▽06

「予選って…どういうことだよ!」

納得できなかったのか、シカマルがそう叫ぶとゴホゴホと咳をしながらハヤテが話し始めた。

「第一、二の試験が甘かったのか少々人数が残りすぎましてね。中忍試験規定にのっとり予選を行い、第三の試験進出者を減らす必要があるのです。先程火影様のお話にもあったように第三の試験には沢山のゲストの方がいらっしゃいますからダラダラとした試合も出来ず時間も限られてきますからね…」


予選…あんなに過酷な試験だったのにそれを甘かったなどと言ってしまうくらいだ。どんな内容が課されるのかとフタバは不安に思った。しかしそれでこそ自分の力を試せる。いつまでも逃げてはいられない。

「えー…というわけで、気分の優れないものやこれまでの話を聞いて辞退したくなったものは今申し出てください。これから"すぐ"に予選が始まりますので…」

続けて発された"すぐ"にというその言葉に動揺はすれど、手を挙げるものは誰もいなかった。

ーー第二試験を通過した木ノ葉の忍、しかしその実態は大蛇丸の部下である薬師カブトが音隠れの忍に扮している大蛇丸に目をやると、彼はフタバの方を一瞬見てまたカブトに視線を戻しニヤリと笑った。

「(…サスケ君でなく、彼女の力を試せと言うのですね)」

カブトは思い出していた。大蛇丸が言っていたのだ。1番欲しいのはサスケだが、「自分の大切なもの」も中忍試験を受けるようだと。

「(彼女がそうなのか…?)」

そんな彼の考えなど誰も知る由もなかった。


「えー言い忘れていましたがこれからは個人戦ですからね。自分自身の判断でご自由に手を挙げてください」


その言葉を聞いたサクラがやけにサスケを気にしていることにフタバは気付いた。
そういえば、どうもサスケの様子がおかしい。なんだか苦しそう…。恐らくサクラはサスケを辞退させたいのだろう。しかしフタバは分かっていた。
サスケは辞退などしない。

以前、2人で修行をした時に彼は言っていた。
「俺は復讐者だ」と。詳しく話してはくれなかったが、数年前に滅んだうちは一族の敵討ちなのだろうとその時フタバは思った。復讐なんてよくないよ、そんなこと、サスケの目を見れば言えるはずがなった。
そんな彼がこんなところで立ち止まるわけがない。その復讐とやらのため、いろんな強い忍と戦い経験を積みたいはずだ。
案の定、サスケは最後まで手を挙げなかった。


「えーでは、誰も辞退者が居ないようなのでこのまま予選を開始しますね。これからの予選は一対一の実践形式の対戦とさせていただきます。22名いるので合計11回戦行い勝者が第三の試験に進出できます」

ルールは簡単なものだった。
・どちらかが死ぬか倒れるか、あるいは負けを認めるまで戦うこと
・勝負がハッキリついたとハヤテが判断した場合、むやみに死体を増やしたくないので止めに入ることもあること

それだけ。つまりルールはあるようでないということだ。

「そしてこれから君達の命運を握るのは…」

開け、というアンコの合図で壁から大きな電光掲示板が現れた。
この掲示板に一回戦ごとに対戦者の名前が2名ずつ表示される仕様のようだ。

「ではさっそく一回戦の対戦者を発表します」

受験者達は皆緊張の面持ちで掲示板を見上げた。そこに表示された名は、

『柊・フタバ VS ヤクシ・カブト』

の2名だった。

「な、一回戦からフタバかよ!」
「フタバとカブトさんか…俺どっちも勝ってほしいってばよ…」
「フタバ…あの子大丈夫かしら…」

シカマルにナルト、サクラは思わず声に出してしまった。信じていないわけではないが、やはり心配なことには変わりない。それなのにフタバ本人は眉をピクリとも動かさず、ただ対戦相手であるカブトを真剣な目で見ていた。

「(これは…大蛇丸様が細工でもしたんだろけど、まさか一回戦目とは…)」

カブトはそんな気持ちを察されないようにフタバにお手柔らかにねと握手を求めた。

「あ、は、はい!」

途端に表情を和らげカブトの手を取ったフタバを、大蛇丸が舐めるような目で見ていた。


* * *

「えーではこれから第一回戦を開始しますね。対戦者2名を除くみなさん方は上の方へ移動してください」

ハヤテはそう言って階段を指差した。試合会場となる一階部分を見下ろすような形の観戦場が二階に設けられている。
フタバとカブト以外の受験者や上忍たちがぞろぞろと二階へ移動していく。

「フタバ」
「アスマ先生にカカシ先生、紅先生まで…」
「今ここにいる奴らは覚悟してる連中だ。吸収の力、臆さず使え。フタバならだいじょーぶ!」
「…ありがとうございますカカシ先生!」
「試験の事、教えないでいて悪かったわ。私達皆貴女のこと信じてるから」
「く、くくく紅先生に言われたなら頑張らなきゃです!」
「くっくっ…お前まだ紅に緊張すんのかよ」
「ア、アスマ先生だってそうじゃないですか!私知ってるんですよ!」
「はぁ!?バカお前、そういう事言うな!」


さっきまでの不安がいつの間にかなくなっているのをフタバは感じた。
この3人は、いつでも自分のことを応援してくれている。改めてそう気付いたフタバは3人にまとめて抱きついた。

「私、精一杯やります!応援していてください!」

抱きつかれた3人は驚きはしたものの、フタバのその力強い言葉に「おう(ええ)」と返事をし頭を撫でた。

「まあ、なんだ。シカマルやナルトやサスケ、それどころかお前の同期全員が何か言いたげだったが、ここは俺たち担当上忍に譲ってくれたらしい。試合後にお前からアイツらのところに行ってやれ」
「…はい!ありがとう、アスマ先生」


皆が二階に移動したのを見届け、フタバとカブトは対峙する。

「それでは、始めてください!」

ハヤテの言葉で試合がスタートした。

フタバは腰にかけていたクナイをすばやく構える。忍術が使えない分修行を重ね、フタバは忍具を使うのが得意になっていた。しかしそれだけでは勝てない。やはりチャクラ吸収の力を使うのが絶対条件だ。そのためには相手に触れなければならない。なんとかして、接近戦に持ち込みたかった。

カブトも同様にクナイを構え、そして考えていた。

「(吸収の力を使うと言っていたが、それってまさか…てことはわざと接近戦に持ち込む必要があるな)」

カブトの目的はあくまで大蛇丸に彼女の力を見せること。ジリジリと間合いを詰め、フタバを壁際に追い込む。

シュッと彼女の手からクナイがいくつも放たれた。カブトは難なくそれを避けるが起爆札が付いていることに気付きサッと爆撃範囲外まで逃げた。

「(…こんな単純な攻撃は効かないんだけど)」

カブトにとってフタバは弱かった。恐らく彼女には経験が足りない、今の自分はどうやっても追い込まれることはないなとカブトは確信した。

「(それならあえて優勢になろう)」

カブトはいきなり間合いを詰めると正面からフタバを押し倒した。

「フタバ!」

友人達の声が聞こえた。フタバの頭は冷静だった。
フタバは抑えてくるカブトを足で蹴り上げ、彼の肩に右手で触れた。

「(上手くできないなら手加減なんてしても意味ない!吸収!!)」

グッと右手に力を込めるとフタバの身体がドクンと脈を打った。吸収の力を使うといつもそうだ。異物が身体に流れ込んでくる感覚。一気に相手のチャクラが自分の身体に移動してくる。
カブトはガクッと膝をつきフタバを見上げた。

「(やはり彼女が…!なんて力だ、一瞬触られただけなのにもうほとんどチャクラがない!まずいな…声も出ない)」

頃合いをみて棄権しようと思っていたカブトはフタバのあまりの力にただ驚き、そのまま崩れ落ちるように倒れこんだ。

会場がシーンと静まり返る。

あの力は…?という声が聞こえた。
二階で見ていたロック・リー、フタバたちの1つ上の下忍。ネジの班の忍だ。サクラがリーにフタバの力について説明をする。あれは吸収の力、チャクラを吸収するとんでもない力だと。

ハヤテは座り込むフタバと動かなくなったカブトを交互に見やり、カブトの脈を確認する。トクトクと鼓動を感じたが、このまま試合続行は不可能だと判断した。

「…審判判断により、薬師カブトは試合続行不可能です。よって勝者、柊フタバ!」


その言葉を聞いたフタバは緊張の糸が切れたのかフーっと息を吐きニコリと笑った。吸収の疲労でまだ動けはしないようだ。

「すげー!!フタバってば、カブトさん倒しちまった!やっぱり吸収って強いな!あ、でもちょっとカブトさんが負けて悲しい気もする…難しいってばよ!」
「フタバー!やっぱりあんたやるわねー!」
「うおおお!流石将来の火影夫人、俺の嫁だぜー!フタバー!」
「キバ、自分が火影になる前提なのもフタバが妻になる前提なのもおかしいぞ」
「シノの言う通りだ。バカかこいつ」
「ああ!?なんだシカマル!やんのか!」
「フタバちゃんすごい…」

観戦していた友人達が思い思いに叫ぶ。
テマリやカンクロウも吸収の力を初めて目の当たりにし驚くとともに少しだけ喜びの気持ちを抱いた。

一方、試合を見ていた大蛇丸は誰よりも喜びに打ち震えていた。

「(やっとみつけた、私の大切な大切な子…)」

舌舐めずりをする大蛇丸に気付く者は誰一人いなかった。


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