▽02

「ご、合格ってどういうことですか?」

突然のカカシの発言に戸惑いを隠せないフタバは素直にそう尋ねた。

「うん、まあそんな反応にもなるよね。順を追って説明しよう」


カカシによると、こうだった。
まず、フタバのことはアスマ、カカシ、紅の全員が中忍試験へ推薦したということ。
しかし、その反面全員に引っかかることがあった。スリーマンセルを組む下忍がいないということと、フタバが吸収の力を使いこなせていないという点だ。
1点目に関しては、皆と同じ内容を1人で受けさせるという措置をとっても良かったのだがどうしても不利になってしまう。
2点目は、試験の中で力が暴走しフタバの意図しないところで重傷人、死人がでてしまうかもしれないということだ。


「1点目はともかく、2点目の死人を出してしまうなんてことがあったらさ。フタバ、お前は相当自分を責めてしまうだろ?殺しなんて忍である以上避けられないけど、力の加減ができないっていう事故のようなもので殺してしまうとなるとまた違うからね。俺たちだって無闇に死人が出るのは避けたいし」
「それはそうですけど…」
「だから俺たち上忍や火影、その他お偉いさんたちで話し合いをしたんだ。解明が進んでいない力を使うフタバには特別参加枠を作ろうってね」
「特別参加枠…でも私そもそも志願書をいただいてなかったんですよ?」


だって俺がもってるでしょ?とカカシはヒラヒラと手に持った名前入りの志願書を振った。


「俺がなんでここにいたと思う?七班の奴らを待ってたのもあるが、真の目的はフタバが来るかどうか見張ってたの。こんなの異例のことだからさ。他の奴らから不平等だとか文句が出てくるかもしれないでしょ。テスト内容が他とはかわってくるからね。
だから最初にフタバに特別参加枠として受験するだけの資格があるかをテストしたってわけ。もしここに来てなかったら、来たとしてもただ不満を言うだけだったらそもそも参加はさせなかった。さっきフタバが言ったような強くなりたいという前向きな気持ちは中忍には必要不可欠。間違いなくフタバには受験資格があるよ」


ふ〜喋った喋ったと言うカカシを見て、フタバは身体の力が抜けるのを感じた。


私も試験、受けられるんだ…。


「他国と合同で行うからもちろんソッチ方面にも許可はとってる。だからきっと他国の連中はフタバに興味津々になるだろうね、特別参加枠のくノ一。覚悟はできてる?」


愉快そうに笑うカカシをみてゾクっとした。
嫌でも目立つ存在になってしまうのだ。生半可な気持ちではいけない。フタバは決意を固めた目をしていた。


「カカシ先生、私その枠で試験受けます!絶対合格してみせます!」


その答えがわかっていたかのようにカカシは微笑んだ。

「うん、そうでなくっちゃね。おいでフタバ、応援のハグをしよう」
「応援のハグって初めて聞きましたけど…」
「じゃあ今日から俺がフタバを応援する時はハグをするって覚えておいて。ついでにチャクラ回復してくれると嬉しいな」
「フフ…わかりました!カカシ先生、私頑張ります!」

フタバは大きく広げられたカカシの腕に飛び込み、ぎゅーっと力を込めた。2人を大きな光が包み込む。何度かフタバから回復をしてもらっているカカシだが、このあたたかさはいつ経験しても心地良いものだ。まるで癖になるような、危険な心地良さ。


「ありがとなフタバ。相変わらず凄い力だ。さ、次は第二試験、会場はこことは別になる。俺と一緒にそこで第一試験の合格者を待とうか」


フタバは返事をする間も無くカカシに抱えられ、瞬身の術で第二試験の会場へと連れていかれた。



* * *


「…説明は以上よ。そうそう、あんた達に教えとかなきゃいけないことがもう一つあるんだった。フタバ、こっち来て」


別名死の森とも呼ばれる会場前では、第二試験の説明が行われていた。試験官はアンコというくノ一のようだ。
どうやら最初に『天』か『地』とかかれた巻物を渡され、他の下忍から自分たちが受け取っていない方の巻物を奪い取り両方所持した状態で演習場の中心にある塔までたどり着けば合格になるらしい。期限は5日間。時間以内に巻物を持って塔にたどり着くことができなかったチーム、または班員を失うか再起不能者が出たチームは失格となる。まさにサバイバルだ。
カカシと離れたところでその説明をきいていたフタバは急に自分の名を呼ばれたことに驚きカカシをみたが、既にその姿はなかった。恐らくお役御免とばかりに一瞬のうちに去ったのだろう。
覚悟を決め、フタバはアンコの隣へと移動する。
七、八、十班の皆が驚いた顔をした。しかしフタバは友人達が全員揃って合格したのだという事実にホッと胸をなでおろした。


「この子は特別参加枠のフタバ。あんた達とは別の第一試験に合格してここにいる。第二の試験ではこの子も死の森に入る。ただしこの子はどちらの巻物も持っていない、着の身着のままで参加する。この子の力は回復と吸収。詳しい説明はしないわ、試験中自分たちで本人にききなさい。そしてうまく利用すること。きっと助けになるわよ。ただしフタバを連れているチームはその間4人1組とみなされる。もしその時にフタバが死ぬか再起不能になればそのチームは失格。
フタバ、あんたはただ5日以内に生き残って塔に辿り着けたらそれで合格。簡単でしょ?」


ニコッと笑いかけてくるアンコに、他の下忍にフタバを利用しろと言っておきながら酷い話だと思った。
木ノ葉の下忍たちはフタバの力を知っているから有利になるかもしれない。しかし、簡単な忍術も使えないフタバをずっと連れていくのは足手まといになる。アンコはそのことも理解した上でルールを作ったのだろう。
フタバは巻物を集めないでいいとしても、自分以外の全員に利用される可能性がある。そして忍術が使えないとバレれば1番狙われやすくもある。だがこれこそが自分を強くするための特別参加枠だ。フタバは絶対生き残る。そう決意し、皆と同じように同意書にサインをした。
スタートまでの30分間、フタバは誰とも話さずにその時を待っていた。
カカシ先生が言っていたように吸収の力で意図しないことが起きてしまうかもしれない。ならばそもそも使わなければいい。でも本当にそれでいいのか?仲間が危険にさらされたとき、私は逃げていていいのだろうか…。


「これより中忍選抜第二の試験、開始!!」


アンコの掛け声で、全ての下忍が一斉に演習場の中に入って行った。考え込んでもキリがないと、フタバも1人、その死の森に足を踏み入れる。
誰の姿も見えないのに自分を捉える視線が多くあることに気付いたフタバは思わず身震いをした。


この森にいる全員が、私を狙っている。
全員が味方であり、敵なのだ。


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