▽07

「おうお前ら今日は初任務だぞ、気合い入れてけ。フタバもこの任務までは十班で行動だ。しっかりついてこいよ」
「はい!頑張ります!」


朝早く集合したせいで眠そうだった十班の面々は、初任務という言葉に目を輝かせた。


「アスマ、こいつ忍術使えねぇんだ。危険じゃねぇのか?」
「んなこたぁ承知済みだ。そんな時のために俺らが居んだろ。それともなんだ、お前はフタバのこと守る自信もねぇ腰抜けか?」
「…舐めんな。俺1人で十分だ。フタバ、俺から絶対離れんな」
「う、うん…心配かけてごめんね。なるべく迷惑にならないように動くから!」
「…無理すんなよ」


フタバを思いやる気持ちがうまく表現できなかった上にアスマに煽られたことでシカマルは苛立っていた。そんな様子を見てアスマは愉快そうに笑う。


「(そんなんじゃ惚れた女は振り向かねぇぞシカマル)」


* * *

「で、あの人の素行調査ってわけね?」


ターゲットとなる人物を遠く離れた建物の上から見下ろしながらいのが尋ねる。


「そうだ。依頼主である大名様の息子の彼女で中忍のくノ一なんだと。結婚したいと息子が言ってきたそうだ。他里の忍だが結婚を期に木ノ葉にきたそうで。一般家庭の出でもあるし、なんとか粗探して別れさせたいんだろうよ」
「そんなこと…本人同士が幸せならいいのに…」
「世界は綺麗なことばかりじゃない。皆がフタバみてぇに優しい人間ならいいんだがな。ま、ともかく中忍なら簡単にはいかない。心してかかれ」


そのアスマの一言で4人が二組にわかれターゲットの元へと向かった。いのチョウジ、シカマルフタバのペアだ。


「いのーボクお腹減っちゃったよ、少し休憩してもいい?」
「何言ってんの、まだ始まったばかりじゃない!ほらターゲットに動きがあったわよ。ん?家に入っていったわね。出迎えているのは…弟さんかしら?…5人も出てきたけど」
「沢山兄弟いるんだねぇ。いいお姉ちゃんって感じだよ」


ニコニコと微笑みながら兄弟と話すターゲット。

「おかえりねーちゃん!」
「ただいまー!ねーちゃんがいなかったからってイタズラしてないかしら」
「してねーよ!怒られるのわかってるし!」


どうやら両親にかわり兄弟を養っているようだ。
いのは首を傾げる。


「あれじゃ大変なんじゃない?小さい子も居るみたいだし…まさか大名様の息子と結婚するのはお金目当て?いやでもそんなことしそうな人には見えないけど…」
「もしそうだとしたら大名様怒るだろうね。でもボクそんなこと報告したくないよ」
「…もう少し調査してみなきゃね」


家全体を見渡せる位置で観察していた2人は湧き上がる嫌な疑念を振り払うように誰も見えなくなった家を見続けていた。


そんな中、シカマルフタバの2人は商店街を目立たないように歩いている。


「シカマル、ちょっとちょっと」
「なんだよ」
「あの人見たことあると思ったら、最近近くの商店街でよくお買い物してる人だ。もしかしたら今日も来るかも」
「…いってみるか」


という会話をしていたのだ。
数十分後、ターゲットが姿を見せた。小さい女の子と自分たちより少し年下くらいの男の子を2人連れている。恐らく兄弟だろう。彼らにも気付かれないようターゲットの後ろにつく。


「ねぇちゃん、このお菓子買っていい?」
「だーめ、そんな余裕ないでしょ」
「ちぇ、ケチンボー」
「でももうすぐたーくさんお金が手に入るの。そうしたらいくらでも買ってあげる!」
「え、ほんとー?やったー!」


嬉しそうな男の子をみてニコッと微笑むターゲット。シカマルはフタバにこっそりと話しかける。


「(フタバ、もしかしてこの人の言ってる金ってのは大名の息子と結婚するから手に入るってことじゃねぇのか)」
「(そんな風に思いたくないけど…)」
「(現状で考えるとそうなっちまう。もう少し様子をみよう)」


「ねえ」
「「!!!」」


気付くと彼女が目の前に立っていた。注意していたはずなのに、なんでもないという顔をしてこちらを見下ろしている。


「さっきから何かな?家の近くにも2人居たけど」
「えっと、その、あの…」

言いかけたフタバをグイッと自分の後ろにさがらせ、シカマルが口を開いた。

「すみません、俺ら勝負してたんスよ。里で見かけた人を適当にターゲットにして、より情報を集めた方が勝ちっていう。勝手に嗅ぎ回ってすみません、もうやめるんで」


咄嗟に思いついたにしては無難な言い訳だ。その言葉に続きフタバもコクコクと首を縦に振る。


「…それ嘘だよね。ここじゃ人も多いから少し離れたところに行こうか。あんた達は先にお家に帰ってて」


優しく兄弟に声をかけているにも関わらず殺気立つ彼女を前に、それ以上何も言えなかった。
中忍というものを少し侮っていたのかもしれない。シカマルはフタバの手を握るとターゲットの後について歩を進めた。



「ここまで来たら大丈夫でしょう。で、本当の所はなんなの?」
「なんだろうな、力づくできいてみるか?」


シカマルが挑発した途端、彼女が印を結んだ。


川辺に連れて来たのは彼女が水遁の術を使うから…!


「シカマル!!」


激しく渦巻く水の柱がシカマルめがけて彼女の手から放たれる。
なんとかそれを避けたが、足場が悪いせいでシカマルの体制が崩れた。右足から血が滲んでいる。


フタバを守りながら戦うのは中忍相手には難しい。いや、こんなん、たとえ1人だったとしても…。


躊躇なく降りかかって来る攻撃が徐々にシカマルにあたりはじめた。
シカマルの血を見て耐えかねたフタバが大声で叫ぶ。


「私たちはある人の依頼であなたを調査していました!あなたに不利なことは言いません!だからもう…!」
「フタバお前何言ってんだ!俺たちは忍だ、遊びでやってんじゃねぇ!命乞いしてる暇があるならどうすればいいか考えろ!」
「シカマル…」


怒鳴られたフタバはハッとし、自分が言ったことを恥じた。
そう、私は忍なんだ。こんなことで諦めちゃいけない。


「…あなた達の依頼主はどうせ大名様でしょ。私がお金目当てだとか思ってるのね。いいわよべつにどう思われようが」
「そんな、貴女本当に…」
「なんだっていいわよ、報告させなければいいだけの話でしょ!!」



彼女はさらに水柱を作り出すと、シカマルとフタバに放った。


術者であるターゲットが見えなくなるくらい大きな水柱は、轟々と音を立てて襲いかかる。


が、その大きさが仇となった。視界が悪くなったターゲットの隙をついてシカマルが影真似の術を仕掛け水柱の軌道を変えたのだ。
それに気付かないフタバはなんとかシカマルを助けようとターゲットに飛びつき、彼女を押し倒した。影で繋がっているシカマルは釣られてバランスを崩し、自分が倒れたせいで水柱がフタバに向いてしまったことに気付いた。


「フタバ!!!!」



一瞬の出来事だった。
気付けばアスマがフタバとターゲットのくノ一を小脇に抱え立っている。
巨大な水柱は、消えていた。


「ア、スマ…?あんたが水柱を?」


呆然とした様子でシカマルが尋ねる。
いつもは飄々としているアスマが眉間にしわを寄せ
顔をしかめていた。


「いや、流石にやばいと思って出て来たんだが俺は何もしちゃいねぇ、こいつらを移動させただけだ。
…どうも俺にはフタバが水柱を消したように見えたね」


抱えられたまま気絶しているフタバをチラッと見ると、くノ一が口を開いた。


「…この子が抱きついてきた途端、急速にチャクラが無くなった。まるで吸収されてるみたいに。この子は…いったい…」


* * *

くノ一とはアスマが話をつけた。
彼女は本当に愛しているから彼と結婚したいのだが、身分の違いからよく疑われていたそうだ。
近々お金が入るというのも、長期間行なっていた任務が無事完了しその報酬が振り込まれるからというものだった。
彼のためなら忍を辞める覚悟もある。それで兄弟を連れて砂隠れの里から木ノ葉まで来たらしい。
大名にはその通りに伝えるということで、尾行していた旨を謝罪した。


「それにしても、その子すごいですね。なんとか少しずつ回復してきましたけど、チャクラを一気に取られちゃいました。そのおかげで貴方達2人を殺さずに済んだんですけどね」


ニコリと微笑むくノ一に、シカマルは苦笑いを見せた。


相変わらず目を覚まさないフタバを見て、アスマが口を開く。


「よし、あいつん家に行ってみるか」


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