▽19

「ふぅ…綱手様、ひと通り帰ってきた方たちへの転移はすみました」
「ああ、ご苦労」

フタバは綱手から言われた通りに疲れ果て帰ってきた忍たちへの転移を施していた。
上忍たちはS級の任務を終えてきたのだろう。皆ボロボロである。

「ただいま戻りました」
「おお、カカシ。早かったな」

フタバが振り返るとそこにはカカシが立っていた。
なんでもないような顔をしているが、あちこちが汚れている。相当疲れているに違いない。

「カカシ先生、こちらに座るか横になるかしてください。転移するので」
「フタバ、噂通り特別上忍としての任務をこなしているみたいだね。お疲れ様」
「このくらい先生たちの任務に比べればなんてことないです!私はまだまだやれますよ!」
「はは、フタバらしいね。それより転移するなら抱き締めてからやってほしいんだけど」
「カ、カカシ先生!最近どうしたんですか!」
「いやあ、フタバのことが可愛くって仕方なくてね。抱きしめる方が回復時間も早いし、問題はないだろ?」

フタバは目の前の椅子に座り込んだカカシの胸に両手を当て、転移を施した。
抱きしめられると思っていたカカシは少し不満そうだが、胸から流れてくる温かいチャクラを目を閉じて受け止めている。

「まあ今度はよろしく頼むよ。…それより5代目、ナルトとかサスケとか下忍の様子はどうですか。難易度の高い任務を与えてくれと言ってきそうなもんですが」
「ああ、お前には話していなかったな」
「…なんです?」

フタバは途端に表情を変えたカカシを見て、ぎゅっと唇を噛み締めた。

「カカシ先生、サスケは大蛇丸の手下たちに連れられ里を出て行ってしまったんです…」
「サスケが…!」
「いい、フタバ。そこから先は私が説明する」

綱手はシカマルを隊長とした下忍構成の小隊にサスケを追わせていることを説明した。
里の状況からしてそうするしかなかったのだと。

カカシはハァーっと深いため息をつく。

「お前の次の任務はもう決まってるからどうしようもない」

綱手がペラッとS級任務の資料を提示する。
しかしカカシはすぐ戻ってきますんで、と火影室から出て行った。

「あ、あの綱手様!」
「…カカシに話したのはまずかったね。フタバお前は気にせずに自分の任務を」
「す、すみません!私もすぐ戻るので許してください!お叱りは後で受けます!」
「あ、おい!フタバ!…ったくどいつもこいつも」

綱手は走り出すフタバを無理に止めようとはしなかった。


* * *


フタバがカカシを見つけた時、彼は里の門の前で口寄せした忍犬たちにナルトとサスケのニオイを追うように指示を出していた。

散!という掛け声とともに散って行った犬たちを見届け、フタバはカカシの元に駆けつける。

「カカシ先生!」
「…フタバ、追ってきちゃったの?」
「その、まだ転移終わってなかったので…」

フタバはそっと腕を広げ、カカシをギューっと抱きしめた。

「カカシ先生が言うようにこうしたほうが回復が早いんです。もう少し待ってください」
「…ありがたいけど、転移のためだけに来たとは思えないな」

そう言われても、フタバも自分がどうしたいのかよくわかってはいなかった。
このまま私も連れて行ってくださいと言うのは簡単だ。しかし足手まといになることもわかっている。

「先生、本当は私も行きたい。だけどそれはただのわがままになってしまう。一度皆を信じると決めたんだから、私にできることはここで待っていることだけ」
「…それが正しい判断だよ」
「先生、私の想いだけ連れて行ってください。先生の体を流れるチャクラは私のものでもあるから」

カカシはフタバの頭を優しく撫でる。

「ああ、しっかりとその想い受け取ったよ。大丈夫、先生に任せなさい」

ニコリと微笑むカカシを見上げ、フタバは胸が熱くなるのを感じた。
その時、ウォーン!と犬の遠吠えが聞こえた。

「先生…!」
「ナルトたちを見つけたみたいだ。行ってくる!フタバ、来てくれてありがとな」

カカシは数秒フタバをギュッと抱きしめ、風のように去って行った。


* * *


火影の命により出動した医療班が負傷したシカマルたちを連れて戻ってきたのは数時間後のことだった。

シカマルは軽傷、キバは重傷だが命に別状なし。
ネジ、チョウジはかなりの重体で今後どうなるか予測もつかないほどだ。

「つ、綱手様!みんなは…!」
「一刻をあらそう!ネジとチョウジのことは私たちに任せな!フタバ、あんたはシカマルとキバの所に!」
「は、はい!」

バタバタと慌ただしい大人たちの間をすり抜け、フタバは仲間たちを探す。
しばらく走り回っていると、キバが寝かされている部屋の前にたどり着いた。

「キバ!」

身体中に包帯が巻かれ、痛々しい様子のキバがベッドに居た。
そばには同じく傷付いた赤丸が眠っている。

「…フタバ」
「キバ!ああよかった…キバ…赤丸も、生きててくれてよかった…」
「俺が、死ぬわけないだろ…赤丸も絶対安静だが大丈夫だ。ほら、俺の姉ちゃん獣医だからさ…さっきみてくれてたんだよ」

起き上がろうとするキバを慌てて止め、フタバはそばの椅子に腰かけた。

「…大変な戦いだったみたいだね」
「ああ…砂の奴が来てくれなけりゃやばかったかもな。お前が連れてきてくれたんだろ?ありがとな」
「私なんて何も…」

フタバは悔しくて悔しくてどうしようもなかった。
自分は怪我ひとつ負っていないのに、仲間はこんなにボロボロじゃないか。

「キバ、今転移したら辛い?少しでも楽になるならそうしたいんだけど…」
「俺そういえばしてもらったことないんだよ。せっかくだし、やってくれるか?」
「もちろん!」

フタバはキバの包帯の巻かれていない胸の上部分に手を当てる。
あまり一気にチャクラを転移しないよう、少しずつ少しずつと意識した。

「…すげえ、めっちゃあったかいな」
「痛いとか苦しいとかない?」
「ない。むしろ気持ちいいよ」
「よかった…」

キバは少し楽になったのか、心地好さそうにしている。
フタバはそんな顔を見れたのがとても嬉しかった。

「フタバ」
「どうしたの?」
「俺の腕が今自由に使えたら、お前のこの手をギューっと握りしめてるところだったよ」
「あはは、なにそれ」
「俺お前のこと尊敬してる。忍術使えないって悲しんでたお前が、いつのまにかこんな凄いことできるようになってるなんてな」
「…ありがとう」

フタバはキバのことが好きだ。
いつも真っ直ぐな言葉をくれて、真っ直ぐに接してくる。
同期の中でもかなり明るくて、周りの空気を和らげてくれる人。

「フタバ、俺はもう大丈夫だ。他の奴らのこと助けてやってくれ」
「…今チョウジとネジさんは手術中なの。ナルトはまだ戻ってない。命に別状なかったのはキバとシカマルだけだよ」
「…だったらシカマルのとこに行け。あいつ、リーダーだったから責任も感じてるだろうし」
「…私が行ったところでなにかかわるかな」
「かわるだろ。あいつお前のこと大好きだし」

思いがけないそんな言葉にフタバはボンッと赤面した。

「な、なな何言って…!」
「いやわかるだろ。明らかにあいつお前のこと好きじゃん。…え?まさかまだ告られてないの?」
「いや、えっと…」

好きだと言われたことはあるが、まさか他の人たちに知られてたなんて!
フタバはどうこの場を切りぬけようかダラダラと汗を流しながら考えた。

「わかりやすいなーお前。ほら、ってわけで行ってきな」
「…キバはもう大丈夫?」
「ああ。時間あったらまた見舞いにきてくれよ。俺もフタバに会えたら嬉しいし」
「わかった!次は美味しいもの持ってくるね!」

フタバはパタパタと病室から出て行く。

「…フタバ、俺もシカマルと同じ気持ちだよ」

そんなキバの言葉がフタバに届くことはなかった。


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