▽18

「そのはしゃぎ様からして…一回戦、勝ったのか?」

サスケがナルトにそう尋ねるとナルトは誇らしげに「もちろん」と答えた。
サスケもどことなく嬉しそうに見える。

カカシもそんな様子を微笑ましく見守っていたが、ハッとしてゲンマに質問をした。

「こんだけ派手に登場しちゃってなんだけど…もしかしてサスケの奴失格になっちゃった?ホラ遅刻したでしょうサスケ…」
「アナタの遅刻癖がうつったんでしょ!?ったく!」

ゲンマの言葉をきいたカカシは気まずそうに頭をかいている。

「で…どうなの?」
「…大丈夫ですよ!サスケの試合は後回しにされました。失格にゃなってません」
「アハハ…そりゃ良かった!良かった!」

そんな彼らを我愛羅が冷たい目で見下ろしている。サスケもそれに気付いたのか、2人は互いに睨み合う。

「あんな奴に負けんじゃねーぜ!」
「ああ…」

サスケはナルトの言葉にはっきりと答えた。
そしてナルトは更に続ける。

「俺も…お前と闘いたい……!」

真剣な眼差しだった。それはまさにライバルにむけられるもの。最早サスケもナルトを認めている。「…ああ」とサスケが答えるとナルトは嬉しそうに笑ってみせた。

「サスケ…」

フタバはサスケをみて安心していた。やはりカカシと修行していたのか。そう思ってはいたが万が一大蛇丸に連れ去られていたらという恐怖心もないわけではなかったのだ。

「フタバー俺も久々会うんだからちょっとは喜んでよ。ところでサスケのチャクラ回復してやってくれる?」
「あ、はい!もちろんです!カカシ先生にも…」
「あー俺なら大丈夫。ありがと」

フタバはカカシのその言葉を聞き、急いでサスケの手に触れた。
久々に触れた彼の手は以前よりもたくましい気がする。

「…サスケ、よかった。身体はもう大丈夫なんだね」
「ああ、お前にも心配かけたみたいだな。カカシから聞いた」
「ふふ、私よりサクラの方が心配してたんじゃないかな。あとで会ってあげてね」
「……そうだな」

サスケは複雑そうな表情をしたあと、「もういい、ありがとな」とフタバの肩に手を置いた。


そんな2人の様子をサクラが観客席から見ていた。フタバはチャクラを回復するためにサスケに触れているのだ。それを理解しているのに友人に嫉妬してしまう自分がサクラは嫌だった。


そんな中、気付けば会場全体がサスケが現れたことで盛り上がっている。観客達がサスケを見てあれがうちはの末裔だと騒いでいるのだ。しかしフタバはそれが面白くなかった。

「サスケ」
「…なんだ」
「私はサスケのことうちは一族として見たことはないよ。サスケはサスケ、どこの末裔とか関係ない。友人として強いのを認めてるから応援するの」
「……フン、お前らしいな」

サスケは嬉しそうにそう言うと、途端に真面目な顔をして対戦相手である我愛羅を見上げた。

試験官であるゲンマもそろそろ試合開始だと我愛羅に降りてくるよう伝える。


「ナルト、フタバ、上に行こう。…上がる時くらいゆっくり階段で行くぜ」
「なんだってばよ!突き落としたのまだ根に持ってんのかぁ!?」
「ふふ、サスケ頑張ってね!じゃあ行こっか」

フタバ達3人は急いで階段へと向かった。


* * *

我愛羅は妖しい笑みを浮かべてサスケを見下ろしている。

「(ヤ、ヤバイ…こんな我愛羅は久々に見る…)」

テマリはそんな弟の様子を恐ろしい物を見るかのような目で伺っている。

「オ、オイ我愛羅…作戦のことわかって…」

言いかけたカンクロウの口を、テマリが慌てて手で抑えた。

「今我愛羅に話しかけるな…殺されるぞ!」

禍々しい雰囲気を纏ったまま試合会場へと向かう我愛羅に、2人は何も声をかけることができなかった。

* * *


「意外と長い階段だね…」
「ほらフタバもシカマルも急ぐってばよ!」
「人生慌てたってろくなことねーぞ」

そんな会話をしていた3人だったが、ナルトが妙な気配を感じとった。

フタバとシカマルもようやく気付いたようで慌てて息を潜める。
すると本選出場者の控え室と試合会場を繋ぐトンネルの方から、グチャ、ズチャっと何かを握りつぶすような音が聞こえる。そして生臭い血の匂いが漂ってきた。

目を凝らして見ると、トンネルに2人分の死体が横たわっている。バカな男たちだ、彼らはこのトーナメントは賭け試合にうってつけだと、事もあろうに我愛羅にわざと負けるよう八百長を持ちかけてしまったのだ。

しばらくするとトンネルの中から我愛羅が出てきた。服には所々血がついている。段々と自分たちに近付いて来る我愛羅に3人は身動きが取れないでいた。
ドクンドクンと心臓の音だけが耳を支配する。

いよいよ3人の間を我愛羅が通り抜けようとしたとき、フタバがぴくりと動いた。

「我愛…!!」

彼に駆け寄ろうとしたはずの身体は全く動かず、我愛羅は振り向くこともせずに試合会場へと消えて行った。

「ふ〜〜〜」

ナルトとシカマルは思わず階段に座り込む。
しかしシカマルはすぐにフタバに詰め寄った。

「お前なに考えてんだ!アイツに何しようとした!」
「…わからない、だけど勝手に身体が動こうとして…」
「…お前に回復してもらっててよかったぜ。ギリギリ影真似の術でお前の動き止められたんだからな」
「……ありがとう」
「それにしてもあんなに躊躇なく人を殺す奴初めてみた…サスケでもヤバイぞこりゃ…」

フタバはシカマルにお礼を言うことしかできない自分が悔しかった。
自分では我愛羅を救うことなんてできない。いや、そもそも救うなんて考えるのはおこがましいことだったのだ。
それでもどうにか彼を変えたかった。というよりも本来の我愛羅を見せて欲しいという思いが消えない。何故だかわからないが彼は本当は慈愛に満ちた人物だと思えてならないのだ。自分がカンクロウにぶつかってしまったとき、『怪我はないか?』と優しく立ち上がらせてくれた我愛羅が頭から離れない。


「(我愛羅…サスケ…)」


フタバは震える手をぎゅっと握りしめた。


* * *

カカシは試合が始まる前にサクラ達の元へ向かった。
彼はガイに連れられたリーを見て、身体の具合は大丈夫なのかと尋ねる。その声でサクラはカカシに気付いた。

「(あーあ…怒るわよサクラ…)」

いのがそう思うのも当然だ。サスケが病室から消えたことでどれだけサクラが心配していたことか。カカシと修行していたのならそう連絡してくれてもよかったではないか。

しかしサクラはその件について一切言及しなかった。
それよりもサスケの首元にあったアザのことが気になって仕方ない。

「カカシ先生…サスケくんの首にはアザがあったでしょ…アレは…」
「心配ないよ」

はっきりと言い切り微笑んだカカシを見てようやく安堵したサクラ。
そしてカカシはサクラと話しながらも、会場に配備された暗部の少なさに疑問を感じていた。

「この広い会場に暗部8人…2小隊とは少なすぎる。火影様はどうするつもりだ」
「イヤ、相手の出方がわからん以上暗部は里の主要部にも分散し配備せざるを得ないのだろう」

密かに相談し合うカカシとガイに誰も気付くことはなかった。


* * *

「始め!」

ゲンマの合図でサスケと我愛羅の試合が始まった。
サスケは我愛羅の瓢箪から放出される砂を見て間合いを取る。我愛羅が砂を操るということはカカシから聞かされていたのだ。

しかし我愛羅は攻撃をするどころか頭を抑えている。必死に痛みを堪えているようだ。

「そんなに…怒らないでよ…母さん」

ブツブツと独り言を言う我愛羅に、サスケは得体の知れない気味の悪さを感じた。彼が何を言っているのかまるで理解できない。

「さっきは不味い血を吸わせたね…ごめんよ…でも今度はきっと…美味しいから…」

そんな我愛羅の様子を見ながらカンクロウとテマリはこの試合の"ヤバさ"を感じ取っていた。
我愛羅の『会話』が戦う前から始まったことは今までにない。サスケがそれほどの相手だということなのだ。

我愛羅はもう一度痛む頭をおさえ、呼吸を整えた。
どうやら"発作"がおさまったようだ。

彼はサスケをギロリと睨むと、「来い」と一言だけ発した。


* * *


階段には未だ動けずにいるフタバ達がいた。
茫然としていたさなか、シカマルが口を開く。

「あいつと病院で会った時のこと覚えてるか?あいつあの時『お前たちは必ず俺が殺す…待っていろ』って言ってたろ…でもさっきそうしなかった」

絶好のチャンスだったにも関わらずだ。彼らのことなど我愛羅の目にも入っていないようだった。

「俺たちじゃ…物足りねーんだ」

他者を殺すことでだけ自分が生きている意味を感じることができると言っていた我愛羅。
今彼に生を感じさせることが出来るのはサスケなのだろう。

ナルトは自分の身体が震えているのがわかった。

「…でもあいつはあの時追いかけて行ったフタバのことも殺さなかった。あいつ…一体何考えてるんだろうな」

フタバはそう話すシカマルを見つめ、何故かこぼれ落ちそうになる涙をこらえた。

「…我愛羅は助けて欲しいのかも知れない」
「はあ?お前何言って…」
「きっと彼は本当は…」

そう言いかけたフタバだが、その先の言葉が見つからなかった。自分は何と言いたかったのだろう。
フタバはその答えを探すように我愛羅達が闘っている試合会場へと繋がる通路を見つめた。


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