▽02

私は恵まれている。

優しく美しい母がいて、いつでも見守ってくれる先生たちがいて、一緒にいるだけで笑いすぎて苦しくなるくらい楽しい仲間たちがいて。
でもそう母に言った時、フタバが周りを大切にし、努力する大切さを見せているからだって教えられた。そんなの当たり前のことだ。いい人たちだから大切にするのだ。

そして私は人一倍努力しなければならない。
皆ができるようなことができないから。



私は、忍術が使えない。




父のように立派な忍になるのだと意気込んでいたアカデミー入学2週間目で知った。


授業をしっかり聴き、まじめに修行しているにも関わらずいつまでたっても簡単な変化さえできない。
友人たちはそんな私を見て戸惑いつつも皆一緒に修行に励んでくれた。


数年経っても、それでも相変わらずな私を心配してくださったイルカ先生に連れられ、チャクラを感知できる人にみていただいたことがある。
どこか不思議な雰囲気のあるご老人だ。私を一目見てそのご老人はボソリとつぶやいた。

「…この子は本当に忍術が使えないのですか?」
「ええ、フタバは誰よりも真面目に修行するのですがどうにも…もしかしたら何かが原因でチャクラが無いのかもと思いまして」
「まさか…この子のチャクラ量は火影レベル、いやそれ以上ですよ!」


そう告げられたときイルカ先生と顔を見合わせて驚いた。
火影レベルのチャクラ?私はなにもできないのに。


「しかし、確かに他とは違う感じがする…どこか温かい…君には皆とは違う生き方もあるかもしれないね」


その時はよく分からなかった。
ただ、自分にあるはずのチャクラで周りの人達の役に立てたら、私以外の才能ある誰かに譲れたら…なんて悔しい思いでいっぱいだった。


ぼんやりとした頭で、ご老人にお礼をしイルカ先生と2人でその場を離れた。

「イルカ先生、こんなことってあるんですね」
「…ああ、俺もこんなことは初めてだよ。でもな、俺はフタバならいつか必ず大きなことを成し遂げると思ってる」
「大きなこと…?」
「そうだ。フタバには大切な親御さんと沢山の仲間がいる!もちろん、俺もだ!なんでもできそうだろ?」
「…はい、ありがとうございます!」


イルカ先生は凄い。いつでも私たち生徒の味方で、その時に最適な言葉をくれる。
重かった足取りもすっかり軽くなり、アカデミーへと戻った。先生は職員室へ、私は忘れ物をしていたことを思い出し教室に向かう。

扉を開けると、誰もいないはずの教室にシカマルがいた。
気だるそうに肘をついて席についている。
いつもはざわつくこの場所がシーンと静まり返り、一面が夕日色に染まっていた。


「よ、どーだった?」


彼はわざわざ私を待っていてくれたのだ。何時に戻るか、そもそも戻ってくるかもわからない私のことを。


老人に言われた事実をシカマルに告げたとき、彼はこう答えた。

「は?火影以上のチャクラ?お前、絶対俺たち同期の中で1番優秀になれるだろ。いや、木ノ葉始まって以来の忍、か?」

フン、と鼻で笑って私の頭に手を置いた。
そんなチャクラがあるのにどうしてなにもできない、宝の持ち腐れだなんてひょっとしたら言われるかもって考えてた自分が情けなくなった。
彼は、私が前を向いて生きていてもいいという自信をくれたのだ。
彼の言葉と頭に置かれた手がとてもあたたかくて、気付くと涙が溢れていた。


突然の涙にシカマルは少し焦っていたようだけれど、ただなにも言わずにそばにいてくれた。

誰よりも先に、シカマルに話ができてよかった。そう思ったのはシカマルがどういう反応をするか知りたかったからだろう。こんな私をどう受け入れてくれるのか、すぐに知りたかったから。


「ありがと、シカマル」
「おう。ま、これからそのチャクラをどうしていくかゆっくり考えていこうぜ。俺も手伝うからよ」
「…うん!」


決して見放さず、一緒に歩んでいってくれることがわかって嬉しかった。


イルカ先生とも相談して、仲のいい数人には事実を伝えることに決めていた。もう、伝えるのが怖いなんて気持ちもなくなっていた。


今なら誇らしい気持ちで話をできる。
次の日、シカマルに頼んで友人達を何人か集めてもらった。


「…というわけでね、私チャクラはちゃんとあるんだって!いつか皆の役に立つ方法を見つけ出すから、期待しててね!」


普段通り、いやそれ以上に。意識して明るく話をした。同情なんてして欲しくなかったから。
期待してと言っておきながら、言い終わった後に皆の顔を見ることができなかった。


「すげー!!!火影以上のチャクラ!?俺ってば、フタバはすげぇ奴だと思ってたんだ!」
「そうよ!フタバが努力してたのは皆知ってるわ!やっぱり凄い奴ね、あんたは」
「…フン、早くその方法を探ることだな」
「火影以上って!俺は火影目指してんだ!フタバ、俺と一緒にそのチャクラの使い道考えようぜ!俺らならぜってぇすげえことになるぞ!」

ナルトサクラサスケキバが我先にと声をかけてくれた。
他の友人達も皆、フタバなら大丈夫だと信じていたと言う。励ましなんかじゃ、偽りなんかじゃない、心から応援してくれる皆の気持ちが嬉しかった。


「…キバと考えても良い案なんてでねぇよ」
「んだとシカマル!」
「事実だろーが」


いつもみたいに言い合ってる2人をみて思わずふきだしてしまう。
この人たちと友達でよかった。この人たちのためなら、私も強くなりたいと本気でおもった。



これから語るのは私が皆と肩を並べるまでの、これ以上ないってくらいの幸せを手に入れるまでの、そんな数年間のお話。


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