▽15

綱手が火影になって数日経った。
復興途中の木ノ葉には課題が沢山あり、里の忍の数が足りないくらいだ。

そんな中、フタバは火影室に呼ばれていた。

「失礼します」

ノックをして扉を開けると、疲労した顔の綱手が座っている。

「おお、いきなり呼び出してすまなかったな」
「とんでもないです。綱手様、お疲れのようで…」

フタバがそう言うと綱手は「覚悟してたとはいえこたえるな」と笑ってみせた。

「それはそうと」

彼女は急に真剣な顔になり、フタバを見つめる。
その視線につられ、フタバも無意識に姿勢をただした。

「お前はまだ下忍だと聞いた。砂の暴動で試験が中断し十分力を見せられなかったこともあるが、忍術を使えないのも大きかったらしいな」

フタバはコクリと頷く。

「しかし、お前は未熟ではあるがもう忍術を使える。アビスマの能力も使いこなしている」

綱手は資料をドサッと机に置き、その上で頬杖をついた。

「今里には課題が山積み。そこでだ。フタバ、お前を特別上忍に任命する!」
「……え?」

理解できていないフタバを見て、綱手がニヤリと笑った。



* * *


「特別上忍〜!?」
「あはは…」
「笑ってる場合じゃないわよー!」

いのがガクガクとフタバの肩を揺する。
綱手から呼び出された後フタバは任務のためアスマ達10班に合流し、先程告げられた内容を話したのだ。

「な、お前、そもそも中忍でもなかったのに…」
「そこなんだけどね…」

フタバは驚きを隠せない様子のシカマルに説明する。

通常特別上忍は中忍のなかから秀でた一芸があるなど優秀なものが選ばれるが、忍が足りない今特例として下忍のフタバが選ばれたのだ。
アビスマの能力は貴重なものであり、里にとって必要だと考えられたのだろう。
フタバは次の任務からは通常任務ではなく、しばらくは里の忍達のチャクラを回復する役になるという。

「私も、まだよく理解できてないんだ」

苦笑いするフタバを見て、シカマルは肩の力が抜けた。

「チャクラ回復って…特別上忍になってすることはそれだけかよ?」

フタバがギクリとしたのをシカマルは見逃さなかった。

「う、そ、それは…」
「なんだフタバ、言ってみろ」

今まで黙って聞いていたアスマが口を開く。

「アスマ先生……あの、場合によっては、諜報活動もすることになるかもって…」

アスマがフーッとため息をついた。

「なんだそれ、スパイか?お前にゃ向いてねーな」

ガシガシとフタバの頭を撫でるアスマの笑顔を見て、フタバはホッと胸を撫で下ろす。

「場合によっては、なので、可能性は少ないかと…」
「させねーよ」
「え?」

アスマはしゃがみこみフタバと視線を合わせる。

「忘れんなよ、俺はお前の護衛だ。今の火影がなんて言うかは知らんが、この役は前火影から託されたもの。スパイなんて危険なことさせるかよ」
「先生…」

フタバは綱手の顔を思い出していた。
彼女だって、できることなら危険なことはさせたくないと言ってくれた。
忍でありながら周りに守られている自分が少し嫌だと感じながらも、その優しさは素直に嬉しい。
しかしやはりこのままではいけないことはわかっている。

「アスマ先生、私すぐにでも先生にもう護衛はいらないって言わせてみせます!」
「…いいねえ。そのためにはまず忍術を補うために体術でもきわめてみるか?」

フタバが体術を苦手なことを知っているアスマは意地悪く笑った。
しかし、彼女は予想に反してニコニコと嬉しそうな表情をする。

「あ、私忍術使えるようになったんですよ」
「……は!?」

アスマ、いの、チョウジはもちろんのこと、1番大声をあげて驚いたのはシカマルだった。


* * *


「シカマル、なんでそんな怒ってるの?ごめんって言ってるじゃん!」
「……うるせー」

フタバは頑なに自分のほうを見ないシカマルに何度も謝っていた。
10班での任務中も、それが終わってからもシカマルはずっとこの調子。

フタバが忍術を使えるようになったと教えた時からだが、何が気に食わなかったのかわからない。

「…どうして?シカマルなら、忍術使えるようになったこと一緒に喜んでくれると思ってたよ」

シュンとするフタバの顔を見たシカマルは慌てはじめ、そして気まずそうに「あーー」と頭をかく。

「嬉しいに決まってんだろ」

ようやくまともに口をきいてくれた。
フタバはシカマルの正面に立ち、「だったらなんで怒ってるの!」と問いただす。

「……もしこんな日がくるとすれば、お前が1番に教えるのは俺だと思ってた」

不機嫌そうにフイッと視線を逸らしたシカマルの頬は心なしか赤い。

「え、っと…?シカマル、もしかして皆と一緒に知ることになって拗ねてる?」
「はあ!?拗ねてるとか、そんなんじゃ、ねーよ!」

分かりやすく否定するシカマルにフタバは思わず笑ってしまった。

「何笑ってんだよ!」
「だ、だって…フフッ…そんなことでそっけなかったなんて…」
「悪かったな…俺が勝手に思い込んでただけだ」

1人で歩き出してしまったシカマル。
フタバはその背を追いかけ、そして勢いよくおぶさった。

「うお!?」

突然の衝撃に一瞬ふらついたシカマルだったが、すぐに体勢を立て直しフタバを背負ったまま再び歩き出す。

誰もいない川沿いの道に、2人のかさなった影が映し出される。

「シカマル、私里に帰ってきてすぐ言おうと思ってたんだよ。でもシカマルが中忍になったってきいて、嬉しすぎてね。自分のこと話すの忘れちゃってた」

本当に嬉しそうに話すフタバの声にシカマルは耳を傾けている。

「家についてそれを思い出したんだけど、その日はお母さんにだけ話してすぐに寝たの。シカマルにはまた会えるからその時に話そうって。それが今日だったってだけだよ。でもごめんね、早く知りたかったっていうシカマルの気持ちもわかるよ」
「……謝んなよ、俺がダセーみたいになるだろ」

フタバはシカマルの肩に頭を預けた。

「シカマル、これは言うつもりなかったんだけどね。私、忍術使えるようになってすぐ変化の術やってみたんだけど、その時どんな姿になったと思う?」

シカマルはフタバたちが里に帰ってきた際初めて会った綱手が言っていたことを思い出した。

『なるほど、フタバが変化してたのは奈良家の倅だったのか』

ようやくその発言の意味がわかり、シカマルはボンっと顔が熱くなる。

「お前、俺に…」
「フフ、そう。私さ、無意識のうちにシカマルに変化してたんだ。シカマルが私のこと考えてくれてるように、私もシカマルのこと考えてたんだなって気付いた」

よっ、と声を上げ、フタバはシカマルの背中から飛び降りた。

「シカマル、私にとってあなたは特別な存在だよ」

フタバの顔は夕日に照らされ、どんな表情をしているのかシカマルにはわからない。

「シカマルは前に私のこと大事だって言ってくれたよね。私はまだそれにハッキリとした答えは出せないけど……あの時、嬉しかったってことだけは教えておくね」

おそらく笑っているであろうフタバを見て、シカマルはドクドクと早まる心臓の鼓動を感じた。

「私はこれから強くなるよ。シカマルに負けないくらいね」
「…のぞむところだ」

フタバから差し出された右手を、シカマルも右手で握り返す。

「ちがうちがう、こっちの手じゃない」
「あ?」
「握手じゃないよ、手を繋ごうって言ってるの。鈍いなあシカマルは!」
「!……ん」


さっきはかさなった影を写していた道に、今度は並んで歩く2人の影が映し出される。

右手と左手、しっかりと繋がれた状態で。


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