▽12

フタバが全てを知った翌日、彼女は朝早くから家を出ていた。
昨日いきなり火影室を飛び出した失礼を詫びるため、三代目火影の元に向かっているのだ。

その道中フタバは1人いろんなことを考えていた。
自分はアビスマという一族の生き残りで"底なし"と"転移"の血継限界を持っており、大蛇丸の実験で今の"吸収"の力を得た。しかしそのかわりに忍術がつかえなくなってしまったようだ。
そして今の母親は血は繋がっていないが、沢山の愛情を注いでくれている。間違いなくフタバの大切な家族だ。
自分が恐ろしい実験の被験体であったということを含めても、今の穏やかな生活があるだけで十分幸せだ。しかし大蛇丸はどうも自分を狙っているような気がしてならない。気をつけて過ごす必要はあるだろう。昨日イルカにも言ったように、強くならなければ。

今日は火影に会ったあとは時間の許す限り修行に励むことにしている。母はそのためにお弁当を持たせてくれた。フタバ1人には多すぎるくらいの量だったが、強くなりたいならそれくらい食べなさい!と言う母の言葉に思わず笑ってしまい、そのまま持ってきたのだった。


そうこう考えているうちに火影室の前に着いた。するとアスマがおり、ちょうど彼もそこへ入るところのようだった。昨日のこともあり一瞬気まずい空気が流れたが、フタバはすぐに元気よく挨拶をした。


「アスマ先生おはようございます!」
「おう、おはよ。なんだ?お前も火影に呼ばれたのか?」
「え?いや、昨日のことを謝ろうと思って…」
「ハハ!お前火影に会おうってのにアポも取らずに来たのか!…ま、ちょうど今から俺も会うからお前も一緒に来たらいい」
「すみません、そんな当たり前のことも考えつきませんでした…」
「いいって、俺が問題ねぇって言うんだから問題ねぇよ」


フタバはアスマに背を押され火影室に入った。正面の椅子には待っていたかのような笑顔で火影が座っている。


「ほ、火影様!昨日はいきなり飛び出してすみませんでした!心配とご迷惑をおかけして…」
「おおフタバ。お前なら来ると思ってたよ。まあ顔をあげなさい」


深々と頭を下げ謝るフタバに優しく声をかけるとチラリと彼女の隣に立つアスマの方を見た。


「アスマから昨日のうちにお前が立ち直ったようだと報告も受けておったし心配も迷惑もしとらんよ」


アスマはそれを言うのかよといった顔で頭をかいている。フタバは飛び出した後もアスマが見守ってくれていたのだと知り、とても嬉しくなった。


「アスマ先生ありがとう…先生に1番心配かけてしまって」
「…何言ってんだよ。カカシも紅も本当は自分が行きたかったはずだ。あいつらに会ったらもう大丈夫だと伝えてやれ」
「…はい!」

フタバはニコリと微笑んだ。アスマもそれにつられてフッと頬が緩む。この少女には人を優しい気持ちにさせる能力でもあるんじゃないかとたまに思うほどだ。

「さてフタバ。先程も言ったようにお前なら朝一番に来ると思っておった。それでアスマも呼んでおったのじゃが、話を進めてもいいかの」

2人の様子をあたたかく見守っていた火影が口を開く。しかしそう予想していたとしても何故アスマを呼んだのだろうか。フタバは火影に向かって姿勢を正し、話を聞く準備をした。


「…まず、昨日あの後アビスマ一族について調べてみたんじゃが、どうやら全てあの手紙にある通りだ。突然滅んだとは知っておったが、まさかそれが大蛇丸が原因だとはな…」


火影はフーッと長いため息をついた。彼の手元に置いてある巻物はアビスマ一族に関する資料だろうか、ところどころ破れている。随分古いもののようだ。
その視線に気付いたのか、火影が巻物を広げながらフタバに説明をする。


「アビスマ一族の長い歴史の中で、"底なし"と"転移"の血継限界を持つ子が生まれた年は彼らは必ず争いに巻き込まれてきたようじゃ。この力があればどんな戦争も優位に立つことができる、力を求めた国々がこぞって自分たちの道具にしようとした結果だろう。醜い欲のために犠牲になってきたんじゃ。この巻物にはその歴史から学んだ掟として書かれておる、血継限界を持つ子が生まれたらすぐ殺すようにと」


そうきかされると、フタバが生まれた際一族の者が掟に従い自分を恐れ殺そうとしたのも仕方がなかったと思えてしまう。一族を守るため、もしくはその力が悪用されないようにするためだ。しかし父と母はその掟に背いた。そうまでして自分を救ってくれた。己の命を、なげうってまで。


「…フタバ、今はもうお主だけがその血継限界を持つ。それが知れ渡るのも時間の問題じゃろう。争いを避けるため、大蛇丸から逃れるため忍を辞めて静かに暮らすのも手じゃ。その際は木ノ葉の威信をかけてお主を守ることを約束しよう。どうする?」


フタバは悩みもしなかった。自分の中で決意したことはもう揺るがない。フタバは火影の目を見てはっきりとした声で宣言した。


「そこまで考えていただいてとてもありがたいです。しかし、私は忍を辞めるつもりはありません。もっと強くなって自分で自分の身くらい守れるようにならなくちゃいけないんです。私の目標は木の葉の皆を守ることだから。それに実験の弊害で忍術が使えないというのなら、どうにかすれば使えるようになるかもしれないということでもあります。私は諦めません!自分の可能性に賭けてみたいんです」


すると火影は大きな声で豪快に笑った。ひとしきり笑ったあと、彼は立ちあがりフタバまで歩み寄ってきた。


「フタバ、お前ならそう言うと踏んでおった!何から何まで予想通り、いやそれ以上じゃ!忍にむいておるよ、その立派な志は」

火影は嬉しそうにフタバの頭を撫でる。そして首から下げられるようにしてあるお守りを彼女に手渡した。

「もしこれから先どこかで綱手というくノ一に会うことがあればそれを渡して中身を確認させなさい。それまではフタバ、お前が身につけていてくれ。ワシが祈りを込めておいた。そんなもん、なんの役にも立たんかもしれんがな」
「火影様…ありがとうございます…」


フタバは聞いたこともない綱手という名前に頭をかしげたが、受け取ったお守りは本当に自分を守ってくれるもののように思え、すぐに首にかけた。


「さて、アスマ。何故ワシがお前を呼んだかわかるな?」
「…護衛任務か」
「そうじゃ。フタバ、気を悪くせずきいてくれ。お主は自分の身は自分で守れるようになると言っておったが、今はまだそれは難しい。いつ大蛇丸がお主を狙って近付いてくるかもわからん。だからアスマを中心にお主に何人か護衛を付ける。暗部の者も含めてな。
アスマ、お前がフタバはもう1人で大丈夫だと判断した時、この任務は完了じゃ。それまでは基本的にフタバはアスマの担当する十班で任務をこなしてもらうことになる」


アスマはやれやれといった様子でフタバを見た。まさか自分の教え子を護衛することになるとは。任務として命令された以上常にフタバを見守る必要がある。しかも長期間、いや無期限とも言える。


「…先生ごめんなさい。私ちょっとでも早く強くなって独り立ちできるようにします!」
「はあ…そんなに急がなくていいさ。お前のペースで、だが確実に強くなれ。可能な限り修行も俺がつけてやる」
「! アスマ先生本当にありがとう!」


アスマはフタバの頭を乱暴に撫で、俺は優しくはねぇぞと付け加えた。
どことなくアスマの顔も嬉しそうにみえたのはフタバの気のせいなのだろうか。


「では話したいことは以上じゃ。フタバ、お主は第三の試験本選が迫っておる。気を抜くでないぞ」
「はい!絶対合格します!…火影様何から何まで本当にありがとうございます」


火影はそれにニコリとだけ微笑み、アスマとフタバは火影室を後にした。


* * *


「ところで何故アスマ先生だったんでしょうか?」

早速今日から修行に付き合ってくれることになったアスマにフタバは疑問に思っていたことを尋ねてみた。タバコを吸っていたアスマは思いきり煙を吐き出すとフタバの背中をポンっと押した。


「お前と初めて任務を行った上忍でもあるし、まあ、フタバを任せられるとでも思ってくれたんじゃねぇの?」
「ふふ、アスマ先生って火影様に信頼されてるんですね」
「信頼ねぇ…火影も丸くなったな。一時期は出来の悪い息子とでも思ってそうだったのによ」
「息子?」
「は?お前知らねぇの?あれ俺の親父」
「えー!!アスマ先生火影様の息子さんだったの!!じゃあ木ノ葉丸ちゃんの叔父さん!?」

木ノ葉丸とはナルトによく懐いている年下の男の子で、以前ナルトと修行したときに知り合っていたのだ。木ノ葉丸が火影の孫とは知っていたが、まさかアスマが火影の息子とは。

「そんなに驚くことかよ…木ノ葉丸な、確かに俺の甥っ子」

なんでもないことのように言うアスマに驚きつつもフタバたちは修行できる場所への移動を続ける。しばらく歩くと木以外何もない広い森についた。


「よし、ここでいいだろ。…お前が忍術を使えないのはイコールチャクラがうまく練れてないってことだ。大蛇丸の実験で大事な神経かどっかやっちまってんだろうな。だが恐らく吸収の制御ができてないのはただ経験が足りねぇからだ。そのためにはまず慣れろ。不本意だが俺が相手になってやる」


アスマはそう言うと右腕を差し出してきた。そこからチャクラを奪えと言っているのだろう。フタバはかなり気が引けたが、強くなると言った以上嫌なことにも挑戦していかなければならない。


フタバはそっとアスマの腕に触れた。


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