▽05

「いよいよ私達も下忍だね」
「そうだな」

アカデミー卒業試験、無事合格した者は下忍となる。
正式な試験に合格せずに卒業を許されたのはフタバとナルトのみだ。(卒業許可を貰ったにも関わらず試験に挑戦したフタバだったが、やはり火影からの許可がなければ今頃まだアカデミーに在籍していただろう。)


合格した者たちは教室に集められ、下忍として活動していく際の班分けをすると教えられる。シカマルの隣に座っていたフタバもワクワクとその時を待っていた。
そして次々と、名前とその所属班が告げられていく。


「…あれ?」


イルカが以上だ、と言い終わったにも関わらずフタバの名前は呼ばれていない。


「あの、イルカ先生。私まだ、呼ばれていないです…」

手を挙げて皆の前で発言すると、周りの目が全てフタバに向いた。

もしかすると挑んでみた試験の結果があまりに悪くて、卒業許可さえも無くなってしまったのではないだろうか。

「そう、フタバ。お前は皆と同じ形では班に所属しないことになった」
「そ、それは下忍としての任務には着けないということですか?それとも卒業自体が…」
「そうじゃない。今から説明しよう。合格者の諸君、君たちもきいてくれ」


そうしてイルカから語られた話はこうだ。

フタバは他人のチャクラを回復させることができるということ。
今現在火影や研究員によってその能力の解明が進められていること。
前例のない能力のため、下忍としての活動も他の人達とは少し変わってくるということ、である。


「…フタバお前そんな力身につけてたのか」
「う、うんごめんねナルト。もう少し力について何か分かれば皆にも話そうと思ってて…」
「いやいや、なんで謝んだってばよ!しかしすんげぇな!さすがフタバだ!」


真っ直ぐな褒め言葉に顔を赤らめて照れるフタバの様子が、シカマルには面白くなかった。


「フタバに回復してもらうとすげぇあったけぇんだ。まあ、まだ俺と三代目しか経験してねぇからお前たちには想像もつかねぇだろうけど」
「いいなー!フタバ、俺にも今日さっそくやってくれよ!」
「ダメ」
「なんでお前が断んだよシカマル!お前の許可なんていらねーだろ!」
「うるせえ」

慌てて仲裁するフタバにより、言い合いは終了させられる。

「(なーに一丁前にヤキモチなんて妬いてんのよー。シカマルってこんなやつだったかしら?)」

シカマルの幼馴染でもある山中いのだけが、本人さえ理解していない彼のフタバへの想いに気付いていた。


「まったくお前たちは!もう下忍になるんだぞ、少しは落ち着いてくれ。話はまだ終わっていない。いいか、フタバは1つの班に所属しないかわりに全ての班に所属することになる」
「??? おっしゃっている意味がよく…」
「つまり、だ。お前は任務内容によって活動する班が変わる。明日はナルト達の班、その次はシカマル達の班といった様にだ。フタバの力は仲間にしてみれば非常に心強いものとなる。その力を木の葉のために使ってくれ」


にっこりと微笑むイルカの言葉に、そんなにも期待されているのかとフタバの身体が震える。それは喜びからによるものだった。


「とりあえず、話は以上だ。これから担当上忍との顔合わせがある。そうだなフタバは今日はシカマル達の班に参加するといい。シカマル、いの、チョウジ、フタバをよろしくな。さて、俺から話をするのはこれで最後だ。お前たち本当に卒業おめでとう!」


そう言ってイルカは教室を出て行った。


「先生!!」


担当上忍を待つ他の同期らから離れ、フタバはイルカの後を追いかけた。


「どうした?フタバ。まだ何か不安なことで、も…」

フタバはイルカに抱きついていた。下を向いているからどんな表情をしているかイルカからはわからない。

「イルカ先生、私は貴方がいたからアカデミーで諦めることなく頑張ってこれました。先生が私を信じていてくれたから…。先生に会えてよかったです」
「ど、どうしたんだフタバ!何も永遠のお別れじゃないんだぞ」


ポンッと頭に手を置くとフタバが顔を上げた。その目には涙が滲んでいる。


「…下忍になることにまったく不安がないわけではありません。もし、私がつまずいてしまったときは会いに行ってもいいですか?」


自分がこう話すことでイルカを困らせてしまうことはフタバ自身わかっている。それでも、イルカと離れることは耐え難い。
自分で尋ねておきながら、その答えを聞くのが不安だった。


「何を言っているんだ。いつでも会いにきていいに決まっているだろ!一楽でラーメンでも食おう、な?」
「…はい!!」

アッサリと、しかし何より嬉しい答えだった。
私がこの人にしてあげられることはないだろうか。

「あの、先生。今は別に減ってないかもしれませんが、よかったらチャクラ回復の力つかってみてもいいですか?」
「そういえば俺は体験したことがなかったな。フタバさえいいなら、是非頼む」
「はい!では…」


グッと力を込める。抱きついているから、身体全体を使って。
その瞬間、大きな光がブワァっと2人を包み込んだ。

「…す、すごいな」
「えへへ、先生に私のチャクラをたくさん流し込んでおきました!…先生、本当にありがとうございました」

火影が言っていたように、チャクラ量の上限は増えたのだろうか。それはイルカには分からなかったが、フタバの優しさがこの力を生んだのだろうということは感じられた。

「あ、上忍の方がきちゃう!呼び止めてすみませんでした。それじゃあ、また一楽で!」


笑顔でパタパタと走り去るフタバ。
どの生徒もかわいく大切な存在だが、あの子には特別な感情を抱いていたのかもしれない。家族のいない自分にとって、あの子は妹のようなものだった。
忍術が使えないと悩み泣いていたこともあった彼女が、今は力強く前を向いている。


彼女の後ろ姿を見ながら、目頭が熱くなるのをイルカは感じた。


アカデミーを卒業した彼女たち。いよいよ忍としての道が始まる。


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