フタバはシカマルがいるであろう場所へ向かった。
かなり重体であるチョウジが治療を受けている部屋の前だ。
「シカマル、テマリさんも…」
予想通りそこにシカマルはいた。
下を向き、ひどく落ち込んでいるようである。
シカマルの正面の長椅子に腰かけたテマリは、そんなシカマルをあきれた様子でみていた。
「フタバ、こいつ自分のせいだって落ち込んでるんだ。精神訓練受けてないのか?こんなことでへこたれているようでは忍はやっていけない」
冷たく言い放つテマリだが、彼女なりに心配しているのだろう。
「…シカマル、チョウジやネジさん、キバが怪我したのもあなたのせいでは」
「俺のせいだよ」
珍しく、シカマルが声を荒げた。
「俺はチームのリーダーだったんだ。俺のやり方次第ではここまではならなかった。俺は今回皆を信じることだけしかできなかったんだ。気休めはやめろ」
「気休めなんて…」
「お前、フタバの優しさがわからないのか。フタバは自分が行けなくて悔しかったはずだ。それでもお前たちを信じ、怪我をして帰ってきたお前たちをいたわっている。そんな奴によくそんな口きけるな」
「テマリさん、いいんです…!」
今にもシカマルに殴りかかりそうなテマリをフタバがなだめる。
シカマルがここまで感情をあらわにしているのは初めてのことだ。
「俺は忍にゃ向いてねェ…」
シカマルはそう呟き、1人その場を離れようとした。
フタバが動けずにいると、シカマルの目の前にシカクがあらわれた。
「シカマルよォ。女の子に言い負かされて逃げんのかよ」
「口喧嘩なんかしたくねーんだよ。俺は女じゃねーからよ」
「ああ、けど男でもねェ。てめーはただの腰抜けだ」
シカマルは何も言わず、シカクの言葉を聞いている。
「お前が忍をやめても任務は続く。誰かがやらなきゃなんねーんだ。お前の仲間はまた別の隊長の下出動するだけだ。そこでお前の仲間は死ぬかもしれねェ…。だが、もしその時隊長がお前だったら仲間はそうならずに済むかもしれねェ」
シカマルはグッと唇を噛み締めた。
「本当に仲間を大切に思うならな、逃げることを考える前に仲間のためにてめーがより優秀になることを考えやがれ!それが本当の仲間ってもんだろうが!この腰抜けが!」
その瞬間、チョウジが治療を受けている部屋の扉がガラガラとひらき綱手が顔を出した。
「もう大丈夫だ。今回は助かったぞシカク。奈良一族の薬剤調合のマニュアルが役に立った。あれだけのモノを作り上げるのは大変だったろう。日頃の研究の賜物だな」
綱手が言い終わったころ、シズネが息を切らし走ってくる。
「日向ネジ、安全ライン確保しました!」
綱手とシズネの懸命な治療により、重傷だった2人はなんとか命をつなぎとめたのだ。
フタバはほっと胸を撫で下ろした。
綱手とシズネがいてくれて本当によかった、と。
「それと、つい今しがたはたけカカシとうずまきナルトの2名が帰還…。重傷を負っているものの命に別状はないとのことです」
一同はその言葉を聞き今回の任務が失敗したことを察した。
2人、つまりサスケは戻らなかったのだ。
「シカマル、どうやら任務失敗のようだね」
綱手に声をかけられたシカマルの肩は震えている。
「でも、みんな生きている…それが何よりだ」
「次こそは、完璧にこなしてみせます…!」
シカマルが涙するのを、フタバは初めて見たような気がした。
* * *
「いやー、にしてもフタバちゃんに強い言葉を使うなんてシカマルは今回のことがよっぽどこたえたらしいな」
シカマルが綱手と共に去って行った後、フタバとテマリはなぜかシカクと話をしていた。
「忍にとって任務失敗は必ず経験することだ。あいつは精神が弱すぎる」
「お、言うねぇ嬢ちゃん!ま、たしかにそうだけどな」
「で、でもシカマルは精一杯頑張ったからこそ悔しかったんだと思います。だから私はシカマルのことは尊敬して…」
「フタバ、ずいぶんあいつをかばうんだな」
「テ、テマリさん!そんなことないですよ!」
「フタバちゃんとシカマルは幼馴染だからな、人一倍理解もしてくれてるのよ。いつか幼馴染の枠を超え、奈良っつー名字を名乗ってくれると嬉しいんだがなー!」
「ほう、そういう間柄なのか。見過ごせないな」
「な、なんでこんな話に…!」
さっきまでのシリアスさはなんだったんだ、と言わんばかりの会話にフタバは慌てふためくしかできない。
テマリはテマリで我愛羅のライバルとなりそうなシカマルのことが気になるようだった。
「ま、とりあえずフタバちゃん。いつもシカマルの心配してくれてありがとな。あいつもいずれ立派な男になるさ。そんときゃあよろしく頼む!」
シカクはフタバのアタマをぐしゃぐしゃっと撫で、ご機嫌そうに去って行った。
「…なんだったんだろ」
「フタバ、お前ナルトのところに行かなくてもいいのか?」
「まだ大丈夫です。きっと今頃シカマルが話をしているだろうから…」
フタバの予想は当たっていた。
このときシカマルとサクラがナルトのもとを訪れ、サスケが大蛇丸の元へ行ってしまったという話をしていたのだ。
サクラはサスケが行ってしまったことにショックを受けはしたが、今回の自分の非力さを受け止め、成長することを胸に誓った。
そうしてサクラは医療忍者の道を志し、綱手への弟子入りを志願したのだ。
「テマリさん、今回は本当にありがとうございました。あなたがいてくれたからシカマルが助かったんですよね。私じゃ何もできなかった。本当に感謝しかありません」
「お前が呼びに来たからこそ私たちも早めに駆けつけることができたんだ。自分を卑下するんじゃない。お前は立派な忍だ」
「テマリさんは私に甘い気がします」
「そ、そんなことない!からかうな!」
「ふふっ!さ、時間もあることですしカンクロウさんと我愛羅誘って甘栗甘でも行きますか!」
「ああ、あの美味しい甘味処か。行こう」
フタバは楽しそうにテマリの手を引き走り出した。
しかし、その胸にはさまざまな想いが募っていく。
サスケのこと、大蛇丸のこと、もっと力をつけるべき自分のこと…。
そして、それは今回任務にあたった全員の忍にも当てはまることだった。
それぞれが己の力の向上を目指し、修行に励むことになるのである。
ナルトが自来也と共に木ノ葉を出て修行をすると決めたのもこの後すぐのことだった。
「テマリさん」
「どうした?」
「どうしたらより強くなれるか今度じっくり教えてください!」
フタバも、自分なりに強くなるために行動を開始するのである。