▽14

「あら、フタバちゃんじゃない!アスマ先生達来てるわよ」

シカマルを探そうと里を歩き回っていたフタバはアスマ班行きつけの焼肉屋の前でそう声をかけられた。
声の主は焼肉屋の奥さん。とても明るくなにかと気にかけてくれる優しい人だ。

「え、ホントですか?」
「ついさっき来たばかり。なんだ、フタバちゃんも呼ばれてたんじゃなかったの?」
「あ…私はしばらく里の外に出てたのでそんな約束してなくて…」
「あら、任務だったのね!それならちょうどいいじゃない!アスマ先生達にただいまって言ってあげな!」
「え、わあ!」

フタバはそのまま手を引かれ10班が居る席まで案内された。
シカマルを探していたのは事実だが、まだアスマに会う準備はできていなかった。彼に黙ってでてきたフタバはどんな顔をして会えばいいかわからない。
フタバの護衛担当でもあるアスマは心配していただろう。叱られることも覚悟しつつ、まずは詫びなければ、そう思いフタバは顔を上げた。

「おーフタバ、久しぶりだな。ほら、お前も肉食え、肉!」

予想外にも、アスマはにこやかにそう言った。ポカンとするフタバを座らせ、せっせと皿に肉を盛っていく。

「ア、アスマ先生?怒ってないんですか…?」
「なんだ、怒られたいのか?俺としてはお前が元気に帰ってきた、それだけで十分なつもりだったんだが…。怒っていいなら話は別だ。フタバ、お前俺に黙って里を出るなんて」
「うわー!ごめんなさい!怒られたくはないです!お肉食べます!」
「ん、それでいい。食え!」

フタバがホッとしていると、いのがバシッと背中を叩いてきた。

「おかえりーフタバ!私たちもそうだけど、シカマルが特に心配してたのよー」
「ホントホント、フタバは俺が見てないとどーのこーのってね」
「いの!チョウジ!お前らテキトーなこと言ってんじゃねえよ!」
「あら、テキトーなんて失礼ねー」

フタバはそんな10班のやりとりを見て思わず笑ってしまった。里に帰ってきた、そう強く感じられたのだ。
フタバは微笑み、みんなの顔を見渡す。

「ん…?あれ…?」

なんだか違和感を感じたフタバ。今までと何かが違う。

「え、あーー!!!」
「なんだよ、うるせーな」
「シ、シカマル!な、なんで中忍ベスト着てるの!?」

そう、目の前で肉を食べているシカマルが中忍ベストを着ていたのだ。

「そうそう、シカマルのやつ中忍になったんだよ。なかなか似合うと思わねーか?」
「うるせーアスマ。からかってんじゃねーよ」
「中忍に!?てことは試験受かったのね!」
「そうなのよー。受かったのはシカマルだけ。まったく、意外なやつに一番乗りされたものだわ」

シカマルは面白くなさそうにしているが、照れているのがわかる。
シカマルが中忍、フタバはその事実に驚くとともに嬉しくなった。

「シカマルすごい、さすがだね!本当におめでとう。ベスト、とっても似合ってるよ」
「……おう」
「ま、とりあえず!フタバも帰ってきた、シカマルも中忍昇格、同時に祝ってカンパイするか!」

その一声でカンパイをし、肉を食べ始めた一同。
フタバが箸に手を伸ばした時、アスマがポンっと頭に手を置いてきた。


「フタバ、おかえり」
「……ただいま、先生!」


* * *


食事を終え10班のみんなと解散したフタバはマキナの待つ家へ帰ることにした。
誰よりも一番心配していたのはやはり母だろう。

私の顔みたら泣いちゃうかもな

フタバは母の泣き顔を想像しクスリと笑った。
早く帰ろう、そう思い走り始めた瞬間、「やめてー!!」というサクラの叫び声がきこえてきた。

「サクラ…!」

声がしたのは頭上で、今フタバがいるのは病院の真下。
おそらくサクラは屋上にいる!

フタバがそこに行こうとした時、目的の場所である屋上から轟音が響いた。

「いったいなんなの…」

呆然と上を見上げると、屋上に設置してあった貯水タンクがめちゃくちゃに破裂している。

サクラが危ないかもしれない

ゾクリとしたフタバは大慌てで屋上に向かった。しかしそこにはサクラの姿はなく、破裂した2つのタンクがあるだけ。

「サ、サクラ!いるの!?大丈夫!?」
「あのお嬢ちゃんならナルトと一緒にどっかへ行ったぞ」
「誰!…あ、自来也様…」

敵かと思い身構えたフタバだったが、現れたのは自来也だった。
しかし妙に浮かない顔をしている。

「自来也様…いったいなにがあったんですか?」
「……ナルトとサスケがのォ」

彼の話によると、屋上でナルトとサスケが戦おうとしていたらしい。
ナルトは螺旋丸、サスケは千鳥を使いぶつかり合おうとした。しかしカカシがそれを阻止したのだという。
フタバがきいたサクラの悲鳴は、この2人を止めたときのものだったということだ。

「でも、なんであの2人が…?」
「サスケってガキはイタチに復讐をしたいんだろ?その為には強くならんといかん。だから修行を積んできたが、身近にいるナルトの成長スピードに劣等感を感じ始めた…。焦ってるんだろうのォ、サスケは」
「だからってなんで戦う必要が…」
「男ってのはアホだからのォ。ライバルに負けたくないんだ。特に復讐なんていう目標があるサスケは、ライバルに負けてる場合じゃないと思ったんだろ」

復讐。
知ってはいたが、その言葉が重くのしかかる。イタチと接触したなかでサスケも思うことがあったのだろう。

それにしても、だ。サスケとナルトが戦おうとするのを真近で見てしまったサクラがどれだけ辛かったことか。
タンクの破裂具合からも、2人が本気だったことがうかがえる。

「……負けたくないからって相手を殺しちゃったら意味ないじゃないですか。同じ里の仲間なんですよ?」
「まぁ、のォ…。確かにやりすぎだ。2人して頭に血がのぼってたんだろ。こんなことするために螺旋丸教えたわけでもないし、ナルトには説教が必要だな。サスケのほうにはカカシが行った」
「自来也様…」
「お?泣くな泣くな!フタバ、だいじょーぶだ!な!」

自分でも気付かぬうちに涙が出ていた。
自来也の大きな手で頭を撫でられ、フタバはコクコクと頷く。

「フタバ、お前は素直に育っとる。誰よりもまっすぐだ。だから、同期の連中が足を踏み外しそうになったらお前が救ってやれ」
「…私にそんなことができるでしょうか」
「なーに言ってんだ!出来ると思っとるから頼んどるんだろう!」

自来也はいつも元気づけてくれる。今一番欲しい言葉をかけてくれるのだ。
豪快に笑い、深刻なことなんてなにも起きていないかのように。

「自来也様」
「ん?」
「ありがとうございます」
「んふふ、お礼するってんならデートでもしてくれのォ」
「はい、いつでも!」

フタバの答えに面食らったのか、自来也はキョトンとし、そしていつものように笑った。

自来也の言う通り、自分が仲間を救おう。今はまだ十分な力はないかもしれないけれど、これからその力はつけていけばいい。

自来也と別れたフタバはどこかスッキリした顔で家へと向かった。


家で待っていたマキナは案の定号泣し、フタバをきつく抱きしめた。
忍術を使えるようになったと言うと再び泣きだしたマキナをなだめるのは大変だったが、彼女の愛情深さに心が温かくなる。

夜も更け、泣き疲れたのかマキナは眠ってしまった。フタバもそろそろ限界だ。久々に自分の布団でぐっすり眠れる。

明日もいい日でありますように。フタバは窓から見える満月にそう祈り、重くなっていた瞼を閉じた。



時を同じくして、サスケも満月を眺めていた。
しかし全身が痛む。身体はボロボロだ。

大蛇丸からつかわされたという4人組の忍にやられてしまったのだ。彼らはサスケと同じように大蛇丸の呪印を受けており、その力を使いこなしていた。

全く歯が立たなかった。自分の無力さを痛感した。

力を望むならば大蛇丸が叶えてくれる
自分たちと共に来い

彼らはそう言い残し去っていった。

ナルトとの一件のあと、カカシと話をしたことをサスケは思い出す。

カカシも大切な人をみんな殺されている。だがまた大切な仲間ができた。復讐なんてやめろ、力はそんなことのために使うんじゃない。

そう言われたときは、この里で仲間とともに生きるのも悪くないと少しだけ思った。

しかし、やはり自分には復讐しかないのだ。

復讐を果たすには力が必要。カカシが言っていたのも所詮綺麗事だ。

もう、答えは決まっている。


空に浮かぶ満月は皆の幸せを願いすやすやと眠るフタバ、そして己の復讐を果たすためある決断をしたサスケ、どちらのことも平等に照らし続ける。

里は、ゆっくりと朝に近付いていった。


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