▽05

「ん…ここは…」

フタバが目を覚ますとそこは建物の中だった。さっきまで森の中にいたはず、と周りを見渡すと心配そうな顔をしたテマリとカンクロウ、少し離れたところに我愛羅が立っていた。

「フタバ…大丈夫か?」

控え目にテマリが尋ねてくる。
ーー大丈夫かって、なにがだろう?
フタバは自分の身体を確認して見るが、特に痛むところも怪我している様子もない。頭にハテナを浮かべていると、我愛羅が口を開いた。

「俺がお前を気絶させた。ここはもう塔の中、俺たちが1番初めの合格者だ」

なるほど、だからテマリが心配していたのかとフタバの中で合点がいった。
結局自分は何もしないまま合格してしまった。これでは試験の意味もない。しかしこうなってしまった以上クヨクヨしていても無駄だ。次に行われる試験で自分の力を出し切れば良いのだとフタバは気合を入れ直した。
そして今自分が1番しなければいけないこと、それは。

「我愛羅、テマリさん、カンクロウさん!ありがとうございました!」

自分をここまで連れてきてくれた者たちへの感謝を述べることだ。
しかし当の本人たちはまさかお礼を言われると思ってはいなかった。仲間を助けに行くためだとはいえ自分たちを回復させ再び森の中へ入っていこうとしていたフタバを気絶までさせて塔まで連れてきたのだ。それなのに、フタバは笑顔を浮かべながら自分たちにありがとうと言った。
テマリはそんな彼女の様子を見て思わず質問を投げかける。

「…あんた、仲間が心配だったんじゃないのか?」
「…心配していました。でも、彼らなら大丈夫です!彼らは強い。私がするべきことは仲間を信じることだって気付いたんです」
「…そう」

あまりにも真っ直ぐな言葉にテマリは面食らってしまった。こんなに純粋でいいのだろうか。この子は忍として人を殺めなければならない時それを遂行できるのだろうか。でもなぜ自分はそんな心配を…?
複雑な考えが頭に渦巻くテマリのそんな様子にも気付かず、フタバは楽しそうに話し出した。

「ところでさっき兄とか姉とか仰ってましたけど、3人って兄弟だったんですね!言われてみれば…似てる!」
「あ、ああ。私が1番上で我愛羅が1番下だ」
「そっか〜フフ、我愛羅が末っ子ってなんだか意外ですね。私は一人っ子なので羨ましいです」

怒りもせず、仲間を思って焦ることもせず、ただただ楽しそうに話すフタバ。本当に仲間を信じているのだろう。
しかし我愛羅には、納得できないことがあった。

「お前、俺が怖くないのか」
「え?我愛羅を?どうして?」
「俺はお前を気絶させた。それに俺の戦いをみて何も思わなかったのか?」

不思議そうな顔をしているフタバの方が我愛羅にとっては不思議だった。今まで自分は恐れられるだけの存在。嫌われるだけの存在だった。なのに、目の前の少女は今まるで友人のように自分に接してくる。

「私は我愛羅達のチームにいれてもらってたのに急に抜けるなんて勝手なこと言ったから気絶させただけでしょ?自分で言うのもなんだけど、私の力で他のチームに協力されたら合格者増えちゃうかもしれないし我愛羅達にとっては面倒だよね。それに…」
「? なんだ」
「我愛羅の戦いをみて、本当に凄いと思った。自分は甘かった、忍の世界ってこういうことなんだろうなって。あとさ、砂の絶対防御って自動で発動する謎の力なんでしょ?私も自分の力のことよく分かってないし謎な部分多いからおそろいだな〜って思ったの!私と我愛羅のちょっとした共通点だね!」

ズキン、また頭が痛んだ。我愛羅は何故フタバがこんなにも楽しそうにしているかがわからなかった。
ーーこいつは、いずれ自分の邪魔になる。
そんな考えが浮かんで仕方がなかった。

第二試験終了である5日の間、我愛羅はフタバから距離をとって過ごした。



その頃、大蛇丸という木ノ葉の抜け忍がこの中忍試験に紛れ込んでいるという情報が入ったアンコは急いで確認に行き、実際に大蛇丸と対峙するも手も足も出なかった。すでにナルト達と接触した後のようで、「欲しい子がいてね…うちは一族の血を引く少年だから…」という言葉から、大蛇丸はサスケに目を付けたようだった。
火影に報告したが奴の出方に気をつけながら試験を続行するとのこと。アンコは一抹の不安を抱えたままそれに同意したのだった。


* * *


「第二の試験、通過おめでとう!」

試験期間の5日が経ち、試験の合格者は広いホールのような場所に並べられ通過の祝福を受けていた。
受験者の目の前には担当上忍や火影など、錚々たるメンバーが揃っている。

合格者は総勢22名、フタバとそれ以外の7チームだ。
その中にはフタバの友人である七、八、十班の全員が入っていた。それ以外にも木ノ葉の下忍のチームがあと2班残っている。
フタバはその内の1人、ネジのことは知っていた。自分の友人であるヒナタと同じ日向家の人であり優秀な忍だ。
しかし、どことなくヒナタを見下している感じがしてフタバはあまりネジのことが好きではなかった。

「(やっぱりシカマルやナルト、キバたちの班は残ってる!よかった、信じてたよ皆…あとで話せたらいいけど)」

キョロキョロと周りを見渡していると、前に立っているアスマと目が合った。なんだか久々に会った気がしたフタバは嬉しさのあまりアスマに向けピースサインをした。
アスマは心配していたフタバが思いのほか元気そうで、しかも自分を見つけたことであんなにも嬉しそうにしているのが可笑しくてくっくっと笑い手をヒラッと振り返す。
アスマの隣にいたカカシはそんな2人の様子に気付き、俺は?といったジェスチャーをフタバに送る。彼女はそれに応えるようにニコニコっと笑いカカシにもピースをしてみせた。

「それではこれから火影様より第三の試験の説明がある!心して聞くように!」

アンコのその言葉で火影が一歩前に出る。
火影は第三の試験の説明の前に受験者たちにはっきりと告げておきたいことがあると言った。

「それは、この試験の真の目的についてじゃ」

火影は静かに語り出した。
この中忍試験は同盟国間の戦争の縮図であるということ。
自国の忍達の力を試験という場を通して各国の大名や忍頭に示すことで国力を示しているのだということ。
それにより依頼が増減することで強国と弱小国がはっきりし、強国は隣国に対し政治的圧力をかけることができるようになる、ということだ。

しかしこれは同盟国との友好的合同試験だと聞かされていた下忍達は当然反発した。

「どうして友好なんて言い回しをするんですか!?」

その問いにも火影は冷静に答えた。
命を削り戦うことで力のバランスを保ってきた慣習、それこそが忍の世界の友好であるということを。

「これはただのテストではない。これは己の夢と里の威信をかけた命がけの戦いなのじゃ」

言い切った火影を見て、フタバは不思議な気持ちでいっぱいだった。
カカシはフタバの力で無闇に死人を出したくない、フタバが自分を責めるのを避けたいから特別枠を作ったと言っていた。それは火影の同意もあったと。しかし今の話を聞くと辻褄が合わない。自国の力を誇示するためなら、フタバも普通の枠で出せばよかったではないか。自分がどれだけ人を殺めてしまおうとも、それで隣国を牽制できるなら構わないではないか。

そこまで考えて、フタバはハッとした。

これは火影の優しさだったのだ。忍としてまだ未熟な自分を守るための策。戦争の縮図と言っておきながら、その戦争に巻き込まんとする火影の大きな優しさ。

この話を聞かせることで火影様は私に伝えているんだろう。ここからは、お前も1人の立派な忍としてこの試験に臨めと。

フタバは身が引き締まる思いだった。
次からはどんな試験でも特別枠ではなく皆と同じ試験内容にしてくれと頼もう。それがフタバの覚悟。火影の優しさに報いるための覚悟なのだ。


「命がけだろうがなんだっていい。早く次の試験の内容を聞かせろ」


我愛羅が冷たくそう言った。彼は今の話を聞いて何も感じなかったのだろうか。フタバは少し悲しい思いを抱いた。

「フム…そうしたいところじゃが…」

火影が言い淀んでいると、サッと1人の忍が出てきて火影に告げた。

「恐れながら火影様、ここからは審判を仰せつかったこの月光ハヤテから…」
「…任せよう」


月光ハヤテと名乗ったいかにも不健康そうな忍は受験者達を前に口を開いた。


「第三の試験の前に本選出場のための"予選"を行なってもらいます」


第三の試験内容が語られると思っていた受験者たちは皆その言葉を聞いてただ驚くしかなかった。


prev/next


top