そういう愛もある


「いや確かに俺が悪かったよ。でも真選組がでてくるのはちがうじゃん。まじで逮捕されかねんやつじゃん」
「今回ばかりはあのサド野郎の肩を持ちたかったアル」
「そうですよ、しばらくの間檻の中にいればよかったのに」

突然現れた沖田に問答無用でひたすらしばかれた銀時は、ひたすらいじけていた。

沖田は仕事があるからと先程帰宅したが、また戻ってくるんじゃないかと気が気ではない。

しかし神楽も新八も銀時をなぐさめはしなかった。

まだ彼がましろにしたことを、2人は許していないのだ。

「自業自得ネ。ましろに手を出そうとしたこと、死ぬほど後悔するとヨロシ」
「まあまあ神楽、そう厳しいこと言いなさんな。私の美しさも罪だったのよ」

銀時の傷を手当てしながら、当の本人であるましろがそう言う。
一度は銀時を許した手前、沖田をけしかけた形になったのが少し申し訳なかったのだ。

「総悟は私のことになるとムキになっちゃうからね。可愛いやつなのよ」
「沖田さんまで手懐けてしまうとはましろさんは本当に人たらしですね」
「なに、新八ってばそんな風に私のこと思ってたの!人たらしってなんかいいね!へへ!」
「へへって……そのせいで色々面倒ごとに巻き込まれているんでしょうに」
「うぐっ……ま、まあねぇ……」

たしかにそうだった。
ましろから好かれていると勘違いしたスナックお登勢の客が告白してくることは少なくない。断っても照れ隠しだろうとしか思われないのだ。
おかげで足しげくスナックお登勢に通ってくれはするのだが、一歩間違えればストーカーになりかねない。

「厄介な常連も多そうアル」
「んー、いるにはいるけどさ。
でも何故かそういう人っていつのまにか来なくなるのよね」

神楽と新八はましろの隣に座る銀時に目をやる。

「あ?ンだよ。なんで俺見るんだ」
「いや、銀ちゃんが人知れずそういうやつらを始末してるのかと」
「あ、僕もそう思いました」

銀時はンなわけねーだろ、とそっぽを向く。
ましろはなんのこっちゃ、と首を傾げた。

「始末って、一体なんの話してるの?」
「ましろは鈍感ネ。始末は始末ヨ!お命頂戴する!ってやつ」
「それこそ檻ん中いれられんだろ。まじで銀さんはなにもしていません。濡れ衣だ」

ではなぜ厄介な客が消えるのか。
ましろは特に気にならないようだが、神楽と新八は興味を持ったようだ。

「ましろのことを好きで好きでたまらない、危ない奴がいたりして!
自分以外は邪魔者だ!ってひっそりと敵を消してるんだヨ、きっと」
「神楽ちゃん、さすがにそんな短絡的な……」
「リーダー!俺は危ない奴ではないぞ!」

突然聞こえてきた声に万事屋の3人とましろは目を丸くした。

声の主がパーン!と戸を開け居間に入ってくる。

「我が名はキャプテンカツーラ!その正体は誰も知ら」
「桂さん何やってんですかあんた」

新八の冷めたツッコミに桂はムッとした顔をしたが、すぐさまましろの前にずいっと身を乗り出した。

眼帯をし、海賊のような格好をしたキャプテンカツーラはいかにも怪しい。

「ましろ、厄介な客はこの俺、キャプテンカツーラが追い払っていたんだ!それもお前の身を案じていた故……許してくれ。しかもましろに手を出すなと声をかけていただけで、暴力はふるっていない。俺は危険人物なんかじゃないからな」
「そんな格好で声をかけるって、もうその時点でめちゃくちゃ危険人物ですよ……」
「新八の言うとおり普通にやばい奴ネ!こんなんがましろの仲間と思われたら、そりゃ近付かなくもなるヨ」

ましろは苦笑いしているが、銀時は鬱陶しそうに顔をしかめている。
わざわざそんなことをするということは、つまり桂もましろに何かしらの感情を抱いているのだと思ったからだ。

「んだよヅラ、てめぇましろに近寄んじゃねぇ」
「なんだ銀時、嫉妬か。男の嫉妬は見苦しいぞ」
「あ?嫉妬じゃねぇ、警告してんだ。お前ましろの親衛隊長が誰だかしらねぇのか?」
「なんだ、親衛隊長とは」

ましろは銀時の発言にヤレヤレと首をふる。
まるで子ども同士の喧嘩を見ているようだ。

「親衛隊長は親衛隊長だよ。いいかヅラ、ましろはあの真選組1番隊隊長、沖田総悟にめちゃくちゃ好かれてるんだ」

何故か誇らしげにそう言う銀時を、新八と神楽、定春までもがシラけた目で見た。

「さっきまでその親衛隊長にしばかれてた奴がなんでこんな偉そうアルか」
「神楽ちゃん、これは手本にしちゃいけないタイプの大人だよ。良い例がすぐ側にいてよかったね」

神楽と新八の言葉をあえて耳に入れないようにしている銀時は

「だからヅラ、ましろのことは諦めろ」

とさらにせまる。

「銀時、なんて情けないザマだ」
「はぁ?」
「そうであろう。お前はライバルが増えるのを恐れているのだから」
「……てことはやっぱりお前もこいつのこと」
「ああ、その通りだ。俺はましろを好いている」

桂のその発言に、ましろは目を丸くした。

「え、ちょっと桂さんそれ本気で言ってるんですか……?私を好きって、え、マジ??」
「マジだ。伝わっているものとばかり思っていたんだがな」
「ライクじゃなくてラブのほう?」
「そのどちらかで答えるなら、ラブだろうな」
「……つ、つまり私と付き合いたいってことですか?」
「はぁ?」

「はぁ?」とはなんだ「はぁ?」とは。
好きだと言ったくせに、なぜそこで桂に引かれたのかわからないましろは丸くなっていた目を細めた。

「ヅラ、お前何が言いたいんだよ」
「銀時、俺はお前と同じ気持ちだと言いたいだけだ。わかるだろう?」
「いや、わかんねえって。俺と同じだとしたら付き合いたいだろ。そりゃもう今すぐにでもましろといちゃいちゃしたいだろ」
「え」
「え?」

桂は信じられないと言いたげな顔で、オーバーにのけぞってみせた。
いつの間にか部屋にいたエリザベスが倒れ込みそうな桂を支える。
『お気を確かに!』というプレートをかかげながら。

「ぎ、ぎ、銀時!!貴様ましろのことをそんな目で見ていたのか!?なんということだ!!」
「うるっせぇな!!最初っからその体で話が進んでんだよ!ましろだって俺がそういう目で見てること知ってんの!なあましろ!!」
「え!?は、はい!そうですね!」
「銀さん、それセクハラになりかねないんで本人に話を振るのやめてあげてください」

新八の言葉にぶんぶんと首を縦に振るましろは今すぐにこの家から出ていきたい思いだった。

「あーもうごちゃごちゃうるさいネ。ヅラ、結局お前はましろのことどういう意味で好きアルか?そこんとこハッキリさせてもらおうじゃねーか、おう?」
「輩だ、輩がいるよ」

しかし神楽の言うことはもっともだ。
ライクではなくラブ。しかし付き合いたいわけではない。
そんなことを言う桂はましろをどういう目で見ていると言うのだろうか。

「簡潔に言えば、俺はましろのことを妹のようだと思っている。家族愛、という言葉がぴったりかもしれないな」
「か、家族愛?」
「そうだ。これはライクを超えてラブだろ?」
「私、桂さんと年齢そんなに変わらないですよ」
「関係あるものか。お前は守ってあげたくなるような存在なんだ。ほーらお兄ちゃんに好きなだけ甘えていいんだぞぉ!」

両手を大きく広げた桂の頭を銀時がスパーン!といい音を立てながら叩く。
エリザベスも『しかたない』と銀時の行動に納得したようだった。

「ましろ、改めて色々大変ネ」
「あはは……まあでも、私兄弟いないし少し嬉しい気持ちはあるかな。それに桂さんって面倒見いいし素敵なお兄ちゃんになりそう」
「では今日から俺は正式にましろの兄ということで」
「ということで、じゃねーよ!俺はお前を義兄とは認めませんからね!!」
「銀時の許可などいるものか!むしろましろと付き合いたいなら俺の許可を取れ馬鹿者!!」

新八と神楽、エリザベスに定春までもが大人2人の言い合いに呆れ返り、ましろの肩をポンっと叩いた。

「今後も僕たちが相談相手になりますからね」
「ましろのこといつでも守ってあげるヨ」
「お父さんとお母さんのような安心感」

自分より年下の神楽と新八に励まされたましろは笑いながらそう呟くのだった。


(ほんっと退屈しない毎日だわ)

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