▽19

サスケと我愛羅が交戦する最中、我愛羅の砂の盾は砂分身へと変化していた。自在に動くその分身はサスケの攻撃を悉くいなしてしまう。

また防がれると誰もが思った瞬間、サスケは素早い動きで我愛羅の背後を取りその顔面に一撃を喰らわせた。
観客席で見ていたリーは思った。「あれはボクの体術のイメージと重なる…!」と。

それからのサスケの攻撃は眼を見張るものがあった。スピードも一月前とは比べ物にならないほど上がっている。

しかしよほどスタミナを消耗するのだろう、我愛羅の砂の鎧を少々剥いだ頃にはサスケの息が上がり始めた。
しかし我愛羅とて長くもたないのは同じ。砂の鎧はチャクラを大量に消費してしまうのだ。カンクロウとテマリは我愛羅がどのような作戦でサスケと渡り合うつもりなのか不安で仕方がないという顔をしている。

一方でその闘いをみているガイはカカシに問うた。どのような修行をすればあそこまでの成長に繋がるというのか。
カカシはそれに答える。
サスケは写輪眼でリーの体術を真似たことがある。修行中サスケにリーの動きをイメージさせたのだと。

だが体術だけでは我愛羅に勝てないことはカカシも承知のはずだ。予選の際、リーが体術で彼に挑みやられてしまったのは見ていたではないか。
ガイは何故カカシが体術ばかりを極めさせたのか理解することができなかった。


話しているうちに試合が動き始めた。防戦一方だった我愛羅は印を結び自分の周りに球体状に砂を集めている。その顔は何かを狙っているように一点だけを見つめていた。


* * *

「シカマル、フタバ!カカシ先生んとこ行くってばよ!」
「…どうするつもりだ?」
「ナルト…?」
「この試合を止める…!」

シカマルとフタバは走り出したナルトの後を慌てて追いかけた。

* * *

我愛羅が完全に球体に包み込まれた時、それに向かってサスケが殴りかかる。

「(我愛羅の奴まさかあの術を…!?)」

カンクロウがそう思うよりも早く、サスケの拳は砂の球体に届いていた。
しかし傷1つ付いていないその球体はサスケを貫かんばかりに針のように変形し、彼の身体を傷付けた。
砂を全て防御に回したのか、拳で殴るくらいではビクともしない硬度だ。これは所謂、絶対防御。


その様子を見て誰もが息を飲んだ。打開策が浮かばない。どうすればアレに勝てるというのか。

「カカシ先生!!」

そんな沈黙を破るようにナルトの声が響いた。
追いついたシカマルとフタバは息を切らしている。

「ん、何なのよ?」
「先生!今すぐこの試合を止めてくれってばよ!アイツは人を殺すために生きてる!とにかく!このままじゃサスケ死んじまうぞ!」


我愛羅は視界の無い球体の中で改めて印を結んだ。
砂が徐々に眼球のような形に変わっていく。


「(間違いない、あの術だ…!まずい、我愛羅の頭の中にはもはや計画のことは…)」


計画実行の時を待つテマリは不安と焦りと恐怖でどうにかなってしまいそうだった。


「カカシ先生!」

一向に自分の意見を聞いてくれないカカシにナルトが痺れを切らしたかのように叫ぶ。早く試合を止めてくれ、その一心だ。

「ま!心配すんな。アイツも俺も無駄に遅れてきたわけじゃないさ…」


我愛羅と対峙するサスケがニヤリと笑った。


* * *


サスケが修行で得た技、それは"千鳥"というカカシのオリジナル技だった。
千鳥は視認できるほどの膨大なチャクラをうむ肉体活性と、体術を極めスピードを高めたことで、ただの突きを暗殺用のとっておきの技へと昇華させたものだ。

そしてその技は我愛羅の絶対防御までも貫いた…!

砂の忍たちは破られることのないと思っていた防御が破られてしまったことよりも、我愛羅が今どんな状態でいるのかを何より恐れた。

"完全憑依体"になってしまっていてはもう…。

すると球体の中からまるで化け物のような巨大な腕だけが出てきてサスケを押しのけた。

それを一番間近で見ていたゲンマは地面がビリビリと振動するのを感じた。

やがて球体が崩れ、中から現れた我愛羅の左肩からは血が滲んでいる。

「やはり傷が…!不完全なまま殻が破られたんだ!」


テマリがそう叫んだ瞬間、会場全体にふわっと大量の羽が舞った。

「アレ…なんだってば…目の前が…」
「これってまさか、幻じゅ、つ…」

ナルトとシカマル、幻術とわかっていながらもチャクラを上手く練ることができないフタバはその場に倒れこんだ。

しかしカカシやガイ、サクラはいち早くそれに気付くと幻術返しをしなんとか意識を保った。

もちろん幻術になどかからなかった火影は、隣で飄々と座っている風影を見て頬に冷や汗が伝うのを感じた。

「やるか…」と一言呟いた風影は、その場で煙幕を焚く。

幻術、煙幕、それは作戦開始の合図…!
カンクロウたちにこれまでにない緊張が走った。


* * *

風影は火影を捕らえ、自分の周りに誰も入ることのできない結界を張った。
そこで火影は理解した。音と砂が組み木の葉を裏切ったのだと。

我愛羅の元にはカンクロウ達が集まってきている。
作戦を実行しようとするが、肝心の我愛羅が頭を抱え呻いている。
術の副作用だ…。そう判断したバキはカンクロウとテマリに作戦は中止、我愛羅を連れていったん退けと命じた。

「先生は…!?」
「俺は参戦する…行け!」
「う…うん!」

サスケは我愛羅を連れて逃げるカンクロウ達を目で追う。

「おい!なにがどうなってる!」

状況が読めないでいるサスケにゲンマが答えた。

「悪いが中忍試験はここで終わりだ。とりあえずお前は我愛羅達を追え!」

サスケは訳も分からぬままその言葉に従い3人の後を追う。それを観客席からカカシがみていた。



「我愛羅は役に立たなかったか…」

風影も退く彼らをみていた。しかしその顔にはまだ余裕があり、私の勝ちだと火影を煽る。


「フン…全てのことはその終わりまで分からぬ。そう教えたはずだったな…大蛇丸」


そう、風影だと思われていたのは彼に扮した大蛇丸だったのだ。
木ノ葉の里を抜ける前自分の師であった三代目火影の首にクナイを当てたまま、大蛇丸は告げる。

「言ったはずですよ…早く五代目をお決めになった方が良いと…三代目、あなたはここで死ぬのだから」


* * *


火影と大蛇丸を覆う結界忍術に気付いたカカシはサクラに向かいナルトとシカマル、そしてフタバの幻術を解くよう伝えた。

「これはAランク任務だ」

襲いかかってくる音の忍達を倒しながらそう言うカカシにサクラは戸惑っている。

「Aランク任務って一体何すんのよ…!」
「サスケは我愛羅達を追っている。サクラ、お前はナルト達を起こしてサスケの後を追跡しろ」

大勢での行動は迅速さを失い敵から身を隠すのも難しくなるため4人以上の行動は基本的に推奨されていない。カカシはそれを踏まえた上で3人の幻術を解けと言ったのだった。

「で、でももうサスケくんがどこにいるかなんて…」
「口寄せの術!」

カカシが地面に手を着くとボワンと煙が上がり、そこからふてぶてしい顔をした犬が現れた。

「問題ない。このパックンがサスケの後を臭いで追跡してくれる」
「このワンちゃんが…!?」
「おいコラ小娘!拙者を可愛いワンちゃんだなんて呼ぶんじゃねェー!」

決して可愛いとは言っていないと思ったサクラだが、それは口には出さないでおいた。
そしてサクラはナルト達のところまで行き、急いで幻術を解く。

「アレ…?どうしたのサクラちゃん…」

ナルトがむくりと起き上がるが、敵に見つからないようサクラは慌てて彼を伏せさせた。
次はシカマルだ。

「(こいつこんな時まで…)」

シカマルを見るとまるでフタバを守るかのように覆いかぶさった状態で倒れている。
サクラは少し彼を見直しながらも幻術を解くためその身体に触れた。
しかしおかしい。一向に起きる気配がない。

「…シカマル…あんた初めから…!」

その時パックンがシカマルの足にカプっと噛み付いた。

「いってー!!」
「幻術返しあんたも出来たのね!何で寝たフリなんかしてんのよ!しかもフタバ守るなんてやるじゃないと思ってたのにそれもただのスケベ心じゃないの!!」

ガバッと起き上がったシカマルとサクラが言い争うのをナルトは頭にハテナを浮かべながら見ている。

「スケベ心なんかじゃねーよ!巻き添えはごめんだがこいつ放っておくなんてできねーだろ…しかし俺は嫌だぜ、サスケなんて知ったこっちゃ…」

サクラは喚いているシカマルを無視し、フタバの幻術を解いた。

「んん…サクラ…?…っ!幻術!サクラ誰かが幻術を!サスケと我愛羅は…!」
「幻術…?フタバ、どういうことだってばよ?」
「ナルト!うしろ!!」

音忍がナルトに襲いかかろうとした瞬間、ガイがその忍をパンチ1つで吹き飛ばした。それは壁に大きな穴をあけるほどの威力。


「では任務を言い渡す!聞き次第その穴から行け!サスケの後を追い合流してサスケを止めろ!そして別命があるまで安全な所で待機!」

ナルト達の元に飛んできたカカシがそう叫んだ。

「サスケがどうかしたのかよ…」
「理由は行きながら話すわ!行くわよ!」

ナルトを抱えたサクラとパックンが穴から外へ出て行く。

「状況はよくわからないけど任務内容は理解しました!カカシ先生、行ってきます!」
「あ、おいフタバ!…ったくお前が行くなら行かねぇ訳にはいかねぇだろ…」

ブツブツと文句を言いながらも、シカマルも既に出て行ったフタバの後を追い外に出た。


「奴らだけで大丈夫か?」
「パックンをつけてる、まずは大丈夫だ。チャクラ切れもフタバがいれば心配ない。あとは深追いさえしなければな…」


出て行ったフタバ達を見ており、かつガイとカカシの会話を聞いたシノは瞬身で会場を後にした。
その顔は今何を考えているのか、何も読めない普段通りのシノのままだった。


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