「思ってた以上にきついなこれ」
アスマとフタバは修行を一旦やめ昼休憩をとることにした。チャクラの吸収、そして回復(正確には転移だがフタバは回復と呼び続けている)を繰り返し受け続けたアスマは想像よりもはるかに疲弊していた。一気にチャクラを消費するのは身体にも相当な負担がかかる。その上また一気にフタバのチャクラを身体に転移し回復するのだから疲労が溜まるのも当然だ。
「アスマ先生本当にごめんなさい…でもなんとなくコツが掴めてきたような気がします!」
「そうか。じゃあ身体張った意味もあるってもんだ」
フタバは母に作ってもらった特大サイズの弁当をシートの上でひろげた。中身はフタバの好物ばかりで、思わず笑みがこぼれてしまう。
「なんだフタバお前結構大食いなのか?」
「ち、ちがいます!母が張り切って用意してくれたんです!あ、よかったらアスマ先生もいかがですか?」
「本当か?そりゃ助かる。なんも持ってきてねぇからな」
アスマは勧められた卵焼きを一つ頬張ると、その美味しさにまた手が伸びてしまい気付くとフタバよりも多く弁当をたいらげてしまった。
そんな様子を嬉しそうに見ていたフタバは次はウチでご馳走しますねと提案した。ありがとなと答えたアスマはさっきまでの疲労もだいぶ消えたのか、リラックスした様子で横になり空を見上げている。
自分達が今修行中だということを忘れてしまうくらいに穏やかな時間だった。
フタバもアスマにならい彼の隣で寝転び空を見る。真っ青な空に少なめの雲がふわふわと漂っている。鳥の鳴く声、風の音、どこかで流れる川の音、それはまるで子守唄のようだ。
「アスマ先生」
「なんだ」
「私先生のチャクラを吸収してもいつも程は疲れませんでした。先生のチャクラと私のチャクラ相性いいのかも!」
「ハハ、なんだそれ。そんなんあんのかよ」
「わかりません、けど予選でカブトさんから吸収したときは予想以上に疲れてしまって。もしかしたら
なにかあるのかなーって」
フタバは自分の手を見つめた。大蛇丸が創り出した力とはいえ、今は自分の大切な戦力だ。どうせならこの力の全てを理解し使いこなしたい。そして中忍になることができたら難易度の高い任務をじゃんじゃんこなして里の力になりたい。フタバは未来の強くなった自分の姿を想像しフフッと小さく笑った。
あんな真実を知った翌日にこんなにも前を向いている隣の少女に、アスマは少し尊敬に似た感情を覚えた。彼女を強くしてあげたい。割とめんどくさがりな部分がある自分がこんなことを思うようになるとは。
アスマは腕を伸ばし寝転ぶフタバの頭にポンと手を置いた。随分前にシカマルが言っていた通り自分はフタバに触れすぎているかもしれない。だが仕方ない。愛しい対象には自然と触れたくなるものではないか。
「(娘がいるってこんな感じなんだろうな)」
そんな思いを知るよしもないフタバは頭に置かれたアスマの手の重さを目を閉じて受け入れた。
フタバはしばらくしてハッと身体を起こした。あたりはオレンジ色に染まり始めている。アスマは少し離れたところでクナイを木に投げている。フタバは慌てて彼の元へ向かい眠ってしまったことを詫びた。
「いくらチャクラが底なしだからって繰り返し力使うと疲れるだろうよ。そんときは無理せず休むのが1番だ。俺もこれ以上チャクラ吸収されてたら身体もたなかったかもしれねぇし。ま、今日は帰りますか」
アスマはフタバにクナイを手渡すとくるりと踵を返し里の方へ歩き始めた。フタバも遅れないよう早歩きでとなりに並ぶ。
「お前忍具使うのわりと得意みたいだから更に命中率上げろ、強みになる。明日はその修行だ」
「明日もいいんですか?」
「どうせお前の護衛しなきゃなんねぇしいいよ」
「やったー!ありがとうございます。先生、実は私体術も得意になりたくて。よければそれも見ていただけますか?リーさんと約束したんです、今度一緒に修行しようって。だから彼が退院したら驚かせられるくらいには強くなっていたいんです」
「体術か…んーまあぼちぼちな」
ニコッと嬉しそうに笑ったフタバは更に歩くスピードを上げ、里まで走って帰ります!とアスマに手を振った。
「…元気じゃねぇか」
フタバの護衛任務中であるアスマは彼女を見失わない程度に歩く速度を速めた。
* * *
修行をして2週間、フタバは随分吸収を使いこなせるようになった。どの程度吸収すると相手のチャクラが限界を迎えるかもなんとなく読めるようになっており、それは彼女の自信にも繋がった。
この期間、アスマだけでなくシカマルやサクラなど、何人も修行に付き合ってくれた。やはり相手によって吸収を使ったときの自分の疲労も変わってくる。相性、やはりそんなものがありそうな気がした。
忍具も前より上手く扱える。体術は思っていたより自分にむいていないようだが、諦めることなく取り組み続けていた。
今日はアスマやカカシ、紅は火影から召集がかかったようで修行をみてもらうことができない。フタバの護衛には暗部がついている。だが距離を取って見てくれているようで、フタバはほとんど暗部の存在を気にすることなく過ごせていた。
アスマにどうせだから今日はしっかり休めと言われており、修行はできない。
久々に散歩でもするかとフタバは1人里の中心部に出ることにした。
しばらく歩いていると見知った後ろ姿があった。砂の里の3人だ。フタバは久々に見た姿に嬉しくなり急いで駆け寄った。
「我愛羅、テマリさん、カンクロウさん!」
「…フタバじゃないか。相変わらず元気だね」
冷たく言い放つテマリだが、その顔はどことなく優しい。
「お久しぶりです!皆さんはお元気でしたか?」
「まあまあじゃん」
カンクロウの言葉を聞いて微笑むフタバを我愛羅は表情一つ変えずに見つめたまま口を開いた。
「お前俺が憎くないのか」
「…リーさんのこと?そりゃ聞いたときはショックだったしやり過ぎだとも思ったよ。でもリーさんなら大丈夫!絶対元気になるよ」
フタバは一度彼の見舞いに行っていた。その時はまだ絶対安静で面会もできなかった。看護師が忍として生きるのは難しいと言っているのも聞いてしまった。それでも彼なら大丈夫だと信じていた。まだそんなに親しい仲ではないが、何故だかそうおもえてならない。
「だから我愛羅のことを憎む必要はないでしょ?我愛羅は私の友達なんだからそんな風に思いたくないし」
「友達?」
また我愛羅の頭がズキンと痛んだ。フタバと話すといつもこうなる。
だが何故だろう、嫌な気持ちはしない。それよりも彼女ともっと親しくなりたいと心のどこかで願っている自分がいる。だめだ、いずれフタバも自分を恐れ離れていく時が来るのだ。もう期待などしてはいけない。
「ところでこれから時間ありますか?もしよければ甘栗甘っていう甘味処があるので一緒にいきません?」
フタバがそう尋ねるとカンクロウはすぐに賛成してくれた。テマリは我愛羅の様子をうかがっている。フタバもそれに気付き我愛羅に向かってニコリと微笑んだ。
「…俺はいい。お前たち3人で行ってこい」
「えーなんで!我愛羅も行こうよ。お団子とかお汁粉とか美味しいよ」
「興味ない。あまり俺に関わるな」
「あ!…行っちゃった。なによー前はもう少し話してくれたのに…」
瞬身で去って行った我愛羅の向かった方向を見て、フタバは悲しそうにそう呟いた。
カンクロウとテマリは気まずそうにフタバを励ます。
「ま、まぁあいつ甘いものそんなに好きじゃねえししょうがないじゃん」
「私たちは楽しみだよフタバ。はやく連れて行ってくれ」
「…そうですね、せっかくだし3人で楽しみましょう!」
すぐに元気を取り戻したフタバに連れられ、3人は甘栗甘へと向かった。
* * *
「うん、確かに美味しいね」
「そうですよね!ここのお団子おすすめなんです!」
3人は机の上に並べられた甘味に舌鼓をうちながら和気藹々と会話をしている。他里の忍同士であることやこの前まで競い合っていたことを忘れてしまうくらい楽しい。それでもやはり我愛羅のことがひっかかる。
「…我愛羅は私のことが嫌いなんでしょうか」
突然そう言ったフタバに2人がなにも言えないでいると、フタバはまたポツリと呟いた。
「わかってるんです、火影様がおっしゃっていたようにこの合同試験は戦争の縮図であるということは。でもそれは大人たちが勝手に決めたことであって、私達が仲良くしても何も問題ないじゃありませんか。私は皆さんのことが好きです。友達だと思ってます。ただそれだけなんです」
「フタバ…」
カンクロウとテマリは顔を見合わせた。
2人の気持ちはおそらく同じだ。テマリはお茶を一口飲み深く呼吸をすると優しくフタバに語りかけた。
「フタバ、私達は今まで忍として育てられてきた。それこそ友達だとかそんなものは不要なものだと思ってた。でもあんたが私達を好きだと言ってくれたことは素直に嬉しいよ。我愛羅はあんたの純粋さが怖いんだと思う。あんたみたいな奴いなかったからね。きっといつかわかってくれるさ。…私達を友達だと呼んでくれてありがとう」
そう言いおわるとテマリは照れ臭そうにまたお茶を飲んだ。カンクロウがにやにやと笑っている。こんなテマリの姿を初めてみたからだろう。笑われているのに気付いたテマリはカンクロウの肩を殴った。
「テマリさん…こちらこそありがとうございます。国同士の争いについてはまだよくわからないけど、私達の代では仲良くしましょうね!きっとうまくいきます」
「フタバお前って本当におもしれぇ奴じゃん。そんなんで忍やっていけんのかよ」
「なにを!私だって戦えはしますよ!ただしなくていい争いはしなくていいと思ってるだけです!」
「…まあそうだな。俺だってそう思うじゃん」
3人はなんだか自分たちのしている会話がどうにもおかしく感じて笑ってしまった。
国なんて関係ない。こうやって話せば分かり合えることが沢山あるのだ。
その日はしばらく話をし、中忍試験本選で戦うことになろうとも正々堂々とやりあおうと互いを高めあい別れた。
しかしフタバは知らなかった。
今日火影から召集がかかったのは第三の試験予選の審判であったハヤテが何者かに殺されたことを通達するためであったということを。
それに加えフタバが戦ったカブトは大蛇丸と通じており、中忍試験中に彼らがなにか企んでいるのではないかと火影は踏んでいた。もしかすると砂や音などの同盟各国が大蛇丸と組んで木ノ葉に襲撃をかけるということかもしれない。それがわかっていながらも試験は決行される。大蛇丸がアンコに試験は中止するなと脅しをかけていたのだ。
火影はもし襲撃があったとしても木ノ葉の力を総結集して戦うのみだと召集された上忍たちに言い聞かせた。お前たちを信頼しているから、と。
フタバは知らなかった。テマリやカンクロウと楽しく会話をした数日後、彼らは自国である砂隠れの里に戻りそこで担当上忍から木ノ葉襲撃の計画をきかされることになるということを。
フタバはなにも知らず、ただ今の自分は幸せだと本気で思い込んでいた。