▽04

「シ、シカマル。本当にそう感じたのか?」
「あぁ。確かにフタバが触れたとこからチャクラが回復した」
「そんなことが…」


フタバとシカマル、休日明けにアカデミーに行った2人は朝一でイルカの元へ向かった。
フタバの能力が分かったかも知れないと伝えられたイルカはそれまで飲んでいたお茶を思わず吹き出し、訪れてきた2人を正面からしっかりと見据えた。


「そんな術はきいたことがない…。フタバ、火影様に会いに行こう。あの方なら何かわかるかもしれない」


火影という言葉をきいて、そんなにも大事なのかと焦り始めるフタバ。さっきまでのルンルンとした気持ちもどこかへ行ってしまった。


「イルカ先生、私、その、まだそんなにこの術がどんなものかもわからないし使いこなせてもいないので火影様にみせるなんてとても…」
「大丈夫、だからこそ会いにいこう。心配するな。火影様はお優しい方だ」


シカマルの方をチラッと見ると、真剣な眼差しで頷かれた。そうか、会いにいくべきなんだ。


「イルカ先生、私行きます」




* * *



「火影様、お時間頂きありがとうございます。この子が件のフタバです」
「いやいや構わんよ。そうか、この子が。どれ、早速じゃがワシにその術をかけてみてくれんか?」


そっと差し出された左手に、恐る恐る触れる。
火影様の手は年相応にシワが刻み込まれているが、どこか力強く、温かみを感じた。


火影様に、私のチャクラを…!!


両手で左手を包み込み力強く念じた途端に、シカマルの時と同じように柔らかい光が発せられた。


「…おお、確かに少しチャクラが回復したような気がするのう。では、もう一度頼んでも良いか?」


そう言うと自分の親指を噛み、火影様の指に血が滲んだ。

「火影様!血が!」
「大丈夫じゃ。さ、もう一度頼む」
「は、はい」


次はチャクラではなく、止血するイメージで。


「…ダメです、うまくできません」
「ほう、そうかなるほど。やはり医療忍術とはちと違うみたいじゃのう」


医療忍者は、繊細なチャクラコントロールで怪我を治すときいた。彼らの使う医療忍術は膨大な専門知識が必要となり、今の私に使いこなせるようなものでもない。実際、怪我は治せなかった。


「ふむ。フタバちゃんは柊一族の子じゃったな」
「は、はい。そうです」
「その一族に血継限界があるときいたことはない。フタバちゃんの父上もそのような術は使わなかった」
「あ、あの。私の父のことを?」
「もちろんじゃ。父上は立派な忍だったぞ」


優しい眼差しでにっこりと笑う火影様に父の面影を見た。
父を知っている人がいるということで、父の存在を感じることができる。私は少し嬉しい気持ちになり、思わず微笑んでしまった。


「イルカよ。この子は確か他の術は使えないのだったな。このままではアカデミーの卒業試験を合格するのも難しかろう」
「はい、それだけはどうにも…」
「しかし、じゃ。この子の力は特別。特例としてアカデミー卒業の手続きをとろう」
「火影様!それでは私の友人達に示しがつきません!私だけそんな…」
「なぁに、君が努力していたのは皆知っておる。成績も良かったそうじゃな。そこのイルカに度々相談されておったからのう」
「…イルカ先生」


ぽりぽりと頭をかき気まずそうに照れている先生に、思わず抱きついてしまう。
イルカ先生は一瞬驚き、優しく私を抱きしめ返してくれた。この人の生徒でよかったと心から思う。
その様子をみていた火影様は、またニコニコと微笑んでいた。思っていたよりも、ずっとお優しい方だ。


「ではフタバちゃん、ワシもその力について探っていく。その間、その力は正しく使いなさい」
「はい、今日はありがとうございました!」
「うむ、ワシも会えてよかった。…さて、イルカにはちと話がある。少し残ってくれ」


扉の前に立ちペコリとお辞儀をしたフタバは火影室を後にした。


* * *


「イルカよ」
「はい」
「彼女から目を離してはいかん。あの力はやっかいじゃ」
「…と、言いますと」
「あれはチャクラが回復するだけではない。まだはっきりとはせぬが、どうもチャクラ量の上限自体を増やしておる気がする」
「まさか…!そんな術きいたこともありませんよ!」
「そのまさか、じゃ。しかも彼女はチャクラ量も膨大だと言ったな。使いようによっては悪にもなる。ワシも注意しておこう」
「そんな…」


今はまだフタバに知らせるべきではないと告げられた事実は、重くイルカに響いた。フタバを悪の道に進ませたくはない。彼女にそういった意思がなくとも、利用される可能性は大いにある。思っていたよりも強力なその力に身震いがした。


* * *


「おつかれ」


外で待ってくれていたシカマルと合流する。
結局この力が何かははっきりわからなかったが今後探っていってくれるということ、アカデミー卒業の許可をもらったことを報告すると嬉しそうに私の背中を叩いた。
きっとシカマルは卒業についても心配してくれていたのだろう。

「シカマルがバテちゃったら私が回復するからね!あ、でも怪我を治せるわけじゃないみたいだから怪我はしないでね!」


やっぱりフタバの術は医療忍術ではなかったのか。
得体の知れない力をもっているフタバをしっかりと守っていかなければならない。


それでも今は、無邪気に笑っているフタバに付き合い俺もただ喜ぶことにしよう。


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