▽06

シカマル、いの、チョウジら3人に加え、イルカに言われた通りフタバも10班の担当上忍を待っている。

「どんな人かしらねー。どうせならイケメンがいいわ」
「優しい人だと嬉しいよね!」
「ったく、誰がきてもめんどくせぇよ。それに遊びじゃねぇんだ。上司みたいなもんだぞ」
「ふふ、緊張するね。しっかり挨拶しなきゃね!」


…バリバリバリとチョウジの食べているスナック菓子の音だけが響く。どのくらい待っただろうか。


「ちょっと!もう15分も経つわよ!」
「なにかあったのかな?私様子見てく…」
「おー悪ぃ悪ぃ、待たせちまったな」


その声につられ扉の方を見ると、タバコを口にくわえた背の高い男が立っていた。


「俺がお前たち10班の担当になったアスマだ。せいぜいよろしく頼む。お、あんたがフタバか。話は聞いてるぜ」


アスマと名乗った男はそう言うと4人に近付いてきて、フタバの頭に手を置いた。


「なんだ、えげつないチャクラの持ち主ときいていたからどんなゴツい奴かと思ってたんだが。なんのこたぁねえ、可愛い女の子じゃないか」
「か、可愛いなんて!そそそんなこと…」


言われ慣れない言葉に赤くなった顔を手で覆うと、アスマは豪快に笑った。


「ははは!新鮮な反応だねぇ。…さて、やけに睨んでくるお前は奈良家の坊主だな?短気は損気だぞ。じゃあお前らも自己紹介だ。まずはお前からな」


そう促され4人が自己紹介をする。(不機嫌な様子のシカマルはフタバに小突かれ名前だけ名乗った)
アスマははいご苦労さんとだけ言い、ドカっと椅子に座った。


「早速だが、お前らのことをテストする。それに合格したら晴れて下忍だ。フタバ、お前もこの班のメンバーとして参加しろ」
「そんなテストがあるなんてきいてないわよー!それに不合格したらどうなるっていうのよ!」
「まあ言ってなかったからな。不合格したら?そんなもん、アカデミーにもどされるにきまってんだろ」
「はぁ?ありえねぇ、なんでそんな面倒なこと…」
「黙れ」

いつのまにか火をつけていたタバコの煙をフゥと吐いたアスマに、4人は背筋が冷えた。

「忍舐めんじゃねぇ。俺のテストに合格できねぇような奴は実戦に出た時すぐに死ぬ。それともなんだ、受けることも諦めてアカデミーに帰るか?」


いのとチョウジ、フタバが少し怯んでいる中、シカマルがつかつかとアスマに歩み寄りくわえていたタバコを取り上げた。


「ここ禁煙。おい、お前らもさっさと行くぞ。アスマ、そのテストとやら受けてやる。どうせ外でやるようなことだろ。早く案内しろよ」
「…アスマ先生、な」


なかなか威勢のいい奴がいるじゃねぇか、とアスマは笑った。


* * *

10班の面々は、広々とした森の中にいた。

「こんなとこまで連れてきて、もしかしてアスマ先生と戦えなんて言うんじゃないでしょうねー!」
「まさか、上忍相手なんてボク達じゃ無理だよぉ…」


もしそんなテスト内容だったら、私が役に立てることは少ないんじゃと考えるフタバ。そんな様子を見たシカマルは、フタバの背中を軽く叩いた。

「お前がいれば、術を使ってもバテることはねぇ。自信もて」
「…うん!ありがとうシカマル、本当に優しいね」


ニコッと微笑んだフタバをみて、うるせぇと顔をそらすシカマル。その顔が少しだけ赤らんでいるのをアスマは見逃さなかった。


「(まったく、青春だねぇ)それじゃ、今からテスト内容を言い渡す。それは…」
「そ、それは…」



「鬼ごっこだ」



告げられた試験内容に、一同はポカンと効果音がきこえてくるような顔になる。


「お前たち4人が鬼。俺が逃げる。で、タッチできたらお前らの勝ち。制限時間は10時間。簡単だろ?」


あまりにも簡単すぎるテスト内容。しかし、10時間もあるとアスマにとっては不利になる。それは例え4人にかかってこられても逃げ切ることができるというアスマの自信の表れでもある。
メンバーの不安な様子に気付いたシカマルはニヤッと笑い3人を呼び寄せた。

「俺の作戦に従え。4人で絶対勝つぞ」


* * *


「おうおう、思ったよりも早く捕まっちまったな」


4時間半後、泥だらけになった4人の前でアスマがそう言った。疲れた様子も汚れた様子も全くない。
タッチしたのはフタバ。チョウジの誘導によりいのが心転身をアスマに仕掛け、それをアスマが避け失敗。しかし、その隙をついたシカマルが影縛りをした瞬間に潜んでいたフタバが出てきて彼の背に触れたのだ。


「いのの術を避けるのは想定内だった。何回かタイミング合わせるの失敗しちまったが、俺たち4人の作戦勝ちだ」
「なるほどね、はめられたってわけか。確かにお前らの勝ち。下忍として認めよう」


飛び跳ねて喜ぶフタバ、チョウジ、いの。木の幹に腰掛けるシカマル。


「フタバあんたのおかげよー!チャクラが回復できるなんて最強じゃない!ありがとね!」
「ほんとほんと!フタバがいればボクも何でもできるかもって思えてきたよ!」
「うるせぇなお前ら。フタバだって疲れてんだから静かにしろ」
「えへへ、皆の助けになれてよかった。こちらこそカバーしてくれてありがとね!シカマル、私なら全然大丈夫!まだチャクラも問題ないよ」



そんな4人を見ながらアスマは考えていた。


「(3人共やたら何回も術を使ってたが、それができたのはフタバのチャクラ回復の力を使ったからだろう。フタバありきの作戦だったが、自分たちの利点を最大限に活かすことは忍として大切だ。シカマル、やるな。…しかしフタバはとんでもないな。あいつが居るだけで戦況がひっくりかえっちまう。実力差もものともしない。しかもまだチャクラに余裕があるときた。こりゃ早いとこ対処考えねぇとまずいことが起きかねんぞ、火影さんよ)」


「アスマ先生」
「ん?なんだフタバ」


フタバはアスマのお腹あたりに両手を当てる。
その瞬間、アスマの身体が熱くなった。


「うお…これがお前の力か。やたらあったかくなるんだな。…にしても、こんなに一瞬でチャクラが回復するなんてことがあるのか。ありがとなフタバ」
「へへ…先生はそこまで疲れてないかもしれないけど、念のためです!私たちこそ、ありがとうございました!これからよろしくお願いします」


忍としてはまだ幼い、だが決して優しさを忘れないフタバを目の当たりにしてアスマは思わず笑みを浮かべた。


「おいお前ら、腹減っただろ?焼肉行くぞ!俺の奢りだ」
「ヤッターーーー!!!」



ここに、アスマ第10班が誕生した。
フタバと顔を合わせ力を体験したはじめての上忍、アスマ。
彼女にとって、彼は特別な存在となっていく。


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