▽20

三代目火影と対峙する大蛇丸は穢土転生という死者を蘇らせる禁術を使い初代、二代目の火影を呼び出していた。

木ノ葉の暗部達は近くにたどり着きながらも結界のせいで助太刀に入ることができない。

今、戦いが始まろうとしている。


* * *

「なるへそ!そういうことになってたのか!」

サスケの追跡のため走っている最中、サクラが皆に事情を説明した。ナルトはようやく理解できたようだ。

「砂の人たちが…そんな…」

フタバはショックを受けていた。友人と呼んだあの人たちが木ノ葉を襲撃しようと計画していただなんて信じられない。それは彼らの本意だったのだろうか。甘栗甘で自分に見せてくれた笑顔は本物だったように思えるのに。

「フタバ…」

サクラはもう少し言い方を考えるべきだったと後悔した。あまりにも率直に我愛羅達砂が木ノ葉を裏切ったと伝えすぎたかもしれない。
サスケの無事を祈るのにいっぱいいっぱいでフタバを思いやることができていなかった。


「!! おい!お前らもっとスピード上げろ!」

先導していたパックンが突然そう叫んだ。

「後ろから2小隊8人…イヤもう1人、9人が追ってきとる」

もう見つかりそうになっていると言うのか、ナルト達に焦りが見える。
まだ正確な位置まではつかまれていないようだが、追いつかれるのも時間の問題だろう。


「くっそー!こうなったら待ち伏せてやっちまうか!?」

ナルトの案にサクラもフタバも同意しようとした時、パックンがすぐさま却下した。
相手は元木ノ葉の忍だった大蛇丸の部下だからと。
シカマルはそれが敵を待ち伏せることにどう関係するか気付いたようで悔しそうに舌打ちをした。

いまいちよく分かっていない様子のナルトにシカマルが説明をする。
待ち伏せは有利な基本戦術である。自国の土地であるためシカマル達は地理をよく理解しており一見不意をつくのに最も良い位置を獲得できそうだが、木ノ葉にいた忍の部下にはそれは通じない。
恐らく追っ手はこの里の地形を教え込まれ何度も戦いのための模擬練習を重ねてきたはずだ。それに加え追跡術をマスターした忍たちばかりであろう。
待ち伏せをするには不確定要素が多すぎる、と。


「大体敵さんはこの計画のために編成された忍者部隊…ところがこっちはフタバはともかく

馬鹿に、大した取り柄のないくノ一に、犬一匹、と逃げ腰No. 1の俺だぜ!」

ナルトにサクラ、パックンはシカマルのその言葉にムッとするがあながち間違いではないと思ってしまったため何も言い返せはしなかった。


「でだ、今の俺たちに出来るとすりゃあたった1つ…」
「1つ…?」
「待ち伏せに見せかけた陽動だ…1人が残り、待ち伏せのように見せかけて足止めする」


つまりそれが意味するのは、誰かが囮になるということ。
確かに誰かが足止めをすれば残りの3人の位置はつかめなくなる。追跡を撒くことはできるが…

「たぶん囮になった奴は…死ぬ」

全員の表情が曇った。死、それを意識した瞬間に途端に不安になる。

「で…誰がやる?犬さんはサスケを追うのに必死だ…とすると」
「…わかったってばよ、俺が…」
「俺しかいないか…」

シカマルがため息をつきながらそう言った。

「シカマル…!ダメだよそんな!」
「全滅するよりゃマシだろ。それに囮役を十分にこなせてかつ生き残る可能性がある奴といったらこん中じゃ俺だけだ」
「それなら私も残る!シカマルだけ置いていくことなんてできないよ!」
「フタバ、お前は砂の奴らと親しかった。もしかしたらお前がいることであいつらの心境が変わることもあるかもしれねぇ。お前は行くべきだ」

走るのをやめたシカマルにつられナルトたちも立ち止まった。
フタバの目には涙が浮かんでいる。

「影真似の術は元々足止めの術だからよ…。ま!後で追いつくからよ…フタバも泣くなって、俺は大丈夫だ!おら、とっとと行け!…ナルト、なにがなんでもフタバは守れよ」
「…おう、任せとけ」


フタバは自分がシカマルと残ることは出来ないのだと理解し涙を拭うと、せめて足しになればと両手で彼の肩に触れた。


「お、サンキュ。試合後にしてもらったの含めて完全にチャクラ回復したみてぇだ。なんならチャクラ量の限界超えた気もすンぜ……にしてもホントにあったけぇのな」


転移を見届けたナルトは頼んだぞ!と一言声をかけると、フタバの手を取り再び走り出した。

それから3人と一匹はしばらく走ったが、パックンによると段々と敵が近付いてきているらしい。
シカマルは本当に足止めをしているのだろうか。

「ひょっとして逃げたんじゃないわよね!」

これまでのシカマルを見ていたらそれもありえない話ではないとサクラは焦りの表情を見せた。

「シカマルは絶対に足止めをしてる、1人で逃げるわけない!」
「フタバの言う通りだ!あいつは口もワリーしいつもめんどくさがってっけど裏切ったりはしねー奴だよ!」

ナルトは確信した様子でそう叫び、走るスピードを上げた。




「フーーーなんとかうまく逃げきったぜ…」

木の幹に腰掛け空を見上げながらシカマルがそう呟く。
その時音の忍たちは犬の足跡と子供3人分の足跡を発見しニヤリと笑っていた。しかしその足跡が続く方へ進んで行こうとした瞬間、身体が動かないことに気付いた。

「とかって感じのキャラだったのになぁ俺…あ、ちなみにコレが犬の足跡の正体ね」

枝4本をまるで肉球のように持ったシカマルが音忍達の前に姿を現した。
シカマルは見事陽動に成功し影真似で追っ手達の動きを止めきったのである。



* * *

シカマルは8人の音忍を影で捕らえたが、パックンは確か9人いると言っていた。後1人どこかに潜んでいる。
クナイが飛んできた方向からもう1人の居場所もつかめたがどうやらチャクラ切れになりかけているシカマルはそいつを捕らえることができない。8人も引き止めているのだからそれも仕方ないことだ。


「どうやら限界のようだな。この影真似とやらもすぐ解ける…覚悟しておけ!」


動きを止めている音忍の1人にそう言われたシカマルは空を見上げた。


「(はぁ…こんなことならカッコつけてねぇでフタバにも残ってもらえばよかったな…いやでもわざわざあいつに危険なことさせられねぇ。あーあ、俺はフツーに結婚して子供が一人前になったら忍者を引退、あとは日がな一日将棋や碁を打って悠々自適の隠居生活…そうしてフタバより先に老衰で逝く…そんな人生がよかったのによ)」

そこまで考えてシカマルはハッとした。

「(…俺、無意識に結婚相手はフタバだって…やば、俺ってそうだったのかよ)」


ようやく自分の気持ちに気付いたシカマルは苦笑いを浮かべ、そして真剣な顔をして音忍達を睨みつけた。

「俺やっぱ負けらんねぇ。最後まで足掻いてみるわ」
「…おいそろそろ出てこい。ついでにこいつの首をハネてやれ」

音忍がそう告げるとシカマルの背後から突然気配がした。
ビクッと肩を震わせると、背後から聞きなれた声がする。


「ようやく追いついた…」
「…アスマ!!なんで…」


それはなによりも頼もしい助っ人だった。


* * *


「フー…にしてもシカマル、お前頑張ったな」


アスマは音忍9人全てを易々と倒すと、疲労のあまり座り込んでいるシカマルの頭に手を置いた。


「まぁな…ところで何でここにいんだよ」
「礼ぐらい言え。…ま、俺一応フタバの護衛中だし。あいつがサスケ追うなら俺も追わなきゃな」
「は?フタバの護衛?」
「聞いてなかったのか?フタバにいつ大蛇丸から接触があったとしても安全なよう俺か暗部の人間で守ってんだよ」
「…知らねぇ。でもフタバの護衛なら俺を助けてる場合じゃねぇだろ。そもそもフタバのこと見失ってて護衛できてねーし」


シカマルは不愉快そうにアスマを見上げた。
アスマは意にも介さず煙草を吸っている。


「俺だって会場でバトってたんだっつの。急いでフタバ追って来たら絶体絶命って様子のお前が居たもんでね。運良かったなーシカマル!」

アスマは笑ってみせるがシカマルは一向に不愉快そうである。
おそらく護衛のことを聞かされていなかったからだろう、彼も案外わかりやすいところがあるものだ。


「(さて、すぐにでもフタバを追いかけたいところだがコイツのことも心配だ。ひとまず退くか。…フタバ、無事でいろよ)」



アスマは空を見上げ、柄にもなくそう祈る。
その時フタバはパックンから敵の気配が消えたと教えられ、シカマルの無事をただ喜んでいた。


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