▽12

「なんだそれ?」

ナルトが綱手の左手の上に乗せられた御守りの中身を見てそう言った。
中には2つのなにかが入っており、どうやらそのうちの1つは手紙のようだ。

「それは折り鶴…ですか?」

フタバはもう1つの中身を指差し、綱手に確認する。
綱手はすぐに分かっていたようで、「ああ…」と優しく答えた。

「あー、なるほど!これ千羽鶴にする状態の折り鶴なのか!見慣れたあの鶴の形じゃなかったから分かんなかったってばよ」
「ふふ、折りたたまれたままの状態だとすぐには気付けないよね」
「しかしまた、猿飛先生はなんだってこんなもんを…」

自来也が呟いた言葉に、皆頷く。
その答えを知りたい一同は、早く手紙を読むよう綱手を促した。三代目火影、猿飛ヒルゼンは何を思ってフタバに託した御守りに折り鶴を入れたのだろうか。

綱手は丁寧に折りたたまれていた手紙を開く。
どんな長文が書かれているのだろうと覗き込んだナルトはその内容に驚いた。

紙の真ん中に

『お前なら大空も飛べる』

とたった一文書かれているだけだったのだ。

「ますます意味わかんねーってばよ!なあなあ、綱手のバアちゃ、ん…?」

ナルトが綱手を見ると、彼女は唇を噛み締めていた。
まるで今にも泣き出してしまいそうな、そんな彼女らしからぬ表情に思わず黙ってしまったナルト。

綱手は何も話さず、ただ折り鶴と手紙を胸の前で大切そうに握りしめる。

彼女は幼い頃のことを思い出していた。
優秀な大蛇丸と自来也の間で悩んでいた綱手。何かと彼らと比べられることが多かったが、自分自身は同じ土俵に立てるような立派な忍であるとは思えなかった。
そんな綱手に気付いたのか、ある日師である猿飛ヒルゼンに呼び出された。
彼は目の前で折り鶴を折って見せ、それを綱手にプレゼントした。

広げれば大空を飛べるようになる折り鶴。広げるか広げないかは自分次第。

「お前は凄い忍だ。いつか羽ばたく時が来るとワシは信じとるよ」

そう優しく微笑んでくれたヒルゼンに、その時の綱手は照れ隠しで「なにそれ意味わかんない!」と憎まれ口を叩いた。それを聞いた彼は豪快に笑ったのだった。

そんななんでもない出来事を、ヒルゼンは覚えていたというのか。
そして大切な木ノ葉の忍、フタバを救えるのは里を離れた綱手しかいないと信じていてくれていたのか。


「……フタバ」
「はい、綱手様」
「猿飛先生は、お前にとってどんな火影だった?」
「…優しくて、温かくて、とっても強くて、それなのに私たちと同じ目線に立ってくれて。あの方が火影様じゃなければ、今の私はありませんでした。本当に大好きな人です」

その答えをきいた綱手は、あの時のヒルゼンのように豪快に笑った。

「私もそんな火影にならないといけないな」

綱手はフタバの頭をぐしゃぐしゃっと撫で、「それはそうと…」と切り出した。

「フタバ、お前いつまでその姿でいるつもりだ?」
「え…あっ!」

シカマルに変化したままだったことにようやく気付いたフタバは恥ずかしそうに元の姿に戻った。


「そいつはお前の想い人ってわけか」
「つ、綱手様!シカマルはただの幼馴染で…!」
「咄嗟に変化した相手だ。少なからず好意的に思ってるってことで間違いはないだろ?」


綱手はニヤニヤと笑いフタバをからかっている。
しかしナルトは面白くなさそうにふくれっ面だ。

「ただ変化しただけで好きとか嫌いとか、バアちゃん考えが浅いってばよ」
「ほう、言うなナルト。ならばお前は咄嗟に変化しろと言われたら誰を思い描く?」
「え、俺ならサクラちゃんか…」

そこまで言って彼はバッと自分の口を押さえた。

「な?その様子からして恐らくお前も好きな女の子を思い浮かべたんだろ?」
「う、うるせー!バアちゃんの意地悪!」

自来也はそんな2人をあきれた様子でみている。
フタバも自分の話題から逸れたことにホッとし、やっぱりナルトはサクラのことが大好きなんだなあと微笑ましく思った。

しかしナルトはサクラの名を言った後、無意識に別の人物の名前も言おうとしていたことに気付いてしまった。

『俺ならサクラちゃんか……

フタバ』

確かにそう言おうとした。
今まで彼女をそんな風に見たことはなかった。
同期として仲間として大切な存在ではあったが、 ただそれだけだ。彼女の周りにはいつも沢山の人がいて、羨ましく思ったこともあった。そんな気持ちがこの綱手捜索の旅を通して少しずつ変わっていたとでもいうのか。

「(俺はサクラちゃん一筋なんだってばよ…)」

ナルトは誰にも気付かれない心の中で自分に強く言い聞かせた。

フタバはフタバで自分が何故シカマルに変化したのか疑問に思っていた。
咄嗟に細部まで思い描けるのが幼馴染として常に近くにいたシカマルだったことはなにもおかしいことではない。それでも、綱手にあんな風に言われてしまっては変に意識してしまう。

『俺はお前の事が大事だ。幼馴染としてじゃなく、1人の女として』

以前シカマルからそう言われた事を思い出す。
自分が彼のことをどう想っているかはまだ定かではないが、早く会いたいと感じている事は確かだ。


「(でもシカマルに黙って里を出たから会った途端に叱られるんだろうな…)」


それでもフタバの顔は自然とほころぶのだった。


* * *


綱手とシズネを連れたフタバ達は無事木ノ葉へと帰還した。
相談役達はすぐにでも五代目火影の就任祝いをと急かしたが、その前に綱手にはやってもらわなければならないことがある。

それはカカシ、サスケ、そしてリーの治療をすること。

ようやく彼らを救えるのだ。

ナルトがサスケ達の病室まで先導すると張り切り、フタバは綱手の手を引き彼の後に続く。自来也とシズネもその後を追った。

道中、意外な人物と遭遇した。

「お、ナルトじゃねーか……ってことはフタバも居るんだろ、出てこい」

咄嗟に綱手の後ろに隠れていたフタバは苦笑いしながら顔を出す。
そこには呆れた顔のシカマルと、フタバを見て嬉しそうなシカマルの父、シカクが立っていた。
ナルトとフタバが一緒に居るという事はガイから伝わっていたのだろう。

「えへへ…シカマル、シカクさんお久しぶりです…」
「久しぶり、じゃねーよ…ったく、連絡も無しに居なくなりやがって」
「ごめんなさい…」
「まあまあシカマル。こうやって無事元気そうなフタバちゃんに会えたんだからいいじゃねーか。そりゃ毎日ずっと心配してたお前は小言の1つでも言いてえだろうが」
「余計なこと言ってんじゃねーよオヤジ!」

そんなやり取りを見ながら、フタバは木ノ葉に帰ってきたんだなと嬉しく思った。
ずっと自分を心配していたシカマルには悪いが、自然と笑顔になる。
彼には話したい事がたくさんある。また改めて家に呼ぼう。母のマキナも旅の話を聞きたいだろうし、まとめて話した方が都合がいい。

「そんなことよりシカマルお前なんでこんなとこに来てんだってばよ。奥は忍者登録室があるだけだろ?」
「ん、ああ。実はちょっとめんどくせーことになっちまってよ」
「なんだってばよ?」

シカマルとナルトの会話をよそに、シカクがぺこりと頭を下げた。

「お久しぶりッス綱手様自来也様」
「おお!奈良家のガキか!なるほど、フタバが変化してたのは奈良家の倅だったのか」
「は?フタバが俺に変化?」
「そ、そのことについてはまた後で話すから!ほら綱手様!火影としての初の仕事が待ってますよ!」

フタバは綱手の背を押しその場を逃げ出す。

「あ、おいフタバ。アスマがお前に会いたがってたぞ!それに話してーことも…」
「わ、わかった!またあとで連絡する!」

叫びながらそのままフタバ達は行ってしまった。

「よかったなシカマル。またあとで、だってよ」

からかうシカクをめんどくさそうに見上げ、シカマルはため息をつく。
そしてそんな話はやめてしまおうと言わんばかりにすぐに話題を変えた。

「フタバがあの女の事火影って言ってたな。あーあ、女が火影かよ。女ってのはどーも苦手なんだよな。ワガママで口うるさいしよ…とにかくめんどくせーぜ女は…」
「シカマルよォ…女がいなきゃ男は生まれねーんだぜ。女がいなきゃ男はダメになっちまうもんなんだよ。それにフタバちゃんだって女だろ?お前フタバちゃんの事は気にかけてんじゃねーか」
「……アイツは幼馴染だしな」
「ま、お前も年頃になりゃわかる」

シカクはそう言い、先帰るぜ〜と去っていった。

シカマルはまた深いため息をつく。
フタバに自分の気持ちをとっくに伝えている事はシカクには話さない方がよさそうだ。酷くからかわれるに決まっている。

シカクに対し女がどーのこーの言ってしまったが、これもフタバの事を悟られないようにという一種の照れ隠しなのだろうか。そうだとしたら自分はまだまだ子供だ。

「めんどくせーなー…」

おきまりのセリフを吐き、シカマルはゆっくりと歩き出した。


同じ頃、フタバ達はサスケらが入院している木ノ葉病院についた。
まずはサスケから。そう急かすナルトに連れられ、綱手は彼の眠ってる病室の扉に手をかけた。


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