▽08

フタバは自分の名を叫ぶカカシの声が聞こえた気がした。
そして突然プツンと停電したかのように倒れこむ。しかしフタバの身体が床につく直前、カカシがそれを受け止めた。

「あらあらちょっと刺激が強かったかしらね」
「大蛇丸…今の話どういうことだ!」
「どういうこともなにも、そのままよ。フタバちゃんは昔私の被験体だったの。その過程であの力がうまれたのよ」

カカシは大蛇丸の言うことが信じられなかった。そもそもフタバは柊家の人間で、先程大蛇丸が言った"アビスマ"という一族とは関係がない。

「…フタバはアビスマ一族ではない。それにあの一族は滅んだはずだ」
「あらさすがね、アビスマのことを知ってるなんて。まあ私が滅ぼしたんだけど」
「なに…?」
「フタバちゃんはその生き残りなのよ。フフ、アビスマを知ってるってことはその一族の血継限界についても知ってるでしょ?フタバちゃんはそれに当てはまるんじゃない?」
「……」

カカシはアビスマについて少しだけ知識を持っていた。十数年前に突然滅んだその一族の血継限界は確か…。

「"底なし"のチャクラと、そのチャクラの"転移"…」
「正解!お勉強してるのね、えらいじゃない」


フタバは自分の力を回復と呼んでいたが、確かにあれは自分のチャクラを相手に"転移"させていた。過去の発言からもフタバもそれは理解していたようだ。チャクラ量も底知れない相当なものだと言うから当てはまってはいる。
しかしやはり納得がいかない。仮に今大蛇丸が言ったことが本当だったとして、いったいどうやって大蛇丸の手を離れ木ノ葉の里で平和に暮らしていたというのか。

「では何故お前の被験体だったはずのフタバが今ここにいる。こいつは幼い頃から木ノ葉で育っているんだぞ」
「それなのよ。私てっきりフタバちゃんは死んじゃったとばかり思っていてね。私も驚いたわ。愛の力って時として不可能を可能にするのね。ま、これ以上はその子を育てた人にきけばいいんじゃないかしら」

そう言うと大蛇丸はカカシの前から立ち去ろうとした。

「っ!待て大蛇丸!」
「そんなに焦らないの。サスケくんにしてもフタバちゃんにしても、いずれ私が手に入れる。機が熟すのを待つのよ。特にフタバちゃんは私の大切なものだからね」

カカシが止めるのもきかず、そのまま大蛇丸は闇に消えていった。


* * *


「よっ!」
「カカシ先生!」

カカシはシノ対アブミの試合でシノの勝利が決まった直後、サクラ達の元に戻ってきていた。

「よっ!じゃないわよ!カカシ先生サスケくんは?サスケくんは大丈夫なの!?」
「ま、大丈夫だ。今病室でぐっすりだ」

サクラはホッと胸をなでおろす。しかしカカシは暗部の護衛がついているということまでは教えなかった。
するとカカシを見つけたシカマルが不安そうな表情で近付いてきた。

「…なあ、フタバもあんた達を追いかけていったはずだ。あいつ今どこにいる?」
「(…本当によくフタバのことを見てるね)ああ、フタバも試合の疲れが出たみたいでサスケとは別の病室で眠ってるよ。心配はいらない」

その言葉に安心したのかシカマルはペコっと頭を下げアスマ達の元へと戻っていった。
もちろんフタバにも暗部の護衛をつけている。
カカシは、火影は絶対として、担当上忍であるアスマや紅にもフタバの話をしておいたほうがいいかもしれないと考えていた。


* * *

「えーではこれにて第三の試験予選、全て終わります!」

審判であるハヤテの言葉により、長い時間をかけた第三の試験予選がようやく終わった。
予選を通過したのはシノ、カンクロウ、テマリ、シカマル、ナルト、ネジ、我愛羅、キヌタ、そしてサスケとフタバの10名である。いのとサクラによるくノ一同士の戦いはダブルノックアウトとなり第三の試験受験者は予定よりも1名少なくなった。それぞれの忍たちが己の力を出し切った結果である。

その中でも我愛羅に敗北したリーは、医療班にもう忍として生きられない身体だと言われてしまうほどのダメージを負っていた。
リーの担当上忍であるガイはどうしようもない悔しさにただ涙を流すしかなかった。


本選出場者は整列し本選の内容が話されるのを待っている。
病室にいるサスケとフタバを含め木ノ葉6名、砂3名、音1名か。と火影は考えていた。
ハヤテに促され、火影が本選出場者の前に進み出る。

「ではこれから"本選"の説明をはじめる」


あたりはシンと静まり返った。


* * *


「予選は無事終わり、本選に入るようです」

同じ頃、人気のない場所で跪いたカブトが大蛇丸に報告をしていた。

「それにしてもカブト、あなた予想以上にフタバちゃんにやられてたわね」
「…大蛇丸様も人が悪い。吸収の力を使うとは分かっていましたが、あれはヨロイとは桁違いのものでしたよ。一瞬にしてほとんどのチャクラが失われるとは」
「フフ、ヨロイは所詮コピーよ。オリジナルには勝てないわ。あの力はフタバちゃんの"底なし"の血継限界があってこそ。己のチャクラ量に限界のあるヨロイはただ相手のチャクラを吸い上げるだけだけど、フタバちゃんは吸い取ったチャクラを自分のものにしてしまう。今頃あなたのチャクラもフタバちゃんの身体の中で一体化してるわ」

妖しげに笑う大蛇丸を見てカブトはゾッとした。彼にとっては自分も実験体に過ぎないのだろうか。
しかし今話すべきはそんなことではない。はっきりさせておかなければならないことがあるのだ。

「…これから各隠れ里の力は長く激しくぶつかり合う。あなたは火影の首をとることでその引き金になるおつもりなのですね」
「…あんなジジイの首取って楽しいかはわからないけれど、結果的にはそうなるわね」
「彼は…うちはサスケくんはその引き金になるための弾でもあるのでしょう?」
「フフ…お前は察しが良すぎて気味が悪いわ」


カブトは自分が大蛇丸に信頼されていないのではないかと考えていた。しかしそう伝えられた大蛇丸はカブトのことを自分の右腕であり信頼していると言い切った。そしてカブトに1つ、命令を下したのである。

「今すぐサスケくんを攫って欲しいの」

カブトは気付いていた。大蛇丸が珍しく焦り気味な理由はうずまきナルトとの接触でサスケが変わりつつあるということを察したからであると。
そしてそれは当たっていた。大蛇丸はサスケのことを復讐を果たすまで死ねない子だと思っていた。それなのに第二試験の中で絶対に勝てないと分かっているはずの自分に立ち向かってきた。少なからずナルトがサスケに影響を与えている。

サスケからナルトを引き離すため、大蛇丸はサスケを攫えと言ったのだった。


「…わかりました。しかしフタバちゃんはいいのですか?」
「そうね…あの子はまだいいわ。私の知らないところでどこまで成長できるか見てみたいし。…ところでカブト、私を止めたいなら今サスケくんを殺すしかないわよ」
「!!」
「お前じゃ私を殺せないでしょ。強いと言ってもカカシと同じ程度じゃね。なんて、フフ…冗談よ。さあ行っていいわよ!お前を信頼してるから」

笑みなのか殺意なのかわからない表情を浮かべたカブトは、瞬身の術で大蛇丸の元を去った。

「(フフ…あの顔、一体何を考えているのやら)」


* * *

火影の口から、本選は1ヶ月後に行われるということが告げられた。
各国の大名や忍頭など、招待客へ予選の終了を告げ本選への召集をかけるための都合や、予選で手の内を明かしてしまった者、傷付きすぎてしまった者の公正公平を期すための準備、休息、修行期間だと言う。

それを聞いたナルトはこうしちゃいられないと修行のことで頭がいっぱいになっていた。

しかし火影は解散の前にもう一つして欲しいことがあると言った。それはクジを引くこと。
本選進出者それぞれがクジを引き、手元の紙に書かれている数字を口にする。
フタバの分はアンコが引き、サスケは1番最後に余ったクジに書かれている数字ということになった。

「ではお前たちに本選のトーナメントを教えておく!」

そう宣言した火影に、そのためのクジ引きだったのかと驚きの声が浴びせられる。

そして第一試験の試験官であったイビキからトーナメントが発表された。

うずまきナルト vs 日向ネジ
うちはサスケ vs 我愛羅
油女シノ vs カンクロウ
奈良シカマル vs テマリ
柊フタバ vs ドス・キヌタ

初戦の組み合わせはこの通りである。

シカマルはそのトーナメント表をみて中忍になれるのは優勝者1人だけなのかと質問をした。
火影はそれに対し、試合をした下忍は中忍になるための資質があるかどうか審査員でもある火影や風影、任務を依頼する立場である各国の大名や忍頭などが判断するのでたとえ一回戦で敗北したとしても中忍になれる可能性があると答えた。
それはつまり全員が中忍になり得るし、逆に1人もなれないかもしれないということだ。

「ではご苦労じゃった!ひと月後まで解散じゃ!」

その言葉で一同は会場をあとにした。

その頃カブトはサスケを攫うため護衛の暗部を皆殺しにしサスケが寝ている病室に忍び込んだが、予想していたカカシによりそれを阻まれた。
カブトは自分を捕らえようとするカカシから逃がれ、そのまま姿をくらましたのだった。


少し離れた病室に寝かされているフタバはまだ目を覚まさない。


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