▽04

フタバは我愛羅達と移動を続けていた。
意外にも気さくに話してくれるカンクロウにすでにフタバは心を開きつつあった。

「へー!砂隠れって砂漠に囲まれてるんですね!」
「そうじゃん。厳しい環境だからこそ強い忍がうまれる。甘ちゃんの木ノ葉の奴らとはちがうじゃん」
「ム、言いますね!木ノ葉だって強い方はたーくさんいますよ」

楽しそうに話すフタバ。
その時、我愛羅がフタバの身体を自分の方へグイッと引き寄せた。

「ーーっ!」

その衝撃に驚いたが急いで体勢を整えると、さっきまでフタバが立っていた場所に鋭い針の忍具"千本"がいくつも刺さっていた。明らかにフタバを狙う何者かが投げたのだろう。

「敵!そんな、どこに…」
「落ち着けフタバ…あいつらじゃん」

カンクロウの視線の先をみると、不思議な格好をした3人組が立っている。額当てから見るに、雨隠れの忍。真ん中にいる背の高い男がフタバを見てニヤリと笑った。

「お前さっきの反応からしてそんなに強くないな。利用価値があるなら連れていこうと思っていたが、足手まといにしかならないみたいだな。お前を殺してソイツらも終わりだ」

バカにするような口調でそう告げる男にフタバはカッとなったが何も言えなかった。確かに我愛羅がいなければあの千本は自分に刺さっていただろう。

「自分達は弱者しか殺せないと言っていることに気付いていないのか」

静かに口を開いた我愛羅。その言葉で雨隠れの男は眉間に皺を寄せた。


ーーその時、キバ、ヒナタ、シノの八班3人がチャクラの気配を頼りに近寄ってきており、草陰に隠れこちらの様子をみていた。我愛羅達と一緒にいるフタバを見つけたキバは一瞬焦ったが、今出て行くのは得策ではないと言うシノの言葉にグッと拳を握りしめた。フタバが危険な目に遭ったら、俺は…。
つうっとキバの顔を伝う汗をみたヒナタも、出ていくのを止めた本人のシノも、キバの腕の中で震える赤丸も、なによりフタバの身を案じていた。


* * *


「…死ぬぞお前」
「御託はいい。早くやろう雨隠れのオジサン」

雨隠れの男と我愛羅のそんな様子を見ていたカンクロウが焦って止めに入る。まだ雨隠れの誰が巻物を持っているか、『天』と『地』どちらの巻物なのかがわかっていない。そもそももう既に巻物を取られた後かもしれない。男らが言うように今フタバを殺され自分達が失格になるのも避けたかった。

「おい我愛羅!ソイツらが同じ巻物なら戦う意味はない。フタバを守りながら戦うのも手間だ。余計な争いは避け…」
「黙れ」
「…っ!」
「コイツらは皆殺しだ」

我愛羅から放たれた殺気にフタバは足がすくんでしまった。
…なんて冷たい目をするんだろう。

刹那、雨隠れの男は「死ねガキ!」と叫び印を結んだ。
空に投げ出された傘から、無数の仕込み千本が我愛羅に降り注ぐ。

「我愛羅!!」

フタバの叫び声が辺りに響く。

やがてゆっくりと砂煙が晴れると、砂の壁に包まれている我愛羅の姿があった。
カンクロウによるとあれは我愛羅だけが使える絶対防御。しかも何故か我愛羅の意思とは関係なく自動で行われるものらしい。彼の前では、全ての攻撃が無に帰す…。

続けてテマリは大気中や地面の砂は我愛羅の意のままに操ることができるとフタバに説明し、手を貸そうともせず戦いの様子をみていた。

その時フタバは草陰に隠れている八班の存在に気付いたが、誰にも悟られないよう顔に出さずにいた。

「(どうしてあの3人が…)」

フタバはただ3人が見つからないよう祈るしかなかった。


そこからは早かった。雨隠れのリーダー格だった男は我愛羅の砂に全身を包みこまれ、反撃する間も無く殺された。砂瀑送葬、その技で男の身体を粉々に砕き潰したのだ。

残りの敵2人は震える手で巻物を地面に置き見逃してくれと命乞いをした。
しかし我愛羅の操る砂により身体を押さえ込まれる。

「ヒ、ヒィっ…!」

まだ生きている彼らの声にならない叫びを聞き我に帰ったフタバは慌てて止めに入る。

「が、我愛羅!もう殺す必要は…!」
「バイバイ」

隣にいたテマリにより掻き消されたフタバの声は、我愛羅に届くことはなかった。

「…っ」

地面に散らばる血液を見たフタバは思わず吐き気をもよおす。
忍とはいつ死んでもおかしくない、わかってはいたが死をこんなにも近くで目の当たりにしたのは初めてだった。

敵が持っていたのは都合のいいことに自分達が得るべき『天』の巻物だった。
カンクロウはそれを拾い上げると我愛羅に向かい「このまま塔に向かうぞ」と投げかける。

「黙れ」

我愛羅はまだ足りないと呟き、草陰に隠れていた八班の方をジロリと見た。
フタバはヤバイと瞬時に判断し、あえて笑顔で我愛羅に語りかけた。

「我愛羅、もう巻物も揃ったんだよ?カンクロウさんの言う通りに塔に行こう」
「そ、そうじゃん!早いとここんな森抜けちまおう」
「愚図が俺に指図するな」

我愛羅が冷たくそう告げると、たまには兄貴の言うことも聞け!とカンクロウが怒鳴りつけた。それでも邪魔をするなら殺すと譲らない我愛羅に、テマリまでもが姉さんからもお願いするからと止めに入る。

しかし彼は兄や姉の言葉を無視して八班のいる場所へ砂を送った。
キバ、ヒナタ、シノは身体にまとわりつく砂にただ絶望の表情を浮かべるしかない。

ーーその時、八班が隠れている草陰の前にフタバが立ちはだかった。手にクナイを持ち、自分の左胸に向けている。

「我愛羅、私は今あなた達と4人1組。今私が死ねば自動的にあなた達も失格だよ。もしこのまま私の友人を殺すと言うのなら、私も自分の胸を刺す。それは困るでしょ?」

いたって穏やかな声で語りかけてくるフタバを見た我愛羅はピクリと眉間にしわを寄せ、やがて「…分かった」とだけ言い術を解いた。

「…ありがとう」

フタバはそうお礼を言い、八班の方をチラリとみて笑った。


「(絶対生き残ってね)」


我愛羅達とフタバは2つ揃った巻物を持ち塔を目指した。


* * *

「あの、ちょっといいでしょうか」
「どうしたんだフタバ」

移動中、ずっと黙っていたフタバが口を開いた。テマリはさっき身体を張って我愛羅を止めてくれたフタバに少しだけ感謝しつつ話を聞く態勢をとった。

「もうすぐ塔につきますよね。ここまで同行させてくださりありがとうございました!私このチーム抜けます」

微笑みながら発された言葉の意味がテマリ達には全くわからなかった。フタバは自分達と塔につけばこの試験に合格する。もう危険なことなどないのになぜここまできて抜けると言い出したのだろうか。
思わず我愛羅達3人の足が止まる。

「私はさっき友人を助ける為とはいえ、今仲間であるあなた達を裏切ろうとしました。特にお役にも立てなかった私にこのまま合格する資格などありません」

真っ直ぐな目をした彼女を3人は黙って見つめる。

「我愛羅は私を受け入れてくれた時、役に立たなければ殺すと言いました。殺されたくはないけれど、そうなったとしても文句が言える立場ではありません。だからせめて最後に仲間としてお役に立たせてください!…それにもうあなた達は合格目前なので私が他のチームに協力しても構わないでしょ?」

フタバはニコッと笑い我愛羅へ駆け寄った。
思わず我愛羅は身構えるが絶対防御が発動しない。彼女は攻撃を加える気はなさそうだ。

「あはは、役に立ちたいって言ったでしょ。塔に行くまで何があるかわからないし出来るだけ万全な状態に戻すだけだよ。嫌かもしれないけど、ちょっと我慢してね。私も早く行きたいから時間短縮のためなの」


フタバはそう言うと我愛羅をそっと抱きしめた。
はじめての感覚に我愛羅は驚き抵抗するのも忘れていた。

「相手に触れている面積が大きいほど早くチャクラが回復するんだ。いきなりごめんね」

大きな光が我愛羅とフタバを包み込む。優しい温もりを感じ、何故か我愛羅は胸が苦しくなった。と、同時に、怖いはずであろう自分にここまでしてでも助けに行きたい仲間がいるフタバを疎ましくも思った。
テマリとカンクロウはその様子を驚いた様子で見守った。長く感じたが、その時間は僅か数秒足らずだった。

「…これでさっき使ったチャクラは完全に回復したと思う。テマリさん、カンクロウさんもよかったら回復させてください!それが終わったら私また森、に…」


抱きしめていた手を離し我愛羅に背を向けた瞬間、フタバは崩れ落ちた。

「フタバ!」
「おい我愛羅!何してんだ!」

テマリがフタバの身体を受け止めると、カンクロウは我愛羅に怒鳴りつけた。彼がフタバの首に手刀を入れるのをみたのだ。

「別に望み通りまた森に行かせてやってもよかったじゃん。コイツはもう俺達には必要じゃない。それはお前にもわかってるだろ?」
「…俺はただコイツが他のチームに協力することで合格者が増えるのはやはり面倒だと思っただけだ。テマリ、お前が背負ってやれ。このまま塔に向かうぞ」


カンクロウとテマリはそんな我愛羅のおかしな様子に戸惑っていた。


「我愛羅…」


弟の名をポツリと呼んだテマリは自分の腕に抱かれ眠るフタバに恐怖だか希望だか分からない感情を抱いていた。


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