▽24

次の日、フタバは家の近くのベンチに座り空を眺めていた。

母親であるマキナが気分転換に外に出てみたらと提案してくれたのだ。
マキナは多少怪我をしていたが無事だった。忍を引退したマキナだが元中忍、今回木ノ葉のために尽力した1人だ。
彼女は昨日帰ってきたフタバをきつく抱きしめ、何も聞かずただおかえりと言ってくれた。フタバはマキナのそんな優しさにいつも救われているのだ。

それにしても今日はいつにも増して護衛の暗部の気配を感じない。ひょっとしたら私を護衛するための要員さえ確保できない状況なのかもな、とフタバは考えた。
里は木ノ葉の忍達の奮闘により壊滅は免れたが甚大な被害を受けている。復旧にどれほどの時間がかかるかわからない。自分も出来ることをしなければならない。

ごちゃごちゃと色んなことを考えていないと三代目のことを思い出してしまう。フタバは首にかけている三代目から渡された御守りをぎゅっと握りしめた。三代目は禁術を使い大蛇丸の両腕を封印することに成功したが、その代償に命を失ったらしい。明日、彼の葬儀が行われる。
火影の訃報を受けたからか、道行く里の人々の顔は非常に暗い。

そういう自分もきっと明るい表情はしていない。フタバは胸にポッカリと穴が空いたような喪失感に見舞われた。

「よう、ここにいたのか」
「シカマル…」

突然声をかけてきたのはシカマルだった。彼はそのままフタバの左隣に腰掛けた。

昨日、自分が囮になると言って音忍達を足止めした彼。チャクラ切れで危機一髪のところを駆けつけたアスマが助けてくれたらしい。昨日家に帰る道中彼はポツリとそう語った。

「身体の具合はどう?」
「特に問題ねーよ。お前は?」
「私も大丈夫だよ」
「そっか」
「うん」

そこから長い沈黙が続いた。シカマルとこんな気まずい雰囲気になったことなんて初めてだ。フタバはその空気を打ち消すように、無理に笑ってみせた。

「シカマルが1人で囮になるなんて言い出したときは心臓が止まるかと思ったよ。死ぬかもしれないなんて言うし…本当に無事でよかった。シカマルがいなくなるなんて考えられないもん!」

しかしそれに対しシカマルは何も答えずただ下を向いている。そのせいで表情もわからないものだからフタバは首を傾げた。

「シカマル…?」
「フタバ」

突然自分の名前を呼びしっかりと目を見つめてきたシカマルにフタバは一瞬びくりと肩を竦めた。
彼の眉はハの字型になっており、柄にもなく今にも泣き出してしまいそうだ。

「俺も…俺もお前がいなくなるなんて考えられねぇ」
「急にどうし ーーー」

シカマルはフタバの腕を引き寄せ、そのまま強く抱き締めた。
その力強さにフタバは思わず目を見開く。

「…お前に護衛が付いてること、アスマからきいた。なんで俺に言わねーんだよ」
「だ、だって、心配かけたくなかったから…」
「そういうとこだよ。お前前に俺のこと兄貴みたいって言っただろ。なら、頼ってくれよ。男として頼れねーなら、せめて兄貴として…」
「シカマル…」
「…今回で思い知った。忍ってもんは常に死が付き纏う。だったら言いてぇ事は言っとかなきゃならねぇって気付いたんだ」

絞り出すように言う彼の言葉を、フタバは黙って聴くしかなかった。

「フタバ、俺はお前の事が大事だ。幼馴染としてじゃなく、1人の女として。ガキが何言ってんだって思うよな。けど、昨日死ぬかもって思った時お前のためにも諦めちゃダメだって思ったんだ。この俺がだぜ?」


ようやくシカマルの腕がゆるんだ。


「いきなり気持ちわりーよな」


気まずそうにフタバを解放すると、彼は自分の首に手をあてそっぽをむいてしまった。

フタバは今言われたことを何回も頭の中で繰り返した。
シカマルはつまり、告白をしてくれたということだろうか。そう理解した途端、フタバは自分の顔が熱くなるのを感じた。
今まで家族同然にみていた彼が、そんな感情を抱いてくれているなんて。
嫌な気持ちになどもちろんなっていない。むしろなんだというのだ、この胸の高鳴りは。

「シ、シカマル、私…」
「いい、何も言うな。お前を守るって気持ちはあれど、俺にはまだその実力はねぇ。だから俺がもっと成長した時、何年かかるか分からねーが…また気持ち伝えるから。答えはそん時でいいよ」


フタバは何か言おうとはしたものの、自分の答えが見つけ出せないでいた。それを察したのか、シカマルは優しくそう付け加える。
フタバは何故か泣きたくなるのを堪え、空を見上げ口をきつく結んだ。

するとシカマルはフタバよりは幾らか大きい、しかしやはり少年の面影を残す柔らかい手でフタバの頬をガシッと掴んだ。

「い、いひゃい」
「ま、なんだ。これからも今まで通りフツーに接してくれ。俺もそうする」
「…わひゃった」

彼が頬をつかんだままなせいでうまく呂律の回らない口を動かし、フタバはそう答えた。

「プッ…変な顔」
「ひ、ひかまるのへいでひょ!」
「何言ってんのかわかんねーよ」

シカマルは愉快そうにくつくつと笑う。変な顔と馬鹿にしておきながら愛おしいものを見るような目で見てくるものだから、フタバの顔がまた火照っていく。

今はまだシカマルを好きだという気持ちが異性としての愛情なのか家族としての愛情なのかわからない。
でも今芽生えたこのあたたかい気持ちは大切に覚えておこう。
フタバはフッと顔を綻ばせた。


「おー、探したぜフタバ。にしても、朝からお熱いね」


シカマルの背後から低い声が聞こえてきた。
シカマルは慌ててフタバから離れ、気まずそうな顔で振り向く。

「…アスマ」
「よ!」

ひょいと手を挙げて挨拶してきたのは十班の担当上忍、アスマだった。
いつもと変わらず飄々としている彼だが、フタバは明るく挨拶することなんてできなかった。
彼の父である三代目火影、猿飛ヒルゼンは里を救うために昨日命を落としてしまったのだから。

「ア、アスマ先生…その…」

何と声をかければいいか迷っていた時、アスマの大きな手がフタバの頭をポンっと撫でた。

「やめろやめろ、ガキが気使うんじゃねーよ。…親父は火影としての責任を果たした、それだけだ」

いつにもなく彼の手に力がこもっている。
何でもないことのように言っておきながら、アスマはアスマなりに悲しんでいるのだ。
そのことに気付いてしまったフタバは鼻の奥がツンと痛んだ。シカマルもそんな彼女の表情を見て察したのか、唇を噛み締めている。

「ま、なんつーかな。俺としてはお前達が無事だっただけで儲けもんだ」
「…らしくねーな」
「ンだとシカマル。俺はいつだって部下思いのかっこいい男だっての」

アスマはフタバの時とは違い、激しめにシカマルの頭をわしわしと撫で回した。
髪が乱れると抵抗するシカマルも、どこか嬉しそうに見える。

「火影は…親父は、木ノ葉の未来をお前達若い世代に託すため命をかけた。だからと言ってどうしろってわけじゃねぇが、ま、今後も強くなれよ」
「アスマ先生…」
「とりあえずフタバの護衛は俺中心で継続する。お前探してたのもそのためだ」
「…なあアスマ、フタバの護衛要員に俺もいれてくれよ」
「はあ?お前はまだペーペーだからダメ。一丁前なこと言ってんなよ」

またシカマルとアスマの小競り合いが始まった。
辛いのに、自然と笑顔になる。

守られているばかりではいけない。いつもそう思うのにどうしても周りに助けられる日々だ。

フタバはグッと手に力を込め、アスマとシカマルに駆け寄る。そして大きく手を開き、彼らを2人まとめて抱きしめた。


「うお」
「な、なんだよフタバ」
「…私には大好きな人がたくさんいます。2人のことも、大大大好き。だから、何回でも言う。先生、私も強くなるからね。私が皆を守れるようになるからね」


アスマは以前父親が言っていた受け継いでいくべき火の意志とやらが自分に抱きつき微笑むこの少女に宿っていると確信し、静かに天を仰いだのだった。


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