▽23

我愛羅に取り憑いている守鶴やナルトが口寄せしたガマオヤブンによる争いは地形を変えるほどに凄まじかった。その激しい闘いの結果、ナルトと我愛羅は立ち上がることも出来ないくらいに疲労していた。
言うことを聞かない身体を無理やり動かし、ナルトが我愛羅に這い寄る。

「く、来るな!」
「一人ぼっちのあの苦しみはハンパじゃねーよなぁ…お前の気持ちは…なんでかなあ…痛いほどわかるんだってばよ…」

思いがけないナルトの言葉に、我愛羅は目を見開く。

「けど…俺にはもう大切な人たちが出来たんだ…俺の大切な人たち…傷つけさせねぇ…でなけりゃーお前を殺してでも…俺はお前を止めるぞ…」

息を上げながらも必死で言葉を紡ぐナルト。

「何でお前は他人の為にここまで…」

我愛羅がそう口を開いた。


「一人ぼっちのあの地獄から救ってくれた…俺の存在を認めてくれた…大切な皆だから…」


愛情、以前夜叉丸が我愛羅におしえてくれたもの。身近にいる大切な人に尽くしてあげたいと慈しみ見守る心。
それを持っているからナルトは強いのか。
我愛羅は倒れたまま空を仰いだ。

まだ動こうとするナルトの元にサスケが飛んできた。
彼が我愛羅の砂に捕らわれていたサクラの無事を伝えると、ナルトは安心しきったようにフッと笑った。

その時テマリと、シノとの戦いを終え先程彼女と合流したカンクロウが我愛羅を庇うように現れた。
テマリは背負っていたフタバをそっと横たわらせる。


「! フタバ!」


サスケの声にフタバが目を覚ました。まだボンヤリとする頭を振り前を向くと、まず彼女の視線はうつ伏せに倒れているナルトを捉えた。

「ナ、ナルト!」

フタバは慌ててナルトの元へ駆け寄り座り込むとそっとナルトの背に触れ、そのままチャクラの転移をした。温もりが心地いいのか、ナルトはニコリと微笑む。
フタバはその態勢のままサスケに話しかけた。

「…サクラは?」
「あの犬と一緒にいる。大丈夫だ」
「そっか。ナルトとサスケも無事みたいでよかったよ。…その呪印は大丈夫?」
「ああ、問題ない。…また心配かけたみたいだな」

サスケはそう言うとフタバの肩に手を置いた。フタバはサスケの手に寄りかかるように首を傾け目を瞑り、空いていた方の手でサスケの手を掴み彼にも転移をする。恐らく平均よりも低い体温の彼の手にフタバの体温が移っていく。

「フタバ…俺達のが済んだらアイツにも…」

ナルトの視線が我愛羅に動く。
フタバは一瞬悲しそうな表情をし、すくっと立ち上がった。
そして真っ直ぐに我愛羅の元に歩み寄る。テマリとカンクロウは思わず身構えたがフタバが優しく微笑みかけてきたことでその緊張を解いた。

「フタバ、私たちは…」

テマリが口を開いたが、そこから先の言葉がでてこない。自分たちは彼女になんと声をかければいい?
テマリとカンクロウがその答えを探している最中、フタバは仰向けに倒れている我愛羅の胸に手を当てた。

「フタバ…」
「何も話さないで。随分怪我してる」

フタバが転移をする様子を、テマリたちは黙って見つめるしかなかった。
次第に息が整ってきた我愛羅を見て安心していると、フタバの体が小刻みに震えているのに気付いた。目にいっぱい涙を溜め、それがあふれ出さないように耐えているようだ。

「我愛羅が死ななくてよかった…」
「…俺はお前の友人達を傷付けた。そしてお前たちの木ノ葉を…」
「きっと里は大丈夫。言ったでしょ?木ノ葉には強い忍が沢山いるって」

第二の試験の時、たしかにフタバはそう言っていた。カンクロウはその時のことを思い出しなんとも言えない罪悪感でいっぱいになった。

「フタバ、許してくれとは言わない。私たちは取り返しのつかないことをしたんだ。…だが我愛羅を、弟を癒してくれてありがとう」
「テマリさん、確かにあなた達がしたことは簡単に許せるものではありません。…でも、それでも私はあなた達を友人と呼びます」

悲しい表情から途端に笑顔になったフタバを見て、テマリの目からスーッとひとすじの涙が流れた。

「…引くぞ」

我愛羅が静かに口を開くと、それに従いカンクロウが我愛羅を担いだ。

「フタバ」
「なんですかカンクロウさん」
「…いや、なんでもないじゃん。テマリ、行くぞ」

そう言い残し3人は一瞬で去って行った。

フタバ達の元から去ってしばらくすると、我愛羅が口を開いた。

「テマリ…カンクロウ…すまない」

今まで言われたことのない言葉に2人は顔を見合わせて驚いた。確実に我愛羅の何かが変わっている。
照れ臭さを隠すように「べ、別にいいって…」とカンクロウが答えた。


フタバ達はボロボロの身体を引き摺りながらなんとか里まで戻った。
門の前ではシカマルが待ち構えており、フタバ達はシカマルの無事を喜んだ。

しかし彼の口から悲しい事実が伝えられた。


三代目火影、猿飛ヒルゼンは大蛇丸との闘いの末、命を落としたと。


* * *


フタバ達が里に辿り着いたのと同じ頃、壊滅こそしていないが甚大な被害を受けている木ノ葉の里を見下ろす不穏な2つの人影があった。

揃いの外套に身を包んだ2人は無表情のまま淡々と会話をする。

「栄華を極めたあの里が…哀れだな」
「ガラにもない…故郷にはやはり未練がありますか?アナタでも…」
「いいや…まるでないよ」


そう言い切った男の目は紅く、妖しく揺らいでいる。それはサスケと同じうちは一族の血継限界、写輪眼だった。


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