▽06

修行開始から何日か経ち、ナルトは少しずつだが確実に進歩していた。
水風船を割る修行からゴムボールを割る修行へとステップアップし、チャクラを一点に集中させることの重要さに気付き始めている。

そんな中、フタバの修行は困難を極めていた。
口寄せはできても、やはり他の忍術が使えない。簡単な変化もできないことを鯉伴にバカにされるし自来也は情報収集でほとんど居ないしでフタバは落ち込むことが増えてしまった。


「なんだ、もうへばったのか?」
「…まだまだ」
「お前は絶望的にセンスがないようだ。それだけのチャクラを有しながら情けない」


修行中は鯉伴を口寄せしアドバイスを貰うように、と自来也に言われているフタバはそれに従っていたが、ここまでマイナスのことしか言われないならばいっそ次からは呼ぶまいかと考えだした。
そんな彼女の良からぬ企みに気付いたのか、鯉伴はジロリとフタバを見る。

「…小生とて好き好んで子守をしているのではないぞ」
「わかってます。だからこうして精一杯…」
「精一杯?変化の術もできぬ忍が言うことか」
「こ、これは大蛇丸の実験のせいで…」
「大蛇丸?実験?」


不思議そうな顔をしている鯉伴を見て、そういえば何故忍術が使えないのか説明をしていなかったと気付いた。
鯉伴にキツイことを言われても仕方がなかったな、とフタバは反省しつつ分かっている限り自分の生い立ちについて話した。


「……それでお前は最初アビスマ姓を名乗らなかったのか」
「はい。柊家の夫婦に引き取られたので」
「なるほど…」


鯉伴は考えるような素振りをし、しかしやはり納得がいかないという風にフタバの全身を見つめる。


「…して、お前が実験体だったのは理解できたが、だからといって何故忍術が使えないことになる?」
「え?だからそれは実験のミスかなにかで神経が傷付いたのでは…」


以前アスマも言っていた。忍術が使えないのはチャクラを練るために大切な神経系が実験中傷付いてしまったからだろう、と。その考察は恐らく正解なんだと思っていた。
そう思うことで自分を納得させていた。


「小童、お前の神経系はどこも傷付いてはおらん。チャクラが上手く練れないのは恐らく呪いのせいだ」


フタバは自分の心臓がドクンと跳ねるのを感じた。



* * *


遠く離れた大蛇丸の住処。
暗く、どこか寂しげな建物からは悲痛な唸り声が響き、生温い血の匂いが漂っている。
三代目火影、猿飛ヒルゼンとの戦いの中で受けた呪いが大蛇丸を苦しめていた。

「この腕の焼けるような痛み…ここまでの苦しみだとはね…」
「猿飛…三代目火影の最期の呪いの傷ですからね」

大蛇丸の両腕には包帯が巻かれ、ところどころ血が滲んでいる。彼の部下であるカブトが薬を調合するも、あまりの痛さに口にする気にもならないらしい。

「それより…ヤツは見つかったの?」
「……ハイ、どうやら短冊街という所にいるそうです」

大蛇丸の問いにカブトがそう答える。

「短冊街…そう」
「しかしそう簡単には…」
「フン、良薬は口に苦いものなのよ…」


痛みに耐えながら、大蛇丸が妖しく微笑んだ。


* * *


時同じくして、綱手の居場所を探っていた自来也は酒場での聞き込みを行なっていた。
するとカウンター席で飲んでいる二人組の男が声をかけてきた。綱手の居場所を知っていると言う。

以前綱手のカモっぷりに稼がせてもらったというその男。
伝説のカモはまた賭け事をやっているらしい。

その場所は、短冊街。

「フン、近いな」

ニヤリと笑う自来也はまだこの時気付いていなかった。
大蛇丸も綱手の力を求め短冊街に向かっているということに。


* * *


「私が忍術を使えない理由が呪いってどういうことですか…?手紙には実験の弊害が出たと大蛇丸が言ったと記されているんです。神経系が傷付いたということでないならなんだと言うんですか」
「その弊害が何かは知らん。だが確実に呪いがかかっておる。その大蛇丸とやらがかけたんだろう」
「そんな…!鯉伴様、あなたの力でどうにかならないんですか?」
「チャクラの流れを乱し上手く練れなくするとは、人間が作り出したなんとも醜い呪いよ。小生にはどうすることもできん」


フタバはガクリと肩を落とした。今まで実験の弊害だと思っていたことが、呪いによるものだったなんて。

だったら本当の弊害って…?

彼女は考えれば考えるほど訳が分からなくなり、頭を抱えた。


「何をそんなに落ち込んでおる」
「…これが落ち込まずにいられますか」
「人間が作り出したからどうしようもないと言っただろう。ならば、人間に解いて貰えば良いのだ」


鯉伴がフン、と鼻で笑った。


「それってどういう…」
「お、自来也が戻って来おった。…おお、また別の小童を連れておるわ」


フタバが振り向くと、ボロボロになったナルトを連れた自来也が立っていた。
恐らくナルトは第2段階の修行をやり遂げたのだろう。フタバは急いで2人に駆け寄り、ナルトに転移を施す。


「フタバ、綱手の居場所がわかったぞ!ナルトがこんなんだから、とりあえず休ませてから出発する」
「…自来也、お前この小童が忍術使えないのを小生に黙っておったな?」
「あれ、言ってなかったかのォ。すまんすまん。…で、何かわかったか?」
「最初からそれが目的だったんだろ。お前、こいつの神経系が傷付いているわけではないと分かってて教えてやらなかったのか」


鯉伴がブツブツと自来也に文句を言う。
フタバはどういうことか理解できず自来也を見た。


「んー、確信があったわけじゃなかったからのォ。だが大蛇丸がそんなミスをするとも思えんかった」
「その大蛇丸とやらがこいつに呪いをかけたんだ。解ける人間はいないのか?」
「なるほど、呪いか。フタバ、こんなことになるとは思わんかったがお前を連れて来てよかったよ。恐らく綱手ならその呪いを解ける」
「綱手様が…?」


呪いが解けるということはチャクラを上手く練ることができるようになるということ……つまり、忍術を使えるようになるということだ。

フタバは三代目火影から綱手に会うことがあれば渡すようにと託され、それ以来ずっと首から下げている御守りを手に取って見つめた。


「自来也様、もしかして火影様は…」
「…知っておったのかものォ。フタバの事も……自分が死ぬことも、こうなることも全部」
「こうなることも全部?」
「あ、いや。なんでもない。気にするな」


フタバは自来也が最後に言った言葉がどうしても気になった。
こうなることも全部とは、どう言うことだろうか。

あれ、そもそも何故自来也様は綱手様を探しているんだっけ…?

道中確かナルトが言っていた。
「エロ仙人が取材したい女がいるって言うからお供してるんだってばよ!」と。

三忍の1人、綱手様に会うのに取材だけが目的な訳があるだろうか。


綱手に会う真の目的は今後教えてもらうことにし、フタバは空を見上げ今は亡き三代目火影のことを想った。


忍として悪い癖だ、つい涙が出てしまう。
フタバはグイッと眼をぬぐい、ナルトへの転移を続けた。


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