▽14

「なんで今更戦争をする!?あれだけ時間と犠牲を払ってやっと作り上げた同盟条約なんだろ…それを破ってまで…また大勢が死ぬ…」


自分たちの担当上忍であるバキから砂は音と組んで木の葉に襲撃をかける、ということをきかされたテマリは思わず反論した。
フタバの顔が頭に浮かんで冷静ではいられなかった。つい先日自分たちのことを友達だと言ってくれたのだ。それなのに。


「所詮忍は争いの道具だ」


バキは続けた。
同盟条約をきっかけに風の国の大名が砂隠れの里の軍備縮小を強引に始め、砂隠れに依頼すべき任務を木ノ葉に依頼するようになった。それは自国の経費を大幅に削るためであった。木ノ葉に頼む方が安くつくから、と。


「頭がバカだと苦労するのは我々手足だ。我々は戦力維持のため忍一人一人の質をあげるしかなくなったのだ。だからお前のような忍が生み出されたんだよ、我愛羅」

我愛羅はそれに答えることなくただ静かに話をきいていた。しかしその顔はどことなく歪んで見える。


風影は音隠れと組み木ノ葉を落とすことで風の国のバカな大名に国の危機管理の甘さを知らしめると共に、そういった愚策のせいで存在が危うくなってしまっている砂の里の回復を計ろうとしているのだとバキはまとめた。


テマリは複雑な思いだった。自国を思うならばそれも致し方ないのはわかる。しかし、あまりにも。あまりにも酷い話ではないか。そんな計画があるならばむやみに木ノ葉の忍と親しくするなと言っておいてほしかった。もう自分たちはフタバの優しさを知ってしまっている。木ノ葉の美味しい甘味処や人のあたたかさ、沢山のいいところを知ってしまっている。どうしても感情が先立ってとても襲撃なんてできない。
それはカンクロウも同じようでその顔には焦りがみえる。2人は何も言えないでいた。


「この任務…我愛羅、お前の働きにかかっている」


我愛羅はどうなのだろうか。少なくともフタバに対してなにかしらの想いがあるはずだ。もしかしたら我愛羅が反対してくれるかもしれない。テマリとカンクロウはわずかな期待を胸に我愛羅の答えを待つ。

「ああ」

その声はあまりにも冷たく、そこには一切の感情は感じられなかった。
テマリとカンクロウは自分たちの無力さを悔やんだ。


* * *


その頃木ノ葉でアスマと修行に励んでいたフタバは1人川辺にいた。
長めの休憩時間を貰い、今まで暑い夏の日差しに照らされ続けていたフタバは涼を求めてふらっとここまでやってきたのだ。

「ひゃー!気持ちい!」

水着なんて持ってきていないフタバは着ていた服をたくし上げ脛のあたりまで川に入った。
冷たい水が心地よく体温を下げる。気分を良くしたフタバはぱしゃぱしゃと水飛沫を楽しんでいた。
しかしどうも草むらのほうから視線を感じる。そちらをパッと素早く見ると何者かとばっちり目があった。

「ど、どなたでしょうか?」
「すまんすまん!おなごの気配がしたんじゃがまさか子供とはのォ!…しかしよくワシに気付いたな嬢ちゃん」

ガサガサと音を立てて近付いてきたのは白髪で奇抜な髪型をし、歌舞伎役者のようなメイクを施した男だった。

「私さっきまで修行してたので過敏になってたのかもしれません。フフ、それにしてもせっかく覗いたのに子供ですみませんでした」

フタバはからかうようにそう言うと岩に腰掛けている男の隣に並んで座った。

「ハハハ!面目無い!しかし修行とは、嬢ちゃん忍か?そうは見えんのォ」
「よく言われます。でも今度中忍試験の本選にでるんですよ。おじさんも忍なんですか?」
「ん、ワシか?まあそうじゃのォ。これでも一応強いぞ!」

フタバはクスクスと笑い、自分がまだ名乗っていないことに気づいた。

「私フタバって言います。おじさんのお名前うかがってもいいですか?」
「よくぞきいてくれた!ワシは妙木山蝦蟇の精霊仙素道人通称ガマ仙人、自来也だ!」
「え、自来也ってまさかあの三忍の一人の自来也様ですか!?」

自来也と名乗った男は自分の名を聞き驚いている少女にニコリと笑いかけた。

「フタバはナルトと違って物知りじゃのォ。まったくあいつは…」
「…自来也様。私大蛇丸という忍に会いました。のちに調べたら三忍と呼ばれていたことを知って…。それで自来也様のことも知ったんです。まさか火影様がおっしゃった綱手さんというくノ一は、同じく三忍の1人綱手様のことなのかな…」
「…おいおい、なんの話をしとるんだ。何か事情がありそうだのォ」

フタバはハッとし、失礼を詫びた。そして彼女は自来也に全てを話した。自分は大蛇丸の実験体だったこと、それによって得た力のこと、再び大蛇丸に狙われているということ、火影に綱手というくノ一に会うことがあればこのお守りの中身を渡せと言われているということを。
自来也は聞き終わるまでずっとフタバの目を見ていた。

「…なるほどのォ。また厄介なことに巻き込まれたな」
「…いきなりこんな話をしてしまってすみません。自来也様、大蛇丸は何を企んでいるんでしょうか?」
「…あいつの考えていることなんて分かりたくもないのォ。しかしフタバ、お前さんは気をつけるに越したことはない。ワシはもう暫くこの里にいるから何かあれば頼ってくれてかまわん。将来有望な可愛い女の子は見捨てておけんからのォ」
「自来也様…ありがとうございます!」


フタバは心から感謝した。三忍の1人がこう言ってくれるのは非常に心強い。しかも三忍であるにも関わらず偉ぶることもなく人の良い自来也にフタバはすでに心を開いていた。

「ところでさっきナルトとおっしゃってましたがどうしてナルトを知っているんですか?」
「今ワシはあいつに修行をつけておってのォ。なんだ、知り合いか?」
「はい、友達です!すごいなぁナルト、自来也様の弟子になるなんて!なにか私にお手伝い出来ることってありますか?チャクラを転移して回復することならいくらでもできます!」
「…実はナルトのチャクラをわざと限界まで消費させて修行をしておってのォ。なるほど、今までは消費するたびにフタバがチャクラを転移してくれていたから力が出切っていなかったのもあるのか」
「!! …私ナルトの邪魔になっていたんですか…?」
「ハハハ!違う違う!ナルトは2種類チャクラをもっての、普段使わないチャクラを引き出すためこの方法をとっておったんだ。だがそれもさっき終わった!あいつはコツをつかんだようだのォ」

フタバは頭にいくつもハテナが浮かんだ。ナルトが身体の中に九尾を封印されているということは里の大人たちの態度で気付いていたが、もう一つのチャクラとはその九尾のチャクラのことだろうか。
もしそんな力を使えるとしたらどこまで強くなれるというのか。フタバはナルトの可能性に身震いした。

「(今の会話だけでなんとなくナルトの力を理解したか…賢い子だのォ)…もう無駄にナルトのチャクラを消費する必要もなくなった。フタバさえよければまたナルトにチャクラを転移してやってくれ。そろそろ病院にいる頃だのォ」

自来也は先程口寄せの術を使えるようになったナルトのことを思い出していた。九尾のチャクラを自由自在に操れるようになれば怖いものなしだ。
しかし今はまだ身体の消耗も激しいだろう。
フタバの力があれば多少はマシになるはずだ。


「病院…わかりました!自来也様、また色々お話きかせてください。そろそろ休憩時間も終わるので私行きますね!今日はありがとうございました!会えてよかったです」

笑顔で手を振るフタバに自来也も手をひらっと振って応えた。

自来也はしばらくフタバの後ろ姿を見ていたが、またすぐに「取材、取材」と川遊びをする女性の姿を探し始めた。


* * *

アスマとの修行を終えたフタバはナルトがいるであろう病院へと向かっていた。
アスマも誘ったが今日はしんどいということで1人で行くことになった。ということは今はどこかで暗部が護衛のため自分を見てくれているのだろう。フタバは見えもしない暗部の忍に心の中で感謝を述べた。

「あ、ついでにサスケとリーさんの様子もみてこようかな」

木ノ葉病院についたフタバはまずはサスケの病室に向かった。しかしベッドにはサスケの姿はなく、看護師たちも行方が分からず困り果てているのだと言う。フタバは考えていた。最近めっきりカカシの姿をみない。恐らくサスケはカカシと修行しているのだろう。

「(きっとすごく強くなってるんだろうな)」

フタバは早く2人に会いたいと思った。そしてサスケの病室を後にし、リーの元へ向かった。

「失礼します…」

病室の隅に置かれたベッドにはリーが眠っていた。傍にある花瓶には一輪の花がいけられている。

「私も何か持って来ればよかったな…」

その言葉が聞こえたのか、リーがうっすらと目を開けた。

「…フタバさん?」
「リーさん!すみません、起こしてしまいましたね」

リーはまだ意識がはっきりしないようでゆっくりとまばたきを繰り返し、また眠ってしまった。なんて痛々しい姿なのだろうか。フタバはそっと彼の左手を握った。


「…リーさん、約束しましたよね。一緒に今度修行しましょう。私今体術の修行しているんですがとても苦手なんです。コツを教えてくださいね」


フタバは意味があるか分からないが自分のチャクラを少しだけリーに転移した。
フタバの言葉が聞こえたのか、それとも転移が心地よかったのだろうか、リーは眠ったまま少しだけ口角を上げた。

フタバは起こさないよう静かに病室を出ると、次はナルトの病室を探した。


ナルトはすぐ近くの病室にいた。目を開ける気配もなくぐっすりと眠っている。自来也の修行はよほど厳しかったのだろう。フタバはふうっと短く息を吐きベッド脇の椅子に座った。

当然だが自分だけでなく周りの皆が修行をして強くなっていく。フタバも強くなってきた自覚はあるがやはり全く焦りがないわけではない。本選はどんな戦いが繰り広げられるのだろうか。徐々に近付いてくるその日が待ち遠しいんだか不安だかわからない。

「ナルト…私もナルト程頑張れてるかな…」

フタバはナルトの額に手を置くとそこからチャクラを転移した。
それからしばらくナルトの顔を見つめていると看護師に面会時間の終了を告げられた。慌てて謝罪し病院を出るとあたりはすっかり暗くなっている。


空を見上げると大きく綺麗な月が浮かんでいた。


「(…私は私のやり方で残り時間を精一杯がんばります!)」


フタバは月にそう誓うと足早に家へと向かった。


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