目的の3人には案外早く会うことができそうだった。
我愛羅に会いたい、そう言うと里の人々が3人の場所まで案内してくれたのだ。
「立派なお部屋…」
フタバは案内された建物の中にある1つの部屋で待たされていた。
ここは我愛羅たちの家か何かだろうか?それにしても大きい建物だ。
会えると分かると途端に心臓がドキドキと高鳴ってくる。
一言目は、なんて言えばいいだろう
そう考えていると、キイっと扉が開いた。
「フタバ…?」
「! テマリさん!」
まず目に入ったのは、テマリだった。
喜びなのか戸惑いなのか、複雑な表情をしている。
「テマリさん、お元気でしたか?」
「ああ…お前も元気そうだな」
フタバは久々に会えた友人の姿に思わず涙しそうになった。
テマリの後に続きカンクロウ、そして、我愛羅が姿を現す。
「カンクロウさん!我愛羅!」
「久しぶりじゃん、フタバ」
「本当にお久しぶりです!会えて嬉しいです」
「何しにきたんじゃん?」
フタバは目的を忘れていたとハッとした。
「今回は同盟国としてあるお願いをしに参りました。火影からの手紙がここに。これをお読みください」
3人はフタバの差し出した手紙を読んだ。
助太刀を頼むと書いてあるのだろう。
フタバはその間もソワソワしながら待った。
「…なるほど、事情はわかった。大蛇丸にサスケがな…。さっそく木ノ葉へ向かおう。しかし」
我愛羅が言葉を濁す。
「…しかし、フタバはいいのか。俺たちはお前にとって信用に値するのか」
フタバは思いがけない問いかけにポカンとしてしまった。
我愛羅は木ノ葉襲撃のことを気にしているのだろう。
確かにあれは大きな出来事だった。
しかし、
「先日の木ノ葉襲撃、大蛇丸によって仕組まれたことだとききました。砂は悪くなかった、それはたしかです」
3人は静かにフタバを見ている。
「あの時も言ったけど、私はあなた達を友人だと思っています。だから今日こうして会えたのも嬉しくて仕方がない。本当なら今すぐにでも抱きしめてしまいたい。その気持ちをジッとこらえているんです!」
本当に辛そうにフタバがそう言うものだから、テマリとカンクロウは吹き出してしまった。
「ど、どうしたんですか!」
「いや、フタバは相変わらずだと思ってね。ありがとう、未だに友人だという気持ちは変わらないんだな」
「あたりまえじゃないですか!」
「今すぐ抱きしめてもらっても問題ないじゃん」
「いいんですか!?」
フタバはダッと駆け出し、1番近くにいたテマリをギューっと抱きしめた。
「本当に、会いたかったんです」
「…ああ、私もだよ」
テマリはまるで幼い子をあやすかのようにフタバの頭をそっと撫でた。
「テマリさんからはいい香りがします。とっても落ち着く…私にお姉ちゃんはいないけど、こんな感じなのかなって」
「そんなこと言われたらなんだかくすぐったいね」
「フタバ、次は俺に来いじゃん!」
「あ、はい!カンクロウさ、」
フタバがカンクロウに向けて腕を広げた瞬間、視界から彼の姿が消えた。
「!?」
何故か、カンクロウは我愛羅の砂によって吹き飛ばされてしまったのだ。
「我愛羅…?」
フタバがそう呼びかけたが、我愛羅も何故自分が兄に対し攻撃をしたのかわかっていないようだ。
「が、我愛羅…ふっ、あはははは!」
何故かテマリだけが大笑いしている。
「ってーじゃん我愛羅!」
「す、すまない」
「カンクロウさん大丈夫ですか!」
「…怪我はないじゃん」
「大丈夫だよフタバ。カンクロウは放っておいて、我愛羅を抱きしめてやってくれ」
テマリがそう促す。
しかし我愛羅はそれは嫌なようで、フタバからジワジワと距離をとった。
「お、俺はいい」
「抱きしめられるのは嫌い?」
「そういう問題では…」
「ね、久しぶりだしお願い」
我愛羅は頬を赤らめながらも、絶対にフタバに触れようとしない。
「こんなことをしている場合ではないだろう。少しでも早く木ノ葉に向かわなければ…」
「たしかにそうだね!今回は諦めるよ。無事任務が終わったらギューっとさせてください。じゃあさっそく行こう!」
フタバはパタパタと部屋から出て行った。
「…我愛羅、お前もしかして」
「カンクロウ、それ以上言うのは野暮だよ。弟のことを黙って見守るのが兄、姉ってもんだ」
「…2人とも何を言っている。行くぞ」
カンクロウとテマリはニヤニヤしながら我愛羅の後に続いた。
* * *
「ってわけで、鯉伴様が私たちを連れて行ってくれます」
「…すごいな、こんなに大きな鯉を口寄せできるのか」
「えへへ…」
テマリに褒められフタバは思わず照れてしまった。
「砂の忍どもよ、さっさと泡に入れ。行くぞ」
鯉伴はぶっきらぼうにそう告げ、空中を悠々自適に飛び回った。
木ノ葉に着くと、門の前で火影が待っていた。
「フタバご苦労。我愛羅、テマリ、カンクロウ、よく来てくれたな。さっそく任務に向かってくれ」
「綱手様、私は…!」
「…気持ちはわかるが行かせるわけにはいかない。大蛇丸がフタバに気付かんとも限らないからな。3人とも、任せたぞ」
綱手は深々と頭を下げた。
「5代目火影様、顔をお上げください。それに木ノ葉襲撃のことは大変…」
「あーいいいい!私はその時この里にいなかったし、大蛇丸が仕組んだこと。恨むべきはあいつだ。フタバもそう言ったんじゃないか?」
我愛羅はあっけにとられたような顔をした。
「ま、申し訳ないと思うなら今回うちの里の忍をバッチリ救ってやってくれ。よろしく頼むよ。フタバ、転移をしてあげな」
「はい!」
フタバは1人1人の手を取って転移を施した。
「我愛羅、皆きっと強敵と戦って傷付いてる。皆を、助けてあげて」
「…ああ」
「我愛羅はとっても強いから頼りになるよ。本当に来てくれてありがとう!」
まっすぐと我愛羅の目を見てそう言うフタバ。
以前ならば、こんな言葉を投げかけられれば我愛羅の頭はズキンと痛んでいた。
しかし、不思議とその痛みはもうない。
それどころかとても心地よく、彼女から発せられる優しい言葉をもっときいていたいとまで思うようになっていた。
この気持ちはなんなのだろうか
我愛羅はそんな戸惑いを抱えながらもサスケ奪還に向かった下忍達を救うべく去って行った。
「さ、フタバは里で転移をしてもらおうかね」
「わかりました!」
「ぼちぼちカカシが帰ってくるころだ。かなりきつい任務だったから疲労も溜まっているだろう。そういう忍が沢山いる。よろしく頼むよ」
「はい!」
今できることを精一杯やろう。
とにかくシカマルや我愛羅達の無事を祈るばかりだ。
「鯉伴様、ご協力ありがとうございました」
「しばらくは呼ばれても出てこないかもしれんぞ」
「ふふ、また修行の時はよろしくお願いします。きっと出てきてくださいますよね」
「…フン」
ポワンと煙を上げて去って行った鯉伴を見て、フタバは微笑んだ。
テマリはシカマル、カンクロウはキバ、我愛羅はこっそり里を抜け出しナルトの助太刀をしていたリーの元に向かっていた。
彼ら砂の忍の活躍で木ノ葉の忍たちが助かったのは言うまでもない。
しかし、無事サスケの奪還は成功するのだろうか。
フタバは絶対に成功すると信じていた。
結果がわかるのは、後ほんの少し先のことである。