▽03

1ヶ月後、アカデミーの卒業試験が行われる。試験内容はいったいどのような術になるだろうか。
変化だとしても、分身の術だとしても、今の私では不合格になってしまう。

ただ、自分にはしっかりとチャクラがあるということがわかっているから希望はまだある。
例えどんな試験内容でもどうにかなるよう、今日も修行をする。


「よし!!変化の術!」

ボフッ

もくもくと自分の周りに煙が上がるが、私は私のまま。なんの変化もない。

「チャクラがうまく練れない…どんなにコツをきいてもできない…」
「力みすぎなんだよ。変化したい物をもっとしっかり想像するんだ。ま、気楽にな」
「そうは言ってもなぁ…」


ふぬぬぬと変化したい物を想像してみても、やはり煙が上がるだけ。
シカマルに変化して驚かせてみたい。修行に付き合って、今目の前に居てくれているシカマルならイメージもしっかり細かくできるし、いい案だと思っていたんだけれど…。


「ひい、ダメだ!シカマル、一回お手本見せて!」
「たく、めんどくせぇな。…変化の術!」


ボフッ

私と同じようにもくもくと上がった煙が晴れ、私に変化したシカマルが姿を現した。


「えー!なんで私に変化してんの!」
「なんとなく。つか、お前だって俺に変化しようとしてんだろ。さっきから俺のこと観察しすぎ」
「ありゃ、バレてたか」


へへへっと頭をかくフタバ。視線に気付かないとでも思っていたのだろうか。2人きりで修行を行なっているのだから、嫌でも考えがわかる。
それにしても、学力試験では好成績を残すフタバがどうしてこんな簡単な術さえできないのか未だに謎である。


「ねね、次は火影様に変化してみてよ!」
「はぁ?なんでそんなこと」
「お願い、もう一回だけ!」


俺はフタバに弱い。結局火影に変化してしまった。一回だけと言ったその後も、フタバにのせられて何回か術を披露した。


「…お前の修行だってのに、もう俺のチャクラが足りなくなっちまったよ」
「えへへ、ごめん。シカマルは術が上手だからついね」
「つい、じゃねぇよ。今日は少しでも変化の術の完成に近付くまで帰らせねぇぞ」


アカデミーが休みだからと言って朝から修行していたのに、もう昼過ぎだ。夜までにこいつが何かつかめたらいいんだがな。


「シカマルは少し休憩してて!ね!」


次は私が頑張る番だ。お言葉に甘えて、といいつつ木陰で寝そべるシカマル。しかし、目線はしっかりとこちらを見てくれている。めんどくさがり屋だと思われている彼だが、本当はすごく面倒見がいいのだ。

それにしても、シカマルは本当に術が上手だ。私への変化も、まるで鏡を見ていたかのようだった。同い年なのにすごいな。いやシカマルだけじゃない。他の同期の人たちも皆それぞれに自分の得意な術があり、日々完成度を高めている。私だって負けていられない。


「やるぞー!!!」


突然大声で叫んだ私を見てシカマルが一瞬ビクッとしたけど、気合十分だなと笑ってくれた。


そこから3時間、精一杯やったけど相変わらずだった。
寝そべるのにも飽きたのか、シカマルは木を的にしクナイや手裏剣を当てる修行をしていた。忍具にもチャクラを流すことで、投げた時のスピードや威力が増すらしい。やっぱり私より何歩も先をいっている。

差があることは分かっていたが、悔しい気持ちはどうにもならない。


「よーし!!まだまだ!!」
「…いや、もうここまでだ。闇雲にやっても意味ねぇよ」
「そんな、シカマルだって少しでも完成に近付かないと帰らないって言ったじゃん」
「さっきはそう思ってただけ。俺も結構疲れたし、また明日だ」
「…私一人でまだやるよ」
「ほんっとお前って頑固な」


素早く印を結んだシカマルは、奈良一族の術である影縛りで私の影をとらえた。


「ちょっと!ずるい!」
「言ってもきかねぇから強行手段だ。このまま帰るぞ」


影を縛られたまま、スタスタと数メートル先を歩くシカマルにつられて私も修行してた場から離れてしまう。
情けない。あらがうこともできず、このまま大人しく帰らされてしまう。意思とは関係なく歩き続ける自分の足が恨めしかった。


ガッ


「わ!」


歩いていた道に転がっていた石におもいっきりつまずいてしまった。自分で歩いているようでそうじゃないんだもん。こうなってしまっても仕方ないっちゃ仕方ない。あーこけちゃったら痛いんだろうななんて一瞬のうちに考えていた。


…ポスっと軽い衝撃はあった。だけど想像していた痛みがこない。



「…っぶねー。わりぃフタバ、大丈夫か?」


シカマルが術を解き、私を抱きかかえてくれていた。彼が私の代わりに尻もちをついている。私の頭は彼の胸元にあり、心臓の鼓動がきこえた。


「ひゃあ!私の方こそごめんね!」
「いや、俺が用心してなかったからだ。怪我ねぇか?」
「うん、大丈夫……じゃないみたい」

慌てて離れようとしたけど、どうやら軽く足をひねってしまっているようだ。
うまく立てずにまたシカマルにもたれかかる。

「…俺の責任だ。嫌かもしれねぇが、おぶっていってやるよ」
「ううん、わがまま言って付き合ってもらってた私が悪いんだもん。本当にごめんね。その、重いかもしれないけどよろしくお願いします…」


おんぶなんて、少し緊張してしまう。
あれ、そういえばシカマルに頭に手を置かれたことはあったけど、私から触れたことってない。


…どうしよう、変に意識してしまう。


しゃがんでくれた彼の背中に身を預ける。思っていたよりも広いシカマルの背中。彼の首に手を回す。なぜだかドキドキしちゃってるこの心臓の音は伝わっていないだろうか。


修行に付き合ってもらって、おんぶまでしてもらうなんて。


結局今日も消費することがなかったこのチャクラ。疲れているシカマルに譲ることはできないだろうか。
えいっと心の中でシカマルの背中にチャクラを移動させるイメージをする。



「なんてね」
「なにが」
「ふふ、別に」


私がおぶさったのを確認し、よっ、と立ち上がったシカマルがなかなか歩き出さない。どうしたというのだろうか。



「……フタバ?今なんかしてるか?」
「え?ただおぶさってるだけだけど…やっぱり重かった?」
「そうじゃねえ。なんか背中が急に温かくなってチャクラが回復したような…」
「…どういうこと?ちょっと、一回おろして」


シカマルは私をゆっくりとおろすと少し大きめの岩に座らせてくれた。
彼の顔は困惑しているようだった。


「まだ温かい?」
「いや、お前をおろしたらおさまった。お前の体温がってわけじゃなくて、急にお湯に浸かったくらい背中が温かくなったんだ」
「…チャクラは?」
「ああ、修行後よりだいぶ回復した気がする」
「??」


2人してハテナが頭に浮かぶ。私をおぶったシカマルのチャクラ量が急に回復するなんて。
私自身は特に変わったと思うこともなく、ますます何が起こったのかわからない。


でも、この状況で考えられることって。まさか本当に、さっきイメージしたことが実現したと言うのだろうか。


まさか。



「ねえシカマル、手出して!」
「なんでだよ?」
「いいから!」
「…ああ」


差し出された右手を私の両手でぎゅっと包み込む。シカマルの手に、私のチャクラを送り込むイメージで。


その瞬間、私たちの手が白い光におおわれた。


「シカマル…!これって!」
「…ああ、さっきと同じだ。手が温かい。心なしかチャクラ量も…」
「ようやく見つけた!私のチャクラの使い方!!」
「…お前やっぱりすげぇ奴だよ」


私の中にある膨大なチャクラ。
術をつかえない私のこのチャクラは、私の想像もつかなかった形で皆のためになりそうだ。


私たちはこの事をイルカ先生に伝えに行くことにした。
改めて私をおぶってくれたシカマルは、私がもっとゆっくりでいいと言うのも聞かず、走るのをやめない。

でも、普段めんどくさがりな彼が私のために慌てているのが少し嬉しかった。


休日だったことも忘れ、誰もいないアカデミーを見てそのことを思い出した私たちは2人で顔を見合わせて笑った。


イルカ先生には明日伝えることにしよう。


私の生き方を見つけたこの日のことは、一生忘れることなんてできない。


さあこれから、私の本当の人生が始まる。


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