの2人きりになった。


「さて、フタバ。さっきから思ってたんだけどなんでここにいるの?お前は推薦受けてないはずだけど」
「ハハハ、嫌な言い方しますねカカシ先生!
…私、同期の皆が試験受けるって知って最初は落ち込んでたんです。そしたらシカマルにだせぇって言われちゃって。悔しい、諦めきれないって思いで会場まで来ました」


カカシは真剣な表情をし、黙ってフタバの言葉をきいている。


「そしたらスリーマンセルで受けることが前提って言うじゃないですか。正式に1つの班に所属していない私はどんなに頑張っても最初から受けられなかったということですか?そんなのおかしいです」


フタバはグッと拳を握りしめる。


「確かに私はまだ自分の力を理解しきれていませんし簡単な忍術もいまだにできません。でも、私には信念があります。父のような立派な忍になって、私を守ってくれていた木ノ葉の皆を今度は私が守るという信念です。私は下忍で終わってちゃだめなんです。ずっと、ずっと上を目指し続けないとだめなんです」


試験を受ける同期たちの笑顔が頭に浮かんだ。


「でも本当はわかってるんです。私がもっと強かったらスリーマンセルだとかそうじゃないとか関係なく、推薦をもらえたんだと思います。
だから…だからカカシ先生、私をもっと強くしてください。どんな厳しい修行も喜んでします。同期の皆に恥ずかしくないくらい、私をっ…」


泣きそうになるのをこらえながら話していると、カカシがニッコリと笑いながらフタバの頭に手を置いた。


「うん、合格。フタバ、第一試験合格おめでとう!」


ポカンとするフタバがカカシを見上げると、その手にはフタバの名前が書かれた志願書が握られていた。


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