▽09

本選の内容が説明され皆が解散してしばらくした頃、木ノ葉病院の一室、1つだけ置かれたベッドの上にフタバが寝かされていた。
脇にある椅子にはカカシが腰掛け、眠り続ける彼女の顔を眺めている。病室の前には暗部の護衛付きだ。

『フタバちゃんは昔私の被検体だったの』

先程の大蛇丸の言葉が頭から離れない。こんなにも純粋でよく笑う優しい少女が、そんなおぞましい体験をしていたなんて考えたくもない。しかしデタラメを言っているようにも見えなかった。

「じゃあ君を育ててくれてるあの人は一体誰なんだろうね…」

カカシはポツリと呟いた。一度任務で遅くなってしまった時、フタバを家まで送って行ったことがある。その際母親に会っていたのだ。怪我をしていたフタバを随分心配し、フタバを見守ってくれているお礼にとカカシに夕飯をご馳走してくれた。よく笑う優しい元気な女性で、まさにフタバの母親という感じだった。
「しっかりと確かめなければな…」そう考えていた時、ロビーの方から叫び声が聞こえてきた。

「サスケの病室どこだってばよ!!」

ナルトだ…カカシはやれやれといった様子でフタバの病室を後にし、未だ騒ぎ続けている教え子の元へ向かった。


* * *

「あ、起きたの」
「カカシ先生…」

ナルトを注意し終えたカカシは再びフタバの病室へ戻ってきていた。

「ナルトがうるさかったんでしょ。身体は大丈夫?」
「え、あ、はい…ナルトの声が聞こえてきて、それで。身体は問題ないです」
「そうか、よかった。ナルトはサスケに会いにきたみたい。ま、今は面会謝絶だから無理だって言っといたけど。ナルトの奴、予想通りすぐにでも修行つけてくれって感じだったからちょうどいい相手を紹介してきたとこだよ」

自分は今ナルトの修行に付き合ってあげることができない。そのため予めエビスという忍にお願いしていたのだ。

「そうだったんですね。ナルトは凄いな、いつでも強くなるために努力を惜しまないから」
「フタバだってそうだろ。サクラが言っていたよ、あんな努力家いないって」
「それは、忍術が使えなかったから…」

そこまで言って思い出したのか、フタバはみるみるうちに顔が青くなった。
心なしか震えているようにも見える。

「フタバ落ち着くんだ」
「先生、あの人が、大蛇丸が私の力をつくったってどういうこと…?お母さんはそれを知ってたの…?」
「それをこれから確かめる必要がある。…大蛇丸は木の葉の抜け忍で非常にやっかいな奴だ、俺だけの手にはおえない。火影にも報告しておいた」

まだフタバの震えはとまらない。それも当然だ。突然現れた奴によって自分の力は造られたなんて簡単に受け入れられることではない。
1人の少女が背負うには重すぎる。

「…フタバ、お前が望まないならお前は事実を知る必要はない。俺や火影だけで調査をするよ」
「…いいえ、それじゃダメです。私は全てを知る必要がある。母を火影室に呼んでください、家にいるはずです。火影様に許可をとって、あとはアスマ先生、紅先生も呼んでいただけますか?」

いつも私を心配してくださっていた先生方にも真実を知って欲しいんです。そう付け加えたフタバの目にはうっすらと涙が浮かんでいる。カカシはそれが決して溢れ出さないよう堪えているフタバを見るのが辛かった。


* * *

退院の手続きを終え病院の外に出ると、シカマルが壁にもたれかかっていた。

「シカマル…」
「…面会謝絶って追い出されたから心配したぞ。しかしその様子みると大丈夫みたいだな」

追い出されてもこうして近くにいてくれたのか。フタバはさっきまでの鬱々とした気分が薄れていくのを感じた。

「待っててくれたんだね、ありがとう。ところで予選の結果ってどうなったの?」
「ああ、お前知らないのか。結果は…」

シカマルは淡々と語り始めた。本選出場者の名前と本選の内容、フタバの初戦の相手はドス・キヌタという音の忍だということ、それは1ヶ月後に行われるということ、そして予選で大怪我をしたものがいたこと…

「その人って…?」
「ロック・リー。フタバも話してたあの体術がすげぇ人だ。相手は砂の我愛羅だった」
「そん、な…我愛羅が…?」

フタバは信じられない気持ちでいっぱいだった。いくらリーに覚悟があったとしてもあんまりだ。あんなにも真っ直ぐで、忍術が使えなくてもただ前を向き体術を極めようと努力していた人が…。
フタバはただリーの無事を祈るしかなかった。


「フタバ、話はそれくらいにして急ごうか。彼ならきっと大丈夫。ほら、もう火影たちも待ってるよ」
「あ、は、はい…」
「火影…?」

カカシの言葉をきき、シカマルの眉がピクッと動いた。しかしフタバは慌てて嘘をついた。ひさびさに吸収の力を使ってみてどうだったのか報告をしなければいけないから、と。まだ何もわからない今の状況でシカマルに話せることはない。無駄に心配を煽るだけなのはわかっている。

「…そうかよ」

しかしシカマルはその嘘に気付いていた。フタバは昔から嘘をつくのが下手なのだ。昔シカマルの誕生日にサプライズをされたことがあった。自分の親であるシカクとヨシノ、フタバの母親、そしてフタバが仕掛け人で、嘘をついてフタバの家に呼び出す手筈だったらしいのだがあっさりとそれを見破ってしまい、フタバの家に隠れていたシカクとヨシノに何故か自分が叱られた記憶がある。

フタバは嘘を言っている時目が下を向き、まばたきを多くする。
きっと相手の顔を見ることができないんだと思う。

それでもフタバは意味もなく嘘をつくような奴ではないと、シカマルは何も追及せずそのまま別れたのだった。


* * *

フタバとカカシが火影室につくと全ての人が揃っていた。椅子に腰掛けている火影と、それに向き合う形で立っているアスマと紅。その隣に今にも泣き出しそうな顔をした母親がいるのに気付き、フタバは思わず駆け寄った。母親は彼女の身体をぎゅっと抱きしめ、一言、ごめんねと呟いた。何に対する謝罪なのかわからないでいると母親は急に覚悟を決めたかのような顔をし、火影の前に進みでた。その手にはなにか握られている。


「…いつかこんな日がくるかもしれないと思っていました。火影様、これをお読みください」


そうして母親は火影に一通の手紙を差し出した。


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