▽07

翌日、ナルトは朝から「修行だー!」といつものようにはしゃいでいた。
フタバからの転移、そしてぐっすり眠ったことで体力も気力も十分に回復したようだ。

しかし綱手探しのため短冊街へ出発すると言われたナルトはしぶしぶ宿を出る支度をする。
旅の準備もせず自来也達に同行しているフタバは小遣いで必要最低限買った着替えをナルトのリュックに入れてもらった。

修行がしたいと喚くナルトのため、道中も修行は行われる。
チャクラの回転と威力を第一、二段階の修行で学んだナルトの次の課題、それはチャクラを"留める"こと。
風船の中でチャクラを回転させながらもそれを留める、単純そうに見えて実に難易度の高い修行だ。

「あのさ、あのさ……そんなに焦んなくてももっとちゃんと……」
「フタバの助けがあったのにも関わらずお前の体の回復に一日要ったんだ。これ以上綱手がその街に留まっている保証はないからの」
「え〜!」
「都合よく綱手の知り合いが現れて昔話に花が咲くわけでも無し……行くぞ!」
「ナルト、チャクラが足りなくなったら私がすぐに回復させるから頑張ろ!」
「……フタバがそう言うなら」


そうしてフタバ達3人は足を進めた。
ナルトは何度か自らのチャクラの勢いに跳ね返されながらも修行を続ける。
フタバが数十分に一度転移を施すことでなんとか疲労も抑えられているようだ。

「フタバがいて良かったのォ。転移無しじゃこうも楽にできんかったろうて」
「いえ、私がいなくてもナルトなら余裕だったと思います」

フフッと笑うフタバを見て、ナルトが不思議そうな顔をしている。

「なあ、ちょっと前から思ってたんだけど、なんで"回復"のこと"転移"って呼ぶようになったんだ?」
「ん?なんだナルト。お前フタバのこの力のこと何も知らないのか?」

自来也は自来也で不思議そうにしている。
そういえばシカマル以外の同期に話したことがなかったと気付いたフタバは、自分の生い立ち、そしてこの力についてを語った。


「……大蛇丸の実験と、アビスマ一族……」
「そう、シカマルとかカカシ先生たちとかは知ってたんだけどね。なんとなく話すタイミング逃してた。ごめんねナルト」
「いや、謝ることじゃねーってばよ。お前も色々辛かったのに、俺こそ何もできなくてごめんな」
「ううん、そりゃ最初は驚いたし辛かったけどもう大丈夫!私にはナルトや自来也様みたいに支えてくれる人がたくさんいるもんね」
「おう、皆フタバのことが大好きだからな!……それより!フタバお前呪いが解けて忍術使えるようになったら最強じゃねーか!すげー!俺も負けねーぞー!」

途端にやる気に満ちたのか、ナルトは何故か走り出し、そのスピードのまま第三段階の修行を行いだした。

「あーあー。あれじゃ街には早く着けど、余計に技の取得は遠のくのォ。よっぽどフタバの話が刺激になったんだろうのォ」
「……ナルトの言うように呪いが解ければ、私も皆と肩を並べて戦えるようになるんでしょうか」

歩きながら呟くフタバ。自来也はそんな彼女の頭にポンッと手を置いた。

「その気持ちがあれば大丈夫だ。それにお前、鯉伴を口寄せできたろ。ああ見えてあいつは凄い力を持っておる。あいつに認められればそれこそナルトより強くなるかもしれんぞ」
「ナルトより……」
「頑張り次第だのォ。ま、あいつはあいつであんだけやる気も出たみたいだし、話せてよかったな」
「……はい!」

フタバは相変わらず走っているナルトの後ろ姿をみてふわりと微笑んだ。
それにしても自分のことを人に話したのは鯉伴はともかく、久々だ。

いつぶりか思い出し、フタバは少し悲しくなった。

「(我愛羅…)」

あの時、彼は私の話を聞いてどう思ったんだろうか。そして彼は今どうしているんだろう。フタバはいつか砂の里に行けるようになればいいな、と一瞬空を見上げ、すぐにナルトの後を追いかけた。


* * *


短冊街についたフタバ達は綱手の居場所について聞き込みを行った。しかし一向に見つからない。
自来也は仕方なしに高いところから街を見下ろして探すことにした。ちょうどいいことにこの街は城下町。3人は城を目指して歩き出す。

しばらく歩くと城の囲いが見えて来た。

「あ、自来也様お城が……え?」

城があったと言いかけたフタバが口をつぐむ。

「あのさ!あのさ!どこに城なんかあんの?」

3人はその場所を見上げた。立派だったであろう城は無残にも崩れてしまっている。まるで何かに押しつぶされたようなそんな風貌に思わず体が震えた。

「コレって……どーなってんだってばよ……」
「のォ…」

呆然としていると、男が城の方から息を切らし走ってくる。
自来也が「一体何があった?」と尋ねると男は恐怖に怯えた顔で答えた。

「アンタらも逃げた方がええ!上にはバケモンがおるで!」

自来也は続けて質問をする。

「何かのォ、そのバケモンってのは」
「お、大きな蛇だ!一瞬で城を壊しやがった!」
「オレもオレも!前にうちの里で…とんでもねー蛇に襲われたことが…」

自来也が渋い顔をしてフタバの手を取る。

「急ぐぞナルト、フタバ!その蛇ってのは恐らく…ナルトがみた蛇と同じヤツだ。そうなってくるとフタバ、お前はワシから絶対に離れるな」

フタバは言われるがまま自来也の手を握り返し懸命に走った。

そして男の言う蛇を見たという場所に3人が着いた時、そこにはもう誰もいなかった。
ただ城壁が激しく崩れている部分があり、誰かがここに居たのは間違いない。

「一足遅かったのォ…」
「自来也様、もしかして蛇って…」

三忍について調べたことがあるフタバは薄々気付いていた。
蛇を口寄せする忍、大蛇丸がここに来ているのではないかということに。

「……行くぞフタバ、ナルト」

自来也はそれ以上何も言わず2人を連れ短冊街の中心部へと戻った。



* * *



日も暮れ、3人は夕飯と情報収集を兼ねて居酒屋を訪れた。
暖簾をくぐると自来也が席に座っている一人の女性を見つめこう言った。

「綱手!」
「自来也…?何でお前がここに…」

その女性は50歳とは思えないほど若く、そして美しかった。隣には黒髪の可愛らしい若い女性が座っている。

「やっと見つけたぞ!」

はぁ、とため息をついた自来也。他の席が空いておらず、店員にお知り合いならばと促され相席をすることになった。

ナルトが料理の注文をする様子を見ながら、この緊張感の中よく普通にできるなとフタバは感心する。
料理が運ばれて来てからも、誰も話そうとはしない。

しかしそんな沈黙を破り、綱手が小さく呟いた。

「今日は懐かしい奴によく会う日だ」
「……大蛇丸だな、何があった?」

やはり、やはり大蛇丸が来ているのだ。フタバは予想が確信に変わり、思わず身震いした。

綱手の付き人だというシズネが何か言いたそうに綱手を見たが、彼女は余計な事を言うなと言わんばかりにキッとシズネを睨みつける。

「別に何も……あいさつ程度だよ。お前こそ私に何の用?」

その問いの答えにはフタバも興味があった。自来也が何というのか、フタバは隣に座る彼を見上げる。

「率直に言う。綱手…里からお前に五代目火影就任の要請がでた」
「えっ?」
「グッ!!」

料理を食べていたナルトは驚きのあまり喉に詰まらせてしまったらしい。苦しそうにしているナルトにフタバは慌てて水を差し出し背中をさする。


なるほど、自来也が綱手を探していた真の目的はこれだったのか。


そして綱手は三代目の死を知っていた。大蛇丸に直接聞いたと言う。

「大蛇丸!?そいつが三代目のじいちゃんを!?」

フタバは叫ぶ彼を見て、ナルトは三代目が亡くなった原因を知らなかったのかと気付いた。

「ナルト…私が大蛇丸の実験体だったことは話したよね。あの人は三忍の一人だけど、自来也様とは違う。明確な悪意があって、木ノ葉を崩そうとしていた。三代目火影様はそれを阻止しようとして……」
「……分かんねーよ!何で、何で木ノ葉の忍者なのに……!」


--- 何で ---


その答えはフタバにも分からなかった。どうして木ノ葉で生まれ育ったのに、その里を崩そうとするのだろう。
何も言えない悔しさでいっぱいになっていると、綱手が口を開いた。

「……この2人はなんなの?あんたが子守なんて笑えるね」

ナルトが綱手を睨みつけた。

「…うずまきナルトと、柊フタバだ。ああ、正確にはアビスマフタバだがのォ」
「(! このガキが九尾の……そして柊でアビスマ…?まさか、まさかそんなこと…)」


ナルトは納得がいかないらしく、まだ喚いている。

「こんな奴が五代目火影ってどういうことだ!?」
「少し黙ってろナルト!……で、答えは?引き受けてくれるか?」

綱手は複雑そうな顔をしている。
火影になるかどうかではない、また別の悩みを抱えているようにも見える。

フタバと自来也はただ静かに綱手の答えを待った。


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