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第3章 土筆 --ツクシ--


木ノ葉崩しから数日後、砂隠れの忍たちはある人物の死体を発見した。
それは風影、及びその付き人数人のものであった。
そのことから砂隠れは全ての事件の発端が首謀者・大蛇丸の手によるものだということをすぐさま公のものとした。
更に木ノ葉に対し全面的な降伏を宣言し、木ノ葉もこれを受託する。木ノ葉側としても戦禍の爪痕、そして国力の復旧を急務と考えたのである。


また、この事実は少なからずフタバの気を楽にさせた。
全てが大蛇丸のせい、そう思えば我愛羅達を許せるきっかけになるのではないかとおもったからだ。


「フタバ、もうここは大丈夫よ!ちょっと息抜きでもしてきたら?」
「本当?じゃあお言葉に甘えて!ありがとうお母さん」

フタバは母親のマキナと一緒に家の付近の復旧作業を行なっていたが、ひと段落したところで少し休憩を挟むことにした。
アスマによるとフタバが里の中にいる時はしばらくは暗部の護衛はつけないらしい。それも仕方ない。復旧のためにはなにより人手がいる。里にいる間くらい自分の身は自分で守る。それに大蛇丸も深手を負っている今、襲われる危険も少ないだろう。

「川にでも行ってみようかな」

フタバはそう独り言を呟き、タタタっと川への道を走り出した。
今日はよく晴れた気持ちの良い日だ。


* * *


「え、先生、たち…?」

フタバが川についた時目に映ったもの、それは川の水面に立つ見慣れない外套を羽織った2人の男と、それに対峙するカカシ、アスマ、紅の姿だった。アスマと紅に至っては目を瞑っており、カカシだけが目を開けている状態だ。しかしカカシは外傷も無いのに辛そうにみえる。

「その声はフタバ…!逃げろ!」

アスマが目を閉じたままそう叫んだ。何が何だか分からないが、フタバはすぐに今来た道を走って戻ろうとした。

しかし、誰もいなかったはずの目の前に、変わった外套の男、2人のうち大柄な方の男が立ちはだかった。

「こんにちは、私は鬼鮫と言います。あなたがフタバさんなんですね」
「え、きゃあ!」

抵抗する間も無くフタバは鬼鮫と名乗ったその男に捕まってしまった。そしてあっという間にその男は仲間と思われる男の隣に戻った。

「…思わぬ収穫だな」
「ええ、イタチさん。私たち運がいいですねぇ」
「離して!!」

肩に担がれたフタバがジタバタと暴れてみても鬼鮫はまったく意に介さない。そしてイタチと呼ばれた男は顔色1つ変えずフタバを見ている。

「フタバ!そいつの目を見るな!」

カカシの声を聞いたフタバはまた訳も分からぬままそれに従い目を閉じた。
先生たちがここまで追い詰められているということは自分は下手なことはしない方がいいだろう。フタバはそう判断し吸収の力を使うのはやめておいた。相手を刺激してしまってはよくない。今自分にできるのはカカシの言葉に耳を傾けることだけだ。

それにしても、イタチって…もしかして…

フタバは聞いたことのある名前に思わずゾッとした。

「お前たちがここに来た目的はなんだ!その様子からしてフタバと…まさか、サスケまで攫う気か!」
「いいえ。俺たちの狙いはこの少女、アビスマの生き残りであるフタバと四代目火影の遺産」
「四代目火影の…遺産だと…」

息も絶え絶えにイタチの言葉を繰り返したカカシと、それを聞いて驚いた表情を浮かべるアスマと紅。フタバはその遺産とやらが何か分からなかったが、先生達が焦っていることからそれが大変な発言だということは理解できた。

カカシ達はイタチ達の狙いがなんのことか分かっていた。

「(ナルトか…)」

カカシは以前自来也と交わした会話を思い出していた。


* * *

「カカシ、ナルトはワシが預かる。ナルトの見張り役として三代目がお前を指名したのは納得のいく判断だ。が…お前のレベルでも手が回らんくなるかもしれんからのォ…」
「………一体何の話です?」
「…大蛇丸が里を抜けてから奴をずっと監視してきた。奴がいずれこの里に戻ってくるのは明白だったからのォ…。そんなこんなで初めは大蛇丸だけを警戒していたが、奴がある組織に入った」
「組織?」

自来也の顔が険しくなった。それほどの組織だということだろうか。

「…その組織の詳細は?」
「詳しいことはわからんが<暁>とかいう名の忍九名からなる小組織だ。最近まで大して派手な動きはなく諜報活動のようなことをしていたが…問題はその面子だ」
「?」
「そいつらのほとんどが手配書に載ってる一癖も二癖もあるS級犯罪者ばかりでのォ…その中にあのイタチもいる」
「!!」
「そんなのが九人も集まってボランティアもねーだろーのォ…ここまで話したらもうお前にも分かるだろう…」

嫌な考えがカカシの頭をよぎる。

「ただ最近肝心の大蛇丸はその組織を抜けてのォ…ちょうどそのくらいの頃から組織の奴らがツーマンセルで各地へ動き出し…術やら何やら集めておる」
「…その1つが"九尾"だという確証は!?」
「可能性という話だ。ありゃあ最強のチャクラを持つ妖魔の1つだからのォ…」


* * *


「狙いは…ナルトの中の九尾…か?動いてるのがお前らだけじゃないのは知っている。組織名は…暁、だったか?」
「暁…?」

どうやらアスマや紅はピンときていないようだ。カカシだけがその情報を得ていたのか。
しかし、どうしてナルトと私が…。
フタバは湧き上がる不安と恐怖でいっぱいだった。

「鬼鮫!フタバとカカシさんは連れて行く。その他の方には消えてもらおう」

イタチがそう言った途端、フタバを抱えたまま鬼鮫がアスマ達に向かって行った。
そんなことはさせない、フタバは無駄な足掻きかもしれないとわかっていながらも吸収の力を思い切り使った。

瞬間、ものすごい轟音がしたかと思えばフタバの身体がふわりと浮き上がり、何者かに抱きかかえられた。


「何者です!!」
「木ノ葉の気高き蒼い猛獣…マイト・ガイ!!」


フタバを鬼鮫から奪還したのはネジ、リー、テンテンの担当上忍であるガイだった。

「何て格好だ…珍獣の間違いでは?」
「あの人を甘く見るな」

ガイはフタバをアスマに託し、なんとか意識を保っていた状態のカカシを肩に担ぎ上げた。自分しか戦えないと踏んでいたカカシは無理に気を張っていたようで、ガイの登場に安心したのか気絶してしまったようだ。


「イタチと目を合わせるなガイ!術にかけられるぞ!」
「そんなものはこっちとてわかってる!カカシとの対戦対策に写輪眼に対する戦い方も考慮してる。2人とも目を開けろ!写輪眼と戦う場合は目と目を合わせなければ問題ない!常に相手の足だけを見て動きを洞察し対処するんだ」


ガイに促されアスマと紅は目を開いた。フタバも一瞬開こうとしたが、すぐにアスマの手によってその視界を遮られた。お前は閉じておけということだろう。フタバは反抗せず慌ててまた目を閉じた。


「どうする?」
「紅!カカシを医療班の所へ!アスマはフタバを守りつつ俺の援護だ。後は俺が手配した暗部の増援部隊がくるまで少しの間相手してやる!」
「いい度胸ですねェ…」
「鬼鮫…止めだ。俺たちは戦争をしにきたんじゃない。残念だがこれ以上はナンセンスだ…帰るぞ」
「せっかく…うずいてきたのに仕方ないですねェ…」


イタチと鬼鮫は一瞬にして消え失せてしまった。
緊張の糸が切れたのか、フタバはアスマの腕の中でフッと意識を手放した。


* * *


「えー!!なんでなんで!なんで俺がエロ仙人と一緒に取材旅行なんかしなきゃなんねーんだってばよ!」
「ただの取材旅行じゃーねぇのォ。取材したい女がいてそいつを探さにゃならん」
「俺はそんなエロ取材に付き合ってるヒマはねーの!修行しなきゃなんねーんだから…カカシ先生に色々教えてもらうんだってば!千鳥とか!」
「イヤ、んー…あの技はお前には無理だと思うのォ…。それよりのォ、その女すっごい美人だぞ、会いたいだろ!」
「エロ仙人なんかに言いくるめられるようなガキじゃないってばよ俺は!とにかくヤダ!」
「はー…千鳥より凄い技…知ってんだけどなぁ…仕方ない、サスケを連れてこっかのォ〜〜〜」
「やっぱ行く!!!俺ってば今すぐ家帰って荷物まとめてくるから、エロ仙人はそこから動かないでよー!!」
「クク…まったくかわいいガキじゃのォ…」


フタバ達がイタチ、鬼鮫とやり合っていた頃、ナルトは自来也の誘いに乗り、2人で木ノ葉の里を出ていたのだった。


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